RINGO FILE 1998-2008
椎名林檎/ロッキング・オン
椎名林檎のデビューから約十年間――アルバムでいうと『無罪モラトリアム』から東京事変の『娯楽』まで――のロッキング・オン関連の記事をまとめた本。
ここでは便宜上、椎名林檎の著作という扱いにしておくけれど、実際にはこの本には著者のクレジットがない。同じロッキング・オン社から出ている宮本浩次や北野武のインタビュー本は彼らの名前が著者としてクレジットされていたので、これも椎名林檎名義かと思っていたら違った。
なぜかというと、それはおそらく、この本にはインタビュー以外の記事が載っているから。
最初の五十ページほどが写真集で、そのあとの第二部が長編のインタビュー四本。それこまでならば椎名林檎名義になったんだろうけれど、そのあとにライター各氏によるライブ・レビュー(二段組)とディスク・レビュー(三段組)が掲載されている。
いかにもロッキング・オンらしいそれらのレビューが掲載されているがゆえに、この本は椎名林檎名義にはなりえなかったんだろう。
いやしかし、この本を読むと椎名林檎という女性アーティストのデビューがいかにセンセーショナルだったかがよくわかる。
椎名林檎という規格外の才能の登場に対して、当時の日本の音楽シーンがどれほどの興奮を味わったのかがビビッドに伝わってくる。この作品はそういう意味での貴重なドキュメンタリーとなっていると思う。
ただ、椎名林檎があまりに破格であったからこそ、それを熱く語るライターたちの言葉が暴走してしまって、わけがわからなくなってしまっている感もある。
ロッキング・オン系のインタビューって、誘導尋問的なスタンスでアーティストに自分の意見を押しつけてゆくような傾向が強くて、正直僕はいまいち好きではない。レビューにしても、大仰で哲学的な言葉で読者を煙にまいて、ひとり悦に入っているような書き手が多い。僕の頭が悪いのかもしれないけれど、真意がまるで伝わらない。
僕はロッキング・オンのそういう傾向が苦手で、ある時期からあの会社の出版物とは距離を置くようになったのだけれど、この本からはそういう僕が苦手なロッキング・オン系ライターの過剰な自意識が溢れ出しまくっている。それこそ主役であるはずの椎名林檎さえ食ってしまうほどに。
おかげで僕はいまいちこの本を楽しめなかった。
これを読むと、この続編ともいうべき『音楽家のカルテ』が別の出版社から出たのは必然だったのではという気がしてしまう。僕が椎名林檎だったら、きっとこんな本は嫌だ。この本が絶版になっているのは彼女自身の意向なのではと勘繰りたくなった。
ちなみに、十五年も昔、刊行当時に買ったまま積読になっていたこの本をいまさら読んだのは、倉庫と化している部屋を整理していたらたまたま出てきたから。気がつけば今年は椎名林檎デビュー二十五周年だし、いい機会だから読もうって気になった。
(Oct. 01, 2023)