塗仏の宴 宴の支度
京極夏彦/講談社文庫
『鵼の碑』が十七年の空白期間をへて、ついに刊行決定!
――ということで、京極ファンにとっては一大事であるその発売日を待つ間に、新作の発売を記念して、文庫版を買ったまま積読になっている旧作四編を一気に読んでしまうことにした。すっかり内容も忘れていることだし、ちょうどいい。
ということでまずは『塗仏の宴 宴の支度』から。
続編の『宴の始末』とあわせて怒涛の二千ページ越え、登場人物もやったらと多い作品なので、今回は備忘録的な意味でもって、あらすじをざっとまとめる。以下、二十五年前に初めて読んだときに書いた文章に手を入れたもの。
全六章で構成されたこの作品は、それぞれの章で別々の人物を中心に異なった物語が進行する。すべてに共通するのは催眠術による人格操作。各々のキャラクターが自らのアイデンティティを揺さぶられながら、怪しげな洗脳集団の手によって翻弄される。
まずは関口巽。一話目の『ぬっぺっぽう』では、鳥口君の上司・妹尾により光保公平を紹介された彼が、五十名からの村民すべてが失踪したという伊豆韮山のある村の取材に赴き、怪しげな郷土史家・堂島静軒と出会って、なにやら窮地に陥る。
次の『うわん』の主役は『狂骨の夢』の朱美さん。彼女が助けた自殺志願者・村上兵吉を巡って、「みちの教え修身会」(代表は磐田純陽)やら「成仙道」(教祖は曹方士)なる怪しげな教団が登場。さらに尾国誠一なる謎の薬売りも姿を現わす。
第三話の『ひょうすべ』はふたたび関口君の回顧談。京極堂の同業者・宮村香奈男の紹介により、みちの教え修身会に悩まされる女性・加藤麻美子の話を聞く。ここでは新たに霊媒師・華仙姑処女が京極堂によって紹介され、彼女にからんで尾国の悪行が暴かれる。この一章だけで起承転結がはっきりしていて、京極堂による謎解きも楽しめるため、本編中ではこのパートが一番読みごたえがある。
さて後半の一発目は敦子ちゃん、タイトルは『わいら』。彼女が偶然知り合った女性がなんと華仙姑乙女。この女性の正体があかされたと思ったら、彼女たちふたりが韓流気道会なる古武道会派(会長は韓大人)に襲われる。そのピンチを一度目に救うのが、これまた怪しい条山房なる漢方薬局の通玄先生。その後、敦子ちゃんは榎木津に助けを求め、この探偵はいつも通りの破天荒さで軽く一暴れする。
つづく『しょうけら』に登場するのは木場修。日常生活を絶えず見張られていると訴えて彼に助けを求めにきた女性・三木春子は、敦子ちゃんを助けた通玄先生のもとに通っていたといい、その通玄先生の呪縛から逃れたと思ったら、今度は藍童子なる霊感少年に心酔しているという始末。
そして最終話『おとろし』の主役は『絡新婦の理』の織作茜。京極堂の友人で大陸系妖怪研究家の多々良君がシリーズ本編に初登場。また、彼女のことを訪ねてきた羽田隆三との会話から、徐福研究会(東野鉄男)と大斗風水塾(南雲正陽)がクローズアップされる。多々良さんの導きでふたたび物語の舞台が冒頭の韮山へと戻り、ここでもまた堂島が現われて、ついには衝撃的な結末が……。
以上、見事に宴の支度は整った――といっていいんだろうか? まだ積み残しがたくさんある気がする。
なんにしろ、堂島静軒から始まり、みちの教え修身会、成仙道、華仙姑乙女、韓流気道会、通玄先生、条山房、藍童子、大斗風水塾と、とにかく怪しげな集団&人物のオンパレード。最初に読んだときにはやたらとわかりにくかった気がしたけれど、今回再読してようやく全体像が見えた気がする。
いやぁ、あらためて読んでおいてよかった。
(Sep. 03, 2023)