筒井康隆コレクションI 48億の妄想
筒井康隆/日下三蔵・編/出版芸術社
装丁が気に入って刊行開始当時(もう六年も前だ)から気になっていた筒井康隆の絶版作品を集めたコレクションをいまさら買って読み始めた。編集は山田風太郎関連でおなじみの日下三蔵氏。
第一巻に収録されているのは長編『48億の妄想』と中編『幻想の未来』。あとマニアックな復刻ものとして、筒井さんが豊田有恒、伊藤典夫の両氏とともに執筆した小学生向けのSF入門書『SF教室』と、筒井一家(たぶん四兄弟とご尊父)で自主制作したというSF同人誌『NULL』の1~3号に収録された筒井氏作の短編とショートショートが収録されている。
『48億の妄想』と『幻想の未来』については高校生のころに読んでいるので再読なのだけれど、さすがにそれからもう四十年近くも過ぎているので、内容は百パーセント忘れていた。でもどちらもすごい。
『48億の妄想』は国民総テレビ出演者みたいな世界で、李承晩ラインにまつわる日韓対立がスラップスティックな擬似戦争を引き起こすという話。道具仕立てこそ古びているけれど、内容は現代に置き換えても十分に通用する。――というか、ユーチューバーがセレブ化し、日韓関係が戦後最悪といわれるいまだからこそ、なおさらビビッドに感じられるところがあった。終盤の破滅的な展開がいかにも筒井節だ。長編デビュー作にしてこのテンションってのがすごい。
『幻想の未来』は核戦争後の人類の進化(退化?)を描いた中編(というか連作短編)で、ページ数こそ少ないけれど、素晴らしく手ごわい。でもってその着想がすさまじい。SFの黎明期に二十代にしてこれを書いていた才能には感服するしかない。
『SF教室』も子供向けとはいえ、SFの門外漢にとってはなかなかためになる作品だし、『NULL』の短編郡もアマチュアの習作といえ粒揃い。筒井康隆が最初から天才だったことを知らしめる一冊だった。
それにしてもこのような天才作家の長編デビュー作が絶版になっていることにびっくり。大友克洋のマンガもすべて絶版になっているみたいだし、こんな調子で日本の出版界は大丈夫なのかと心配になってしまう。
あと、『48億の妄想』(1965年刊行)のタイトルになっている世界の人口が、五十五年後のいまや80億近いという事実にも考えさせられるものがある。
(Apr. 01, 2020)