2022年12月の本

Index

  1. 『ひどい民話を語る会』 京極夏彦・他
  2. 『終りなき夜に生まれつく』 アガサ・クリスティー

ひどい民話を語る会

京極夏彦・多田克己・村上健司・黒史郎/KADOKAWA

ひどい民話を語る会

 京極夏彦がそのタイトル通り、友人らとともにひどい民話について語った対談集。
 ひどいってどういうことかと思ったら、全三部構成のうち、もっとも長い第一部はほぼすべて下ネタ――うんことかおならとか――の話ばかり。えー、そういうひどさですかっ。
 桃太郎にもさまざまなバリエーションがあって、そのうちのある地方の話では、お婆さんが川へ洗濯にゆくのは、お爺さんがお便所に落ちたから、糞尿まみれになったその着物を洗うためだとか。ううん、そりゃ確かにひどいんですが。
 柳田國男先生は上品な人だから著作ではほとんど取り上げなかったけれど、じつは日本の民話はそういう下世話でくだらない話であふれかえっているんですよって。そういうのを民俗学オタク男子(のなれの果ての中年親父たち)が集まってやんやと盛り上がっているという。――そういう困った本。
 京極夏彦のファンなので、先生のかかわった書籍はほとんど読んでいるし、興味のない話題でもたいていは楽しく読ませていただいてきたけれど、これは読まなくてもよかったかも……と思わされたはじめて一冊だった。
 ゆえにあまり語るべきことがない。
(Dec. 26, 2022)

終りなき夜に生まれつく

アガサ・クリスティー/矢沢聖子・訳/クリスティー文庫/早川書房/Kindle

終りなき夜に生れつく (クリスティー文庫)

 2022年最後にして通算八十五冊目のクリスティー作品。このさき月一のペースで読んでゆけば、来年にはついに全作品コンプリートだっ!――って、まぁ、いまの僕の読書ペースでは、たぶんそうは問屋が卸さない。
 いやしかし、これくらい読んでくるとクリスティーの作風にすっかり慣れてしまっているので、この作品は冒頭部分でほぼ話の筋道が見えてしまった。あぁ、これはまたあの手の話なんだろうなぁと。
 そしたら、やはり。
 予想通りの結末にたどり着く、僕にとっては予定調和な作品。
 物語は〈ジプシーが丘〉と呼ばれて過去に不幸な事件があったと噂される屋敷のそばで恋に落ちた男女が、その屋敷を買い取って新婚生活を始めるも、やはり彼らにも不幸が……というオカルト仕立てのノンシリーズのサスペンス・スリラー。
 主人公カップルのイージーすぎる恋愛劇というのはクリスティー作品ではおなじみだけれど、この作品のそれは過去いちばんに極端な気がする。主人公のマイクとヒロインのエリーが出逢う印象的なシーンこそあれ、その後のふたりが恋に落ちるまでの説明がいっさいない。この人たちはいつ恋に落ちたんだろうとびっくりするくらい。おかげでふたりの関係性にもいまいち説得力がない。
 この作品の刊行は1967年だから――おぉ、つまりこれは僕が生まれてから刊行された初めてのクリスティー作品なわけだ――1890年生まれのクリスティーは、このときすでに七十七歳。さすがにその年になると説得力のある恋愛劇を書くのは無理だってことなのかもしれない。本職の恋愛小説家ならばともかく、クリスティーの本領はそこではないわけで。
 なんにしろ恋愛劇に端を発するサスペンス・スリラーなのに、肝心の主人公ふたりの関係性がいまいちしっくりこないのが致命的。過去の陽気な恋愛ミステリではそのお気楽さが魅力となる場合もあったけれど、この作品は全体的にダークな作風だから、そのあまさがそぐわない。苦味の効いた結末は悪くないけれど、個人的にはそれほど強く惹かれなかったので、『クリスティー完全攻略』でこの作品が五つ星の傑作と評価されているのには驚いた。
(Dec. 29, 2022)