ワニの町へ来たスパイ
ジャナ・デリオン/島村浩子・訳/創元推理文庫/Kindle
任務に失敗して犯罪組織から命を狙われるようになったCIAの女性工作員が、しばし潜伏することになったルイジアナの田舎町で、癖のある住民たちと繰り広げるどたばた騒ぎを描いたコメディ・タッチのミステリ・シリーズの第一作。
ニューオリンズに憧れるうちの奥さまの影響で、僕も漠然とアメリカ南部には興味を持っているので、たまたまディスカウントになっていたのをみつけて買ったのだけれど、これが意外とおもしろかった。
内容はかなりB級で、謎解きよりも笑い優先って作品だけれど、それゆえに肩ひじはらずに楽しく読めるのがいい。ちょうどソニマニにゆくため往復一時間近く電車に乗る機会があったので、行き帰りの電車で読んでいたら盛りあがってしまい、そのまま週末の土日で読み終えた。最近は電子書籍を読むのに平気で一ヵ月以上かかるのがあたりまえになっているので、一週間以内に読み終わったのはプチ快挙だ。
まぁ、それほどこの作品がおもしろかった――というか、読みやすかったということでもある。笑いのためにリアリティを度外視しているところがあるので、これってミステリというよりもラノベに近いんじゃないかと思う。
物語は主人公のレディング(通称はフォーチュン、ファーストネームはまだ不明)がルイジアナのシンフルという町で最近亡くなった女性の遺産相続人だといつわって、その町にしばらく滞在することになったところから始まる。
任務で悪党を殺してしまい、懸賞金をかけられた彼女は、その土地に身を潜めて静かに暮らすはずだった。
ところが到着したその日に、河を流されてきた人骨の第一発見者となったことから過去の殺人事件の捜査に巻き込まれ、またアイダ・ベルとガーティというふたりの元気なお婆ちゃんたちやイケメン保安官と知りあったことで、彼女の隠密生活は初日からトラブルの連続に見舞われることになる。
主人公の嘘がばれる、ばれないでハラハラさせて笑いを誘うというのはシットコムの定番だと思うので、トラブルメーカーの美人CIAエージェントが元ミスコン女王の司書だと身分を偽ってアメリカ南部の小さな町に乗り込んでゆくというこの小説の設定はもう最初から完全にコメディのそれ。あとはその緩いムードを楽しめるかどうかが評価の分かれ目でしょう。
僕は十分に楽しませていただきました――まぁ、小説というよりマンガを読んでいるみたいな気分だったけれど、ゆえにとても楽しかった。いずれ続編も読むと思う。
(Sep. 11, 2022)