毎年新年の一冊目は気合を入れて難しいやつに手を出し、結果読み終わるのにやたらと時間がかかってしまうというパターンがつづいているので、今年は正月休みのあいだでさくっと読み終わるような簡単な本から始めることにした。
ということで、今年の初読みはこの作品。池田エライザとRADWIMPSの野田洋次郎主演でドラマ化されるというのでこの機会に読んでみようかと思ったら、うちの子が文庫本を持っていたので、借りて読んだ。
――がしかし。この作品は個人的にはいまいちだった。
『舟を編む』というタイトルはとても素敵だし、辞書編集という地味なテーマに着目した発想は好きだけれど、でも前半の展開がとにかく不自然すぎる。
退職するため自分の後任を見つける必要に迫られた荒木が、部下の西岡から「営業に辞書編集向きの社員がいる」と聞いて、いきなりその人のことを探しに部屋を飛び出してゆく展開がいきなり変。ふつうは「どこがどう向いているのか」とか「名前は?」とかいうのを先に問いただすでしょう?
でもって主人公の馬締は、そんな風にいきなり現れた初対面の荒木から「きみの力を『大渡海』に注いでほしい!」と頼まれて、「わかりました」といって、いきなり「あ~あぁ~」とクリスタル・キングの『大都会』を歌い出す。
いくら空気が読めないからって、いきなり社内で歌うたうやつはいなかろう。展開が不自然なうえにオヤジギャグって。
馬締がヒロインの香具矢と出逢う場面だって、もう大家のお婆さんが寝てしまった時間に、物干し場での初対面ってシチュエーションが不自然きわまりない。同居人が増えるのに、なんで昼間のあいだに紹介されていないのさ。
馬締が香具矢へのラブレターの添削を西岡に頼むに至っては不自然さの極みだ。職場でラブレターを書いているだけでも変なのに、それを知りあって間もない同僚に読んでもらう人なんている?
この小説の序盤はそういう「なにそれ?」な展開の連続で、僕はまるで物語の世界に入れなかった。
後半になって一気に十年以上が過ぎ、馬締が辞書編集の責任者になってからの話にはそういう不自然さを感じることもなくなり、ある程度楽しく読むことができた。とはいえ、序盤の印象が悪すぎ。なんかもったいない作品だなぁって思ってしまった。
でも、その後たまたまYouTubeで無料公開されていたアニメ版の第一話を観てみて驚いた。小説で僕が疑問に思った部分がアニメではすべて解決されていたから。最初に西岡が馬締のことを知るシーンがあるし、荒木が馬締を訪ねてゆく流れも自然だ。そして馬締は『大都会』を歌わない。
あぁ、このアニメを作った人は俺と同じ感想をもったんだろうなぁって思った。
あとで確認したところ、アニメのキャラクターデザインのもととなった雲田はるこ(『昭和元禄落語心中』の作者)によるコミカライズ版の冒頭部分は小説とまったく同じだったから、この改変はアニメ版のオリジナルなんだろう(もしくは先行する実写版もそうなのかも)。作品の質を高める丁寧な仕事がとても好印象だったので、アニメのつづきが観てみたくなった。
原作よりもアニメのほうがいいかもって思ったの、初めてな気がする。
(Jan. 17, 2024)