2007年7月のサッカー

Index

  1. 07/09 △ 日本1-1カタール (アジアカップ・グループB)
  2. 07/13 ○ UAE1-3日本 (アジアカップ・グループB)
  3. 07/16 ○ ベトナム1-4日本 (アジアカップ・グループB)
  4. 07/21 ○ 日本1-1オーストラリア (アジアカップ・準々決勝)
  5. 07/25 ● 日本2-3サウジアラビア (アジアカップ・準決勝)
  6. 07/28 ● 韓国0-0日本(PK6-5) (アジアカップ・三位決定戦)

日本1-1カタール

アジアカップ・グループB/2007年7月9日(月)/ハノイ(ベトナム)/BS1

 待ちに待ったオシム・ジャパン最初の大仕事、アジアカップの第一戦──なのだけれど。これがなんともため息の出るような結果になってしまった。
 この試合のスタメンに名前を連ねたのは、GK川口、DF加地、阿部、中澤、今野、MF鈴木啓太、中村憲剛、中村俊輔、遠藤、山岸、FW高原の11人。故障のため大会に参加できなかった闘莉王に代わり、CBには阿部が入り、試合前日に怪我をした駒野に代わって、左サイドには今野が入った。で、高原のワントップと。つまり、加地が右サイドに戻ってきたり、若干のメンバーチェンジはあるものの、基本的な形はコロンビア戦とそんなに変わっていないわけだ。
 で、そのせいなのかどうかのか、この試合もあの試合と同じようなパターンになる。前半は低調で、後半になって盛り返すというやつ。
 この日は特に前半が駄目だった。もうキックオフ直後から、おや~って感じだった。
 とにかく人が動かない。そうとう暑いとは聞いていたし、実際に選手たちのユニフォームには、キックオフ前から汗の染みができているくらいだから、本当にきつかったんだろう。芝生も長めな上にボコボコで、パスワークと運動量をモットーとする日本にとっては、やりにくい環境だったのも確かだと思う。それにしてもなあって思ってしまうくらい、動きが緩慢。相手のカタールも省エネ第一という感じでプレスをかけてこないから、なんだかまったりとした妙な立ち上がりだった。テレビの解説では、日本がボールを支配している、みたいなことを言っていたけれど、単にこちらが攻めてゆかないから、相手も様子を見てじっとしているだけなんじゃないかという印象を受けた。
 結局、前半はそんな感じで、ほとんど動きがないまま終わってしまう。なんだか、むちゃくちゃ息苦しい展開だった。
 後半に入ると、カタールがようやく攻めの姿勢を見せ始める。それを受けて、日本も徐々に攻撃のリズムが出てくる。
 しかし、こういう風に相手の出方に左右されて、こちらの内容が決まってゆくという受身な姿勢は、どうにもジーコのころから変わらない悪い癖だと思う。いかにも日本的というか、なんというか……。それともあれは、前半は体力温存で後半勝負という作戦が、たまたまお互いに一致しちゃっただけなんだろうか。その辺はよくわからない。
 とにかく、両チームともに攻撃的になって、やっとサッカーらしくなった後半の16分に、ようやく均衡が破れる。相手がちょっぴり集中力を切らした瞬間を見逃さなかったぜって感じで、憲剛が基点となり、今野が右サイドからあげたクロスに、高原が左足のインサイド・ボレーであわせた。タイミングがずれて体勢が不自然だったせいか、高原はシュートのあと、ボールの飛んだ方とは逆向きにくるっと一回転。変わったシュートだったけれど、とりあえずこれで日本が貴重な先制点をゲットした。
 ここまではいい。ところが、ここからがいけなかった。もう1点取ってしまえば、勝ちはほぼ間違いないだろうに、どうにもその1点が取れない。圧倒的に攻めてるのに、取れない。山岸を羽生に代えたことで、攻撃のリズムがさらによくなったにもかかわらず、やはり得点するには到らない。で、残り時間が十分を切ると、もう得点への期待は諦めたのか、オシムは憲剛を下げて、橋本を投入してくる。これはどう見ても、守って逃げ切ろうって形だ。
 でも、この橋本の起用がアダになった気がする。なんたって、橋本はこれがまだ日本代表として、公式戦2試合目だ。前回はわずか1分ばかりの出場だったことを考えると、実質的にはこれがデビュー戦のようなものだろう。緊張のせいかどうなのか、あまりチームにフィットしていない感じで、嘘みたいなミスキックもしていたし、とても守備力アップに貢献しているようには見えなかった。
 で、日本は後半残り5分を切って、ウクライナから帰化したというカタールのFW、セバスチャンの中央突破を許し、これを阿部がファールで止めて、ペナルティ・エリアぎりぎりでFKを与えてしまう。阿部があの程度の接触プレーでファールをとられたのは不運だったけれど、でもそれ以前に、あの位置でドリブル勝負を仕掛けられてしまったのが問題だ。それまではほとんどそういうピンチを迎えてなかったのを考えると、やはりあれは、橋本を入れたあとのポジショニングにずれがあったんじゃないかという気がする。
 結局、このFKをセバスチャン自らにドカンと決められ、日本は土壇場で同点に追いつかれてしまった。壁のあいだを縫う、強烈なFKだった。選手にあたってコースが変わったみたいだし、さすがの川口もあれは止められない。カタールにはそれまでにも二度ほどFKを与えていて、かなりきわどい目にあっていたので、あの時間帯のFKというのは、まずいなあと思ったんだ。まったく、totoはあたらないくせに、悪い予感にかぎって的中する。
 結局、試合はその後、カタールの10番が退場になり、監督まで退席処分を食らうというハプニングこそあったものの、そのままスコアは動かずにゲームセット。相手に与えたチャンスはFKだけだったにもかかわらず、日本は惜しいところで勝ち点3を逃すことになった。
 次に対戦するUAEは、初戦でベトナムによもやの黒星を喫している。これで負けたらおしまいと、必死になってくるんだろう。最後に当たるベトナムも四ヶ国共催のホスト・カントリーだけあって、モチベーションが高いのは確実。いやあ、いきなり厳しい展開になってしまっている。実力は両チームより日本のほうが上と信じてはいるけれど、勝負は時の運。どうなることか、わかったもんじゃない。三連覇どころか、ことによっては予選リーグ敗退なんてこともありえるんじゃないかという気がしてきた。まいったなあ……。
(Jul 09, 2007)

