U-21日本5-2U-23バーレーン
アジア大会・グループリーグ/2002年10月1日(火)/ウルサン・スタジアム(蔚山)/TBS
いよいよ踏み出された、アジア大会におけるジーコ・ジャパン予備軍の第一歩。23歳以上+年齢制限なし3人までという大会規定に対して、日本はオリンピック予選を見据え、U-21の代表候補組のみで挑んでいる。この年齢での2歳の経験差は結構でかいだろう。もとより経験不足や精神的な消極性が噂されるこの世代の選手たちが、年齢的には上のアジアの強豪たちを相手にどのような戦いを見せてくれるか。サッカー好きだったらば無関心ではいられないはずだ。それにしてはやや世間の関心が薄そうなのが気にかかる。
残念なことに大会緒戦となるパレスチナ戦は同時刻に行われていたアントラーズ戦と重なっていた上に、ビデオ録画をどじってしまって後半しか見られなかった。結果は2-0での勝利だったけれど、格下のパレスチナ相手に前半をスコアレスで終わった内容に対して、メディア上は結構辛口な意見が目立った。
さて、その試合を受けてのグループリーグ第2戦、対戦相手は初戦でウズベキスタンを3-0と破っているバーレーンだ。
日本代表のスタメンはGK黒河(清水)、DF池田、青木、三田(新潟)、MF石川直宏、森崎和幸、鈴木啓太、松井大輔(京都)、大久保、根本(C大阪)、FW中山悟志というメンバー。8月に行われた中国との親善試合からは、黒河、三田、根本、松井、大久保の五人が入れ替わっている。あの試合では故障者が多くてベスト・メンバーが組めなかったというから、実際にはこちらがよりベストの布陣に近いのだろう。少なくても松井、大久保の加入はチームの攻撃力を大きく引き上げていた。
またパレスチナ戦からは、右サイドが田中隼磨から石川に変更されている。後半途中から出場するや、持ち味のスピードを生かしてチームの勝利に貢献した石川直が田中隼からスタメンを奪い取ったという形だ。
意外なのはこの大会に向けて、アントラーズの青木をCBにコンバートした山本監督の采配。この代表のボランチには森崎和、鈴木啓、阿部勇樹(市原)といった優秀な選手が揃っているので、彼らとの併用を考えた場合、正確なロング・フィードを武器とする青木を後ろに持ってくることで、より攻撃のオプションを増やしたかったということなのだろう。その辺の采配ぶりはジーコよりもやはり、中田浩二を左サイドバックにコンバートしたトルシエのスタイルを引き継いでいるようだ。
青木が出ているのは嬉しいものの、それにより茂庭が出場機会を得られていないのはやや残念。それとも彼が故障でもしていて、その結果の青木のコンバートなのかもしれない。情報が少ないため、その辺の事情は不明。
その他メンバーで個人的には意外だったのが、現在鹿島からC大阪へレンタル移籍中の根本がこの代表に選ばれていること。しかもレギュラー・ポジションをつかんでいるのみならず、なんとブレイス・キッカーの大役まで与えられている。知らないうちにJ2では目覚しい活躍をしていたものらしい。あっぱれだなあ。もしかしたらもう鹿島へは戻ってこないのかもしれないけれど、応援しているチームにかかわりのある選手のプレーを、こういう思わぬところで見られるのはそれだけでも嬉しい。
ということで試合内容について。最近この世代の試合をいくつか見て常に感じることだけれど、今の日本の若い選手は本当に上手い。チーム全体としてのトラップやパスの正確さだけを取ったらば、これまでの日本代表で最強なんじゃないだろうか。足元へ飛んで来た鋭いパスがパシッと見事に止まる。逆サイドへのロング・ボールがどんぴしゃのポジションへと繰り出される。基本がしっかりとしたプレーを見られるのは非常に気持ちいい。少なくても技術的な面においては日本が世界の標準に近いところまで来ていることを、この子たちは実感させてくれる。それってわりと感動的だ。
この試合の前半にはそんな新しい世代のよいところが十二分に出ていた。中盤の高い位置でプレスをかけて相手からボールを奪い取ると、正確なロング・ボールで大きくサイド・チャンジをしたりして、決定的なチャンスを幾度も作り出す。前線の選手たちも攻撃センス溢れるプレーを見せて、再三相手ゴールを脅かす。
結果、日本は前半だけで4-0とバーレーンを圧倒してみせた。内訳は大久保が2点、中山、松井が1点ずつ。中山悟志という選手はいいんだか悪いんだかいまひとつよくわからないけれど、大久保と松井大輔には文句なく唸らされた。特に大久保の攻撃センスには非凡なものを感じる。現在J2の得点王だというその理由がよくわかった。
ともかくグループ・リーグで一番の難敵とされたチーム相手に、前半のみで4点もの大量リードだ。なんだ、強いじゃないかと、ともて盛り上がらせてもらった。ところが。
後半になった途端、前半と様相がうって変わる。開始5分でPKを取られて1点奪われ、さらにその4分後には流れの中から崩されて追加点。リードが2点となったことで楽勝ムードが一転した。勝っているにもかかわらず妙に追い詰められたような雰囲気になってしまった。前半の流れるようなプレーも見られなくなり、相手の猛攻にあたふたする場面が目立つようになった。
多分この辺がこの世代の欠点とされる精神的な弱さなんだろう。大会前にはジュビロ相手の練習試合で7-0と大敗を喫したという。前半のプレーを見る限りでは、なぜそんなことになってしまったんだろうと不思議だったけれど、後半の展開ならばそれもありかと思わせた。なんだかいい時はいいんだけれど、崩れた時の踏ん張りが利かない印象だ。
それでもそこはまだまだ成長過程にあるチームだというのもあるだろう。同点後に山本監督は田中達也、田中隼磨、安部らを送り込み、これによってチームはなんとか立ち直りを見せた。残り時間1分になってではあるけれど、田中達也の2試合連続ゴールで追加点もあげた。この追加点の持つ意味はすごく大きいと思う。あのまま押されたまんまの気分を引きずって試合を終わるのと、最後に突き放して終わるのでは、精神的にだいぶ違うだろう。今後への期待を持たせてくれる、貴重な一発だった。田中えらい。きっと浦和では大騒ぎだ。
それにしてもパレスチナにしろバーレーンにしろ、中近東の国相手の試合というのはやたらとやりにくそうだ。パレスチナは引き分け狙いなのか、なんでもないファールにも大袈裟に痛がってみせてばかりいたし、この試合でのバーレーンも圧倒的な劣勢ゆえか、かなり険悪な態度を見せていた。サッカーにおける人間性を見る限り、どちらの国ともあまりお近づきにはなりたくない。
(Oct 04, 2002)