磐田に勝って、さあ残りすべて取ればファースト・ステージ初優勝も見えるというその次節で天敵・エスパルスとの対戦を迎えるというのもリーグ戦の綾だろう。この日の鹿島は前節での快勝が嘘のような不甲斐ない戦いぶりを見せて、V戦線から脱落してしまった。しかしまあ、下位に低迷している今期のエスパルス相手でも、やっぱり苦杯を喫してしまうなんて……。なんでここまで清水が苦手なんだろう。これはもうJリーグの七不思議のひとつだ(あとの六つはなにかとか聞かないで欲しい)。
とにかくこの試合に関しては、アントラーズには、いいところがまったくといっていいほどなかった。攻撃は全然形にならない、守備は時々破綻するでは、負けるべくして負けた試合だった。これくらいやりきれない敗戦もひさしぶりだ。深夜の録画放送のためもあって、最後の方は眠くて仕方なかった。
最初の失点はDFがみんな中央に集まってしまって、右サイドから上がったトゥットをフリーにした結果だった。なんであそこまで一箇所に集中しちゃうんだかなあ。ベテラン揃いとは思えないぞ。
後半に奪われた二点目は完全に崩された形だった。右サイド深くを駆けあがった市川から完璧なクロスが、ゴール前へ切り込んだアン・ジョンファンへ上がる。アンのヘッドはバーをたたいたものの、これが跳ね返ったところにしっかりとトゥットが詰めていた。あの位置であれだけフリーでボールをもたれてしまったらばもうアウト。
この日のアントラーズでは二点差を跳ね返せるとはとても思えなかった。それなのにダメ押しをするかのように、残り十五分という時間帯に小笠原が二枚目のイエローカードをもらって退場してしまう。これで万事休す。鹿島のファースト・ステージ自力優勝の可能性はついえてしまった。
試合後にセレーゾが「試合前、グラウンド・コンディションが悪いのでスパイクを替えろと指示を出していたのに、それに従わなかった選手が何人かいた。プロとしての意識が低過ぎる」とえらい剣幕だったらしい。確かに優勝を狙っているとは思えない、全然覇気の感じられない戦いぶりだった。本当にひどい試合だった。
見ていて特に気になったことが三点ある。まずは解説でも散々言われていたけれど、平瀬の力不足。ボールはキープできないし、ポストプレーもこなせない。柳沢の穴を埋めるどころか、逆に彼の不在を強烈に感じさせた。あとから出てきた隆行や深井にさえ負けている印象だ。彼はどうしてあんなにも伸び悩んでしまっているんだろうか。そもそもなぜセレーゾは彼をスタメンに起用したんだろう。隆行は足の具合が悪いそうだから仕方ないにしろ、今の状態ならば、よほど深井の方が期待できそうな気がする。今の平瀬ならばアントラーズに必要ないだろうとさえ思ってしまう。
二つ目は小笠原のプレーに対する姿勢。このところの彼は妙にイライラとプレーしているように見える。いまやチームの中心である彼のそうした態度が、チーム全体に嫌な雰囲気をもたらしているように思える。
彼が退場になったのもそうした姿勢のせいだ。二枚目のイエローは仕方のないものだったけれど、一枚目の方はどう考えたって問題だった。鹿島がファールをもらった場面で、こちらの素早いリスタートを警戒してか、ボールを手にして離そうとしなかったトゥットに対して、小笠原は足で相手の手元にあるボールを蹴るという、まともじゃない行為に出た。レフェリーの判定は喧嘩両成敗ということで両者に対するイエローだったけれど、レフェリーによっては小笠原にレッドが出されても仕方ないような行為だった。いずれにせよこれが祟って退場を食らってしまったんだから、非難されてしかるべきだ。
そういえば今シーズンの初めの頃には、試合中にチームメートのエウレルを小突いたこともあった。セレーゾの守備的な方針やチームが今ひとつうまく機能していないことに対する苛立ちがあるのかもしれないけれど、プロなのだからそれをピッチ上であらわにするのはやめて欲しい。
最後はトニーニョ・セレーゾの采配。彼はなぜあんなにクラウデシールを使いたがるんだろうか。この日も後半わずか十分ほどで本山に代えて彼を投入している。確かに前半終了間際に本山は肩を痛めていたけれど、後半もそのまま出場し続けたということは、その負傷はとりあえず問題がなかったということだろう。なのに負けている状況において、得点力のある本山に代えてボランチのクラウデシールを投入するという采配はどうにも納得がいかない。
クラウデシールという選手は高さがあるので(身長189センチだそうだ)、その高さを生かして得点に結びつけたいという考えだったのだろう。実際、その後はゴール前に攻め上がる彼をターゲットにしたロングボールばかりが目立っていたし。それにしたって、やはりあの時間帯にボランチの投入はないだろう。そういう戦術を取りたいのならば、最初からボランチではなく、長身のFWを獲得するべきだったんじゃないのか。鹿島には青木という将来性のある守備的MFがいるというのに、彼をベンチに置いたまま、しかも10番をつけた選手を下げてまで、わざわざブラジルから連れて来た新外国人を起用するという監督の姿勢にはどうしても納得がいかなかった。
そういえば小笠原が退場になったあとは相馬を深井に代えて、相馬の位置に中田浩二を下げたりしていたけれど、あれだってなしだと思う。確かに浩二はDFの経験もあるので、緊急事態にそうした戦い方をしたいというのはわからなくはない。それにしたってそのポジション変更の理由は結局クラウデシールの投入の結果だろう。キャプテン・マークをつけた選手が、背が高いからという理由だけで起用された選手によって本来のポジションを追われてしまうようでは、戦意が低下するのも当然だ。
もとより本山の伸び悩みをトニーニョ・セレーゾのせいじゃないかと疑っている僕としては、これらの監督の戦術に対して不満を否めないのだった。セリエAで活躍したボランチ出身という経歴のせいか、基本的に守備を重視するセレーゾ監督にとって、守備的貢献度の高い小笠原の方が本山よりも重要な選手だというのはわかる。そもそも二人のデビュー当時にはまだビスマクルがいて、本山とポジションが被っていたという事情もある。
しかし去年ビスマルクが退団して、代わりにチームの攻撃の核となることが期待された本山はその重責を十分に担えていない。原因のひとつはセレーゾの本山に対する信頼の低さにあるのではないかと思ってしまう。確かに本山のプレー自体にも改善の余地は十分にあるのは確かだろうけれど、同時に彼をフル出場させて経験を踏ませようという懐の深さがセレーゾにはない。なんだかあの二人の関係には、日本代表におけるトルシエと俊輔の関係を映し見る思いがする。
とにもかくにもこの敗戦により、仙台に圧勝した首位市原(5-1!)との勝ち点差を4と広げられたアントラーズは、横浜、名古屋にも抜かれて順位を4位に落とした。一日遅れで今夜試合のあるジュビロに抜かれるのもまず間違いないだろう。残り3試合で5位ともなると、優勝はほぼ絶望的だ。それでもわずかな可能性を諦めず、セカンド・ステージへの調整も兼ねて、残り3試合はすべて勝ち取って欲しいと思う。とりあえず現在の順位と今後の対戦相手を考えると、ファースト・ステージの試合が見られるのはこれで最後だろうか。うーん、本当に残念な敗戦だった。
(Jul 13, 2003)