犬物語
ジャック・ロンドン/柴田元幸・訳/柴田元幸翻訳叢書/スイッチ・パブリッシング
柴田元幸翻訳叢書――ずっと「ごうしょ」と読むんだと思っていたら「そうしょ」だった(いい年をして漢字が読めない男)――のジャック・ロンドンの二冊目。
内容はタイトル通り、犬にまつわる短編三編と、代表作『野生の呼び声』、あと『火を熾す』の別バージョン(これだけは犬が出てこない)を収録したもの。
前作『火を熾す』がめちゃくちゃよかったので、これも期待大だったのだけど、犬にフォーカスしたのがあだとなり、前作ほどのインパクトは受けなかった。やっぱ小説の主役は人間がいい(個人的な趣味の話)。
とはいえ、端正な文体でつづられる各編はそれぞれに違ったカラーを持っていて、犬の話とひとくくりにまとめるのはどうなんだという出来映え。
どこからか流れ着いた大型犬を引き取って溺愛する夫婦の話『ブラウン・ウルフ』、悪魔のような猛犬にまつわる逸話『バタール』、男たちがミステリアスな悪犬に翻弄されるひねりの効いた『あのスポット』、そして名犬バックの数奇な生涯を描く、犬版の貴種流離譚ともいうべき『野生の呼び声』。
ジャック・ロンドンが描く犬たちは、どれもタフで強くて崇高でミステリアスだ。それぞれに違った魅力があって、小説としての質の高さには異論がない。作品としては間違いなくおもしろい。
ただ、日常生活で仕事に悩まされながら、犬とはあまり縁のない生活を送ってる凡人には、犬への敬愛あふれるこれらの作品の熱量をすんなりとは受け入れきれなかったかなと。そんな感じの一冊。
(Nov. 09, 2024)