羊と鋼の森
宮下奈都/文藝春秋/Kindle
天才調律師との偶然の出会いに触発され、みずからもピアノの調律師として生きてゆくことに決めた青年が、まわりの人々の薫陶を受けつつ成長してゆくさまを描いた青春小説。
ピアノという楽器はフェルト(羊の毛)でできたハンマーでスチール(鋼)製の弦をたたいて音を出すのだそうで、北海道の山奥で生まれ育った主人公がそんな楽器を調律するという未知なる世界へと迷い込んでゆく──というのがタイトルの由来。
でもその内容とタイトルから『ピアノの森』を連想するなってのが無理な話だし、その点ややオリジナリティに欠ける印象を受けてしまった。
物語的にも、ピアノとまったく縁のなかった主人公がたまたま調律師の仕事を間近で見たことから、ある日突然、調律師になろうと決心する冒頭や、仕事で出むいたお宅で才能あふれる女子高生の美人双子姉妹のと仲良くなるって展開などには、どうにも書き手の不自然な作為を感じてしまって、いまいち手放しで褒める気になれない。なんで日本の小説だとこういう感じ方をすることが多いのか、われながら不思議。
でもつまらなかったかというとそんなことはなく。ピアノの調律師という職業に関するうんちくの数々にはとても興味深いものがあったし、なんだかんだいって、それなりに楽しく読むことができた。単にあまのじゃくな英米文学オタクの目線からすると、いろいろ無邪気すぎる印象があったというだけの話。
ちなみにこの本を読んでみる気になったのは、本屋大賞を受賞したのを知っていたのに加えて(映画化されていたのは知らなかった)、よくあるパターンでKindleのディスカウントで安く買えたからなのだけれど、あとから聞いたら、うちの子が文庫本を持っていた。しまった、ただで読めたじゃん──。
でもまぁ、では自分の積読を放っておいて、わざわざ娘の本を借りて読むかというと、そこまでの興味はなかったから、まぁよし。読書自体は適度に楽しかった。
(Jan. 05, 2019)