十二月の十日
ジョージ・ソーンダーズ/岸本佐知子・訳/河出書房新社
初めて読むテキサス州生まれのアメリカ人作家の短編集。
この単行本の帯には翻訳家の岸本佐知子さんの「これほど親しみやすく、これほど共感を呼び、そしてこれほど笑わせてくれる小説家は、ちょっと他にいない」という、あとがきの一節が引用されている。
でも、意義を唱えるようで恐縮だけれど、僕にはこの本はそれほど親しみやすくなかったし、それほど共感も呼ばなかったし、そしてほとんど笑えなかった。
昨今のアメリカ文学のつねで、この短編集で描かれるのは人生の落後者か、落伍者とはいえないまでも成功とは縁のない人たちばかりだ。それぞれに問題を抱えた人たちが、なんらかのトラブルに見舞われて難儀するという救われない話ばかり。決して嫌いではないのだけれど、これのどこに笑いを見い出せと?
まぁ、ウディ・アレンの『マッチポイント』や『夢と犯罪』などの暗いテイストのクライム・コメディと同系統といえばいえなくもないので、読む人が読めば笑えるのかもしれない。少なくても僕には無理だった。
なのでいまいち乗り切れなくて、なかなかページを繰る手がはかどらなかったのだけれど――。
最後の表題作『十二月の十日』、これは掛け値なしに素晴らしかった。これまでに読んだ短編小説のうちで十本の指に入る。これ一編だけでもこの本を読む価値あり。
あまりによかったのであらすじとか書きません。ネタバレ厳禁で、なにも知らずにゼロから読むべき逸品。
タイトルの『十二月の十日』にあやかって十二月に読み始めたのに、一か月遅れで年が替わってから感想を書いているのは不徳の致すところです。
(Jan. 14, 2023)