アラブ首長国連邦1-3日本

アジアカップ・グループB/2007年7月13日(金)/ハノイ(ベトナム)/BS1

 アジア杯、グループ・リーグの二戦目。UAEには2年前のキリンカップで負けているし、そうそう簡単な試合はさせてもらえないんじゃないかと思っていたのだけれど、そんなことはなかった。不用意な失点こそあったものの、その場面以外はなんら問題なく、日本代表は3-1と快勝。勝ち点、得失点差でベトナムと並び、総得点では1上回って、無事グループ・リーグの首位に立った。いくらなんでも、いまのチームがベトナムに負けるとは思えないから、これでグループ・リーグ突破はほぼ決定だろう。つまんない心配をして損をした。
 この試合でオシムさんは、フォーメーションを2トップに戻し、山岸をベンチに置いて、巻を起用してきた。左サイドにはねんざが{}えた駒野が入る。あとは前の試合と一緒。高原とコンビを組むFWの人選として、巻がベスト・チョイスかどうかは意見の分かれるところだけれど、その点以外では、この形が今大会の日本代表の基本形だろう。
 試合の入り方もカタール戦より、ぜんぜんよかった。カタールと違って、相手のUAEが最初から攻めてきたことも、リズムをつかみやすかった要因だと思う。UAEボールでのキックオフから、最初の2、3分は相手のペースだったけれど、そのわずかの時間帯を受け流して、いったん日本が落ち着いてボールを回せるようになってからは、ほとんどあぶないところのない試合内容だった。高原の2ゴールと俊輔のPKで、前半だけで3得点というのは上出来もいいところだ。
 先制点は、俊輔がゴールラインぎりぎりのところからしぶとく上げたクロスを高原が頭で決めたもの。2点目は右からの加地のクロスを、高原がゴール真正面で胸トラップ、落ちた球に素早く反応して右足を振りぬき、ゴール左に突き刺した。とても簡単そうにプレーしていたけれど、相手GKがまるで反応できない、素晴らしいシュートだった。さすが、ブンデスリーガ-。失礼ながら、僕は高原がこんなに頼りになるとは思わなかった。オシムさんがこの大会、しぶるハンブルグを押し切る形で無理やり高原を招集したのも、いまの日本代表には、彼のこうした決定力が必要だと考えたからなんだろう。いやはや、お見事でした。
 いっぽうの俊輔は、先制点のアシストこそ決めたものの、全体的には、いまひとつ存在感が薄い印象だった。彼の場合は、3年前の前回大会も同じような感じだった気がする──あまり目立たないくせに、ここぞというところではいい仕事をしてMVPに選ばれるという。かつての中田英寿のように、もっとたくさんボールに絡んで、俺こそチームの中心なんだという存在感を見せつけて欲しいところなのだけれど、いまだそこまでには到らない。そういう意味では、僕にとっては俊輔よりも、中盤の底で最初から最後まで的確にボールをさばき続けていた中村憲剛のほうが、よほど好印象だった。
 もうひとり、やはりよかったのが駒野。彼と中村憲剛の二人については、僕は今年の最初の試合で「ボーダーライン上の選手」だみたいなことを書いているけれど、この日の試合を見る限りでは、この二人は申し分なく、日本代表のレギュラーの座にふさわしい存在感を示していた。
 試合のほうは、そんな風に前半を文句のつけようもない形で終えておきながら、後半はその分、スタミナが切れたのか、やや低調になる。早めの時間帯に相手に退場者が出て、数的にも有利になったにもかかわらず、追加点を奪えないまま、逆に相手のカウンターをくらって1失点を喫してしまう。
 失点の場面は、センターラインの手前から相手の13番にドリブル突破を許し、それに連動した19番に決められたもの。たった二人の選手に崩されての失点だった。あんなに見事に崩される日本代表を観たのも、ひさしぶりだ。ボールを奪われた中村憲剛が、追いかけるも追いつけずに置き去りにされるわ、受けて立ったDFたちの反応は鈍いわ、なんか、すげえ疲れてんなあって、感じだった。
 そのほか、気になるところとしては、後半途中で高原と啓太が、二人とも自己申告で途中交替した。高原は前日眠れなかったとかで、体調が悪かったらしい。それであの活躍って……。啓太は右足のすねのところに痛みがあったとか。大事に到らないといいのだけれど。
 彼らの替わりに出場したのは、羽生と今野。あと一人の交替は、俊輔→水野だった。水野がそこそこ威勢のよさを感じさせてはくれたけれど、それ以外はあまり大きな活性化をチームにもたらすこともなかった。結局、後半は1失点で無得点という内容で、日本代表は試合を終えた。まあ、勝ったことだし、よしとしたい。
 ほかのグループでは、注目のオーストラリアが1敗1分と苦しんでいたりする。この日の日本代表も、もう前半10分には全員、汗でユニフォームがぐっしょりだった。東南アジアのこの時期のサッカーはなんともシビアだなあと思う。
(Jul 14, 2007)

