あんときのRADWIMPS:人生 出会い編
渡辺雅敏/小学館
前の『甘美なる来世へ』があまりに手強かったので、さくっと読める本が読みたくて選んだRADWIMPSのバンド・ヒストリー本の第一弾。この本を読み終えて一週間もしないうちに第二弾の刊行が発表された。なんてタイミングがいいんだ。
この本は、筆者の渡辺雅敏という人が、レコード会社でのラッドの初代宣伝担当者だというのが肝だ。バンドの伝記本は数あれど、レコード会社のいち社員の目を通じてデビューからブレイクまでの裏舞台をつまびらかに活写してみせた本って珍しいのではないかと思う。
理想のバンドを手がけたいと新人バンドを探していた渡辺氏がRADWIMPSという稀有なインディーズ・バンドと出逢い、競合他社との争奪戦を制して契約をとりつけ、無事メジャー・デビューを果たしてから三枚目の『アルトコロニーの定理』をリリースするまでの流れが、バンドに極めて近い――それでいて当事者ではない――関係者の視点から描かれていく。その視点が僕にはとても新鮮で刺激的だった。
まぁ、僕はファンだから楽しめて当然かもしれないけれど、この本ってラッドを知らない人が読んでも十分におもしろいんじゃないかと思う。そんなことないのかな。
いやしかし、野田洋次郎がかつて『ラリルレ論』で語っていた思い出話と、ここで渡辺氏が語るラッドの歴史は相当に印象が違う。書き手の視点が変わるだけで、ここまで印象が変わるのかと。僕にはそこがいちばん興味深かった。
まぁ、洋次郎がツアーのあいまに、思いついたことをつれずれに綴ったエッセイ集と、はじめからバンドの歴史を語る目的で第三者によって書かれた文章では、イメージが違っていてあたりまえなのかもしれないけれど、それにしてもなぁ……ってくらいに違うのが、洋次郎のお父さんの印象。
洋次郎が愛憎あいなかばさせながら(どちらかというと「憎」を激しく発しつつ)語っていた傲慢で暴力的な父親像が嘘のように、この本で渡辺さんの目を通して描かれる洋次郎のお父さんは魅力的だ。そりゃもうびっくりするほどに。
びっくりしたといえば、うちの奥さんに「いまラッドのレコード会社の人が書いた本を読んでいるんだけどさ」とか話しかけたら、即座に「山口さん?」という返事が返ってきたのにもびっくりした。
渡辺氏の同僚としてこの本にも名前が出てくるラッドのディレクターの山口一樹という人は、なんとうちの奥さんの社会人時代の先輩の従弟なんだそうだ。
つまり僕の妻の知人の親戚の仕事仲間が野田洋次郎ということになる。
知りあいの知りあいを六人たどれば世界中のすべての人にたどり着くというような話があるけれど、もしかしたら本当なのかもしれない。
(Oct. 24, 2022)