ある作家の夕刻 フィッツジェラルド後期作品集
F・スコット・フィッツジェラルド/村上春樹・編訳/中央公論新社
村上春樹氏のセレクションと翻訳によるフィッツジェラルドの五冊目の短編集。
今回の作品はタイトルの通りでフィッツジェラルド後期の短編とエッセイを集めたもので、注目すべきは春樹氏が翻訳家として最初に手がけたエッセイ『マイ・ロスト・シティー』が『私の失われた都市』というタイトルで訳し直されていること。
新しく翻訳するのはいいけれど、なぜにタイトルが変わっているのかはよくわからない。まぁ、おそらく過去の翻訳と区別するためなんだろうけれど、でも『ライ麦畑でつかまえて』を『キャッチャー・イン・ザ・ライ』として訳した春樹氏が、今度は自分の翻訳に逆変換をかけて、カタカナから日本語のタイトルにするのって、なんとなく一貫性が欠けている気がしなくもない。
新訳となって内容的によくなった――かどうかはわかりません。読み比べていないので。
そもそも、その作品に限らず、そのあとに収録されている『壊れる』からの三部作なども一緒で、基本的にフィッツジェラルドのエッセイって美文すぎて、僕にはちょっとついてゆけないところがある。スタイリッシュかつ華美すぎて、心にすっと入ってこないというか。
ちなみに、この短編集に収録されたほとんどの作品は、過去に荒地出版社から出ていたフィッツジェラルド選集などで読んでいると思うのだけれど、内容的にまったく覚えていなかったので、初めて読むも同然だった。
唯一「これを読むのは初めてじゃないか?」と思ったのが『風の中の家族』で、そのスタインベック的な世界観がフィッツジェラルドにしては意表をついていて新鮮だった。
(Feb. 01, 2020)