カササギ殺人事件
アンソニー・ホロヴィッツ/山田蘭・訳/創元推理文庫(全二巻)
二年前の海外ミステリ系の人気投票で上位を独占していた作品。あまりに本が読めなくなってしまったので、こういう大人気作品ならば楽しくサクサク読めるかなと思って手を出してみた。
で、読んでみて納得。これはミステリ好きに絶賛されたのがよくわかる。
物語は主人公の女性編集者が担当する人気ミステリ作家の最新作の原稿を読み始めたところから始まる。
その作品のタイトルが『カササギ殺人事件』。でもって、この文庫本の上巻はその作品の内容を語ることに丸々一冊を費やして終わる――のだけれど。
なんとこの作品、肝心の結末が欠落している。作中の名探偵が殺人事件の衝撃的な事実をほのめかしたところで作品はぷっつりと途切れてしまう。
結末のないミステリを読まされて、だれが我慢ができるかよって話で。
当然のごとく主人公の編集者スーザンは作品の結末部分がどうなったのか、作者に問い合わせようとするのだけれど、なんとその直後に彼女のもとにその人、アラン・コンウェイが自殺したという知らせが届く。
あまりにも不自然なその訃報を前にして彼女は作家の死が本当に自殺だったのか、そして『カササギ殺人事件』の結末部分はどこにあるのかを探し求めて、あまたの関係者のもとを訪ねて歩くことになるのだった。
いやぁ、アガサ・クリスティーへのオマージュたっぷりの作中作と、その秘密を巡って繰り広げられる本編の二重構造が画期的に上手い。ミステリとしては文句なしの出来だと思う。絶賛する人がたくさんいるのもわかる。
ただ、僕にはこの本は翻訳がいまいちだった。あきらかに全編が過去の話であるにもかかわらず、時制に現在形を多用しているせいで冒頭から妙なすわりの悪さがあるし、女性の一人称の語りがいまいち女性っぽくないところにも違和感があった。
そんな文体のせいか、はたまた単に作品の性格なのか、個々のキャラクターがとりたてて魅力的と思えないのもマイナス要素。着想の見事さには敬意を表すれど、京極夏彦の作品や『ミレニアム』シリーズのように繰り返し読みたいと思うほどではなかった。続編の『ヨルガオ殺人事件』もつい一緒に買ってしまったけれど、これを先に読んでいたら買わなかったかも……。
(Nov. 15, 2021)