ジーコは頑なにスタメンを固定し続ける。この試合もグループ・リーグの三試合と同じメンバーだった。おそらく誰かが怪我でもしない限り、残りの二試合も同じスタメンで臨むんだろう。でもそれでいいのか、見ているこちらとしてはとても疑問だ。みんなやたらとへばって見えるから。
準々決勝の対戦相手ヨルダンは、なんとW杯第一次予選をイランと同じグループで戦いながら、ここまで失点0で首位に立っているのだそうだ。決して侮れる相手ではないという噂は聞いていたけれど、実際に対戦してみると、球際に強い上に攻守の切り替えが早く、なんとも手強い相手だった。
とはいってもこの日の日本代表も出来はよくなかった。というかこの大会に入ってからは、なんとか勝ちあがってきてはいるものの、サッカーの内容自体は全然よくない。今のメンバーで戦うようになってから、納得のいく試合を見せてもらったことは一度もない気がする。確かに負傷者が多くてベスト・メンバーが組めないのは気の毒だと思うけれど、それにしたって日本にはほかにももっとタレントがいるだろう。それを見つけ出して、最善のチームを作るのが代表監督の役目なはずだ。ジーコは日本という一国の戦力をきちんと使い切っているようには見えない。そういう点では代表監督として及第点を与えられないと思っている。
ただしジーコが監督になって以来、日本にある種の勝ち癖がついているのもまた事実だと思う。去年のアウェイでの韓国戦やW杯予選でのオマーン戦でのロスタイムでの決勝ゴール。最近のスロバキア戦やタイ戦での失点直後の同点ゴール。そしてこの日のPK戦での奇跡的な勝利。そうした勝負強さ、しぶとさといったものは今までの日本代表にはなかったものだ。それらが選手たちの精神的な成長の結果であり、それはジーコの放任主義がもたらしたものなのかもしれない……。そんな気もしているので、一概にジーコを非難するのも躊躇われる。もとよりジーコという人は僕にサッカーのおもしろさを教えてくれた恩人ともいうべき人だ。できれば非難したくないという気持ちはある。結果、僕は今の日本代表に対してどういう態度をとっていいのか、わからないでいる。勿論、応援する気持ちは衰えないものの、本当に今のままのジーコ路線でこの先を進んでいっていいのかというと肯定し切れない。うーん、なんとも悩ましいこの頃のA代表だった。
とにかくこの日の試合は散々だった。大会通じての中盤での競り合いの弱さはあいかわらず。というか、前のイラン戦で若干上向きに思えたものが、この試合では疲労の蓄積からか、またもとに戻ってしまったような印象があった。ポゼッションを高めて試合を優位に運ぶことを本望とするはずの日本が、逆に相手にボールを回されてしまっているんだから話にならない。ボールに絡む積極性を欠く俊輔一人が司令塔のポジションにいる今のフォーメーションでは、こうした状況は改善できないのではないかと思う。
いや、この大会の俊輔のキックの精度の高さには敬意を表する。セットプレーは今の日本の大きな武器だ。けれどその反面、彼の動きの少なさがチームの攻撃から勢いを殺いでいる感も否めない。カウンターからの攻撃で彼にボールが渡った時に、そこでスピードが落ちて攻撃の芽が摘まれてしまう、なんてシーンが何度もある。そういう人が司令塔のポジションにいるからなのか、チーム全体としての攻守の切り替えが遅すぎる印象を受ける。ロング・パス一本でシュート・チャンスを作る形以外には、カウンターで得点できそうな雰囲気がない。守ってばかりという印象のチームがカウンターで勝負できなければ苦戦は必死だ。
現状では中盤が俊輔一人では試合を支配できないのはあきらかだ。だから僕は4バックにしてもう一人小笠原か藤田を起用するべきだと思っているのだけれど、ジーコは現在の3バックの安定感を買っているのか(特に中澤のパフォーマンスは出色)、いっこうに4バックに戻す素振りを見せない。多分、この大会は残りの二試合も同じスタメンで同じような戦い方をして苦戦を強いられることになるんだろう。困ったものだと思う。
左サイドを崩されて思わぬ先制点を献上したこの試合は、その直後に俊輔のFKからGKがファンブルしたボールを鈴木が押し込んで同点とする。その後は延長戦の30分も含めて得点が動かないままドローで終わった。
そして怒濤のPK戦が始まる。
これがなんと俊輔、アレックスの二人が続けて足を滑らせてPKを失敗するという最悪の入り方になってしまったのだった。あまりのことに足場の悪さを抗議した宮本の発言を受けて、レフェリーはヨルダンの二人目が蹴る前に急遽ゴールを反対サイドに変更する。当然自分がもう一度蹴れるものだと思ってボールをセットしようとしたアレックスの行為は却下される(そりゃそうだろう)。ヨルダンの二人目(左利き)は無難にPKを決めて2-0。ああ、日本のアジアカップ連覇はこの時点で風前の灯の感があった。
ところがここから奇跡の逆転劇が待っていた。「奇跡」という言葉を使うのは好きじゃないんだけれど、この日のPK戦での勝利には本当にこの言葉を使いたくなるような感動があった。
三人目の福西は落ち着いて決める(えらいっ!)。ヨルダンの選手も決めて3-1。ここから先は一本でも外せば日本の負けが自動的に決まるという場面でキッカーに立ったのは鈴木隆行。外しそうで恐かったけれど(失礼)、無事に決めてくれて3-2。次のヨルダンの選手が決めれば日本の負け。ここで川口がふんばる。見事な読みで左に飛んで、弾いたボールがバーにあたってゴールならず。よっし!
日本の五人目、中田浩二。真正面に蹴ったボールはGKにあたるも(こわい!)ゴール。3-3。ようやく日本のタイ。でも次が決まれば日本の負け。ここでヨルダンのPKが外れる。よっしゃーっ、3-3でイーヴンだっ!
サドンデスの延長に突入して一人目は中澤。ところが彼が止められてしまう。あーっ。それでもこの大会での中澤の攻守に渡る活躍を見ていると、彼が止められて負けるんならそれは仕方ないと思う。既に見ているこちらは諦めムード。
ところがっ。次のヨルダンの選手のキックも川口が4本目のリプレイとでもいうような形で止めてくれてしまうのだった。カワグチ~っ! なんていいやつ。
7人目の宮本が難なく決めて、このPK戦で初めて日本はヨルダンからアドバンテージをとった。そしてヨルダンの七人目のシュートがポストをたたく……。
日本代表、準決勝進出決定。いやあ、しびれた。最後のシュートがポストをたたいた時には思わずソファから躍りあがってしまった。120分間じれったいゲームを見せられた後にこんな感動が待っていようとは……。サッカーはおもしろいとあらためて思った。
(Aug 01, 2004)