日本2-0トリニダード・トバゴ
2006年8月9日(水)/国立競技場/テレビ朝日
イビチャ・オシム氏が日本代表監督に就任して初めての試合。
トルシエ、ジーコと8年間にわたって不本意な戦いぶりばかりを見せられてきた(と思わずにはいられない)人間のひとりとして、オシム氏の代表監督への就任は、願ってもない朗報だった。川淵さんの失言から始まったドタバタは余計だったけれども、それでも僕には軽率な会長を非難しようという気はまったく起こらなかった。あのオシムさんが日本代表を率いてくれると聞かされてしまっては、期待が大きすぎて、川淵さんの失言なんて問題はたいしたことには思えなかったからだ。
かりにもJ1のチームを応援している人間ならば、誰もがオシム監督が就任してからの千葉の変貌ぶりには脅威を感じていたはずだ。少なくてもアントラーズは、オシム監督の就任以来、千葉に何度も苦杯を飲まされてきた。レッズやマリノスならばともかく、ビッグネームの全然いない千葉にだ。なんてすごい監督なんだと、感心しないではいられなかった。「日本人には海外での経験が足りないから世界では通用しない」なんてことばかり言っているトルシエやジーコには、じゃあヒデも俊輔もいない千葉を、小笠原や柳沢ら、日本代表を多く抱えたアントラーズと五分に戦えるようにしてしまったオシムさんはどうなんだよと、文句も言いたくなろうってもんだ。この人が監督を務めてくれれば、もしかしたらば日本代表も変わるんじゃないかと、期待したくなるのは当然の流れだった。そしていま、その希望がかなった。これが嬉しくないはずがないじゃないか。
そりゃオシムを日本代表に取られたジェフのスタッフやサポーターは腹が立つだろう。それはわかる。でも日本代表を愛している者としては、オシムさんに代表監督をやってもらえるチャンスがあるというのに、それを逃すなんてことは、悪いけれど僕にはできない。そんなもったいないことはして欲しくない。どんなに強引でもかまわない。恨みを買ってもしかたない。いましかチャンスがないのならば、そして本人がやる気を見せているという以上、絶対にオシムを引き抜くべきだと僕は思った。
オシムさんが就任会見で、自らと日本代表との関係を結婚にたとえていたけれど、まさに恋愛と同じだと思う。本気で誰かを求めれば、時としてそれ以外の人を傷つけてしまうことだってある。僕はオシムさんの代表監督就任を心から歓迎する。けれどだからといって、それがジェフ関係者やサポーターの深い悲しみの上に成り立った関係だということを忘れてはいけないのだと思う。ひとつのチームに大きな犠牲を強いての船出だ。オシムさんには次のワールドカップまでの4年間を無事につとめ切って欲しいと心から願っている。ということで、オシム日本代表監督就任後の初めての試合。わずか13人という異例の代表選手発表からわずか5日だ。その間に6人を追加招集して人数的には普通になったけれど、顔ぶれはやはり随分と新鮮だった。
この日のスタメンは川口、田中隼磨、坪井、闘莉王、駒野、鈴木啓太、長谷部、山瀬、アレックス、田中達也、我那覇という十一人。フィールドプレーヤーのうち、6人が浦和(かつて所属した山瀬も入れれば7人?)という構成だった。
国際Aマッチデーでない上にA3や主要チームの海外遠征とスケジュールが重なってしまい、思うような選考ができなかったのも一因ではあるだろうけれど、それよりもやはり、わずか3日の合宿ではチームとして機能させるには無理があるから、あえて同じチームの選手を多く使ったということのようだ。今年のJ1からどこか1チームを選べと言われれば、レッズが中心になるのは当然のことだとは思う。
ちなみにサブに入ったほかのメンバーは、山岸(浦和GK)、栗原(横浜)、今野、小林大悟(大宮)、中村直志(名古屋)、佐藤寿人、坂田(横浜)、そして最年少の清水の青山というメンバー。このうち、山岸、故障中の今野、U-21代表戦から帰国したばかりの青山をのぞく全員が、この日のピッチに立った。
こうして見ると、選ばれたメンバーは選ばれて当然という活躍をそれぞれのチームで見せている選手ばかりだ。特に小林大悟や中村直志など、低迷しているチームに所属しているから知名度は低いけれど、チームへの貢献度はとても高い。そういう選手がちゃんと呼ばれてる。さすがJ1監督歴3年のオシムさんという感じがした。
しかしそうは言っても、このメンバーだといまひとつA代表の試合を見ているという気がしないというのも正直なところだったりする。半数以上がアテネ五輪の時のメンバーだから、なんだかあの時のチームが再結成したような感じで、見ていて妙な気分だった。もう少しジーコ・ジャパンの選手が残っていても良かったんじゃないかと思わないでもないけれど、でもまあ、あのチームの中心が海外組だったことを考えれば、国内組だけで戦った今回はこういうことになるのも仕方のないことなんだろう。いずれにせよ、スケジュール的に今回の日本代表に多くを望むのは無理がある。
対するトリニダード・トバゴもW杯を終えてチームの再編成中。W杯では無得点のままで予選敗退したチームだから守備力が高いのかと思っていたけれど、今回のチームはあまりそういう印象でもなかった。ま、こちらがホームならまず負けないだろうというレベルだと思った。
試合は前半15分にアレックスのFKが直接決まって日本が先制。追加点もアレックスだった。中盤から全速力で駆けあがり、駒野からのロングパスを受けて、GKと1対1のチャンスをループシュートで落ち着いて決めた。これは実に見事な得点だった。やっぱりアレックスは攻撃に参加してなんぼだ。ジーコの最大の失敗は彼をサイドバックに起用して、その攻撃力を相殺してしまったことかもしれない。
この日の日本代表の得点はこの2点のみ。再出発の試合でゴールを決めたのが、前のチームでDFを務めていたアレックスだけというのはちょっとさびしい。でもところどころでダイレクトパスの交換から見事なコンビネーションを見せてくれるシーンもあったし、それなりにこれからを期待させる内容だったと思う。やはり今回は初代表の選手が多かったためもあり、前半に張り切りすぎてしまったのか、後半は疲れて動きが鈍くなってしまった印象があった。
個人的にこの日の試合で一番好印象を受けた選手は、鈴木啓太だった。豊富な運動量でやたらとディフェンスラインに飲み込まれまくっていた姿勢が印象的だ(それがいいかは別として)。オリンピック代表の時には最終選考に漏れた彼の、「止まっていた時計ががまた動き出した気がする」というコメントが泣ける。今度は代表に定着させてあげたいと思う。でも今回のチームでもボランチは激戦区だからなあ……。さてどうなることやら。
(Aug 10, 2006)