こうしてお前は彼女にフラれる
ジュノ・ディアス/都甲幸治・久保尚美・訳/新潮クレスト・ブックス/新潮社
「フラれる」というと、好きな人に告白して「ごめんなさい」といわれるイメージだけれど、この本のフラれ方はちょっと違う。
そもそも日本のように告白してから交際が始まるというパターンは世界では少数派だそうで、たいていの国では好きだなんだという前にデートしてすぐに寝てみて、相性がよければそのままおつきあい、みたいなのが主流らしい(本当かどうかは知らない)。
ということで、『こうしてお前は彼女にフラれる』と題したこの短編集の男女関係もまさにそんな感じ。ほぼ全編がユニオールという男性を主人公にした女性遍歴を描いているけれど――ひとつだけ女性が主人公の話がある――どの話もとりあえずやることをやったあとで、彼の浮気性やらなにやらが原因で関係が破綻するという話ばかりだ。
そこまでたくさんの女性とつきあえるんならば、それはそれで幸せなんじゃないかと思ってしまうけれど――その文学的素質により孤独な青春時代を過ごしてたにせよ、最終話では大学で講師を務めたりしているから、人生の落伍者と呼ぶのはいささかふさわしくない――でもひとつとしてうまくいかない失恋話ばかりが並んでいるので、そこにはやはりどうしようもない喪失感が漂っている。また、複雑な思いを寄せていた兄を若くして癌で失ったことが癒えない傷として全編にわたってうずいている。
作者は『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』のジュノ・ディアス(ユニオールはあの作品の語り手のひとりだったそうだけれど、僕は当然そんなことには気がつかない)。あの作品で再三繰り返されていた――でもオタクなおくての主人公ゆえに表面化していなかった――ドミニカ人の性的な奔放さに改めて焦点を当てたのがこの本って印象だった。
『オスカー・ワオ』はオタクのサブカルねたを随所に盛り込むことで重い話にポップな装飾を施していたけれど、この本はそういうオタク性が皆無な上に、短編集だからひとつひとつのエピソードが短い分、一編ごとの喪失感が徐々に積みあがって脹れてゆくようなやる瀬なさがある。あの長編とはまた違った感触を残す作品に仕上がっている。
(Aug. 05, 2023)