ベトナム1-4日本

アジアカップ・グループB/2007年7月16日(月)/ハノイ(ベトナム)/BS1

 UAE戦で途中交替した高原と鈴木啓太も無事スタメンに顔を揃え、UAE戦と同じメンバーで臨んだベトナム戦。
 さすがにここまでグループ2位と大健闘しているだけのことはあって、ベトナムはなかなかいいチームだった。しっかりと全員で守って、ボールを持ったら手数をかけずにさっさとゴールを目指すという基本姿勢がはっきりしている分、下手したら、横パスばっかりの日本よりも怖いんじゃないかという場面がいくつかあった。
 まあ、でもそれも猪突猛進するがゆえの怖さであって、技術的には日本のほうが断然、上。その差は同点の場面を見ればあきらかだった。ベトナムDFは俊輔のフェイントにまったくついてゆけない。あの位置でフリーでクロスを上げさせてしまえば、失点は必至。その素晴らしいクロスを巻が胸で押し込み、日本がいきなりオウン・ゴールで献上した1点をさっさと取り戻した。
 いやしかし、開始6分に相手の左CKから、いきなり啓太のオウン・ゴールで失点をした時には、ちょっとびびった。引きまくる相手を崩せずに苦戦するというのは、アジアではありがちなパターンだし、この試合の相手は、ホームのベトナムということで、会場は今大会唯一の満員御礼。このままべったりと引かれ、ひたすら守りに守って、逃げ切られててしまうなんて最悪の展開も、ちょっとばかりは頭をよぎった。
 ただ、ベトナムがそんな風にディフェンシブなばかりのチームではなかったのがさいわいした。ボールを持つと、きちんと攻撃を仕掛けてくる。おかげで日本としても、戦いやすかったのだと思う。なんたってFIFAランキングはこちらのほうが圧倒的に上だ。五分に打ち合ったら、打ち負けるはずがない。巻のゴールで同点に追いつくと、前半のうちに遠藤のビューティフルなFKで勝ち越しに成功。後半も素晴らしいパス交換から俊輔の右足シュートで追加点を奪い、さらには遠藤の左コーナー付近からのFKに、巻がファーサイドで相手DF二人を押しのけて頭であわせて4点目をゲット、勝利を決定づけた。
 高原の3戦連続ゴールはならなかったものの、相棒の巻が2ゴールというのは、今後を考えると心強い。ただ、その反面、この試合でも途中出場の三人、羽生、水野、佐藤寿人が出場してからは得点がなく、これで三戦連続で途中交替の選手が得点に絡めていない点には、やや不安が残る。この先、もしも負けている状況で終盤戦に突入するようなことがあったらば、かなり悲観的な気分になってしまうかもしれない。
 前の試合では、ついケチをつけてしまった俊輔だけれど、この試合でも1ゴール1アシストと活躍。あいかわらず引き気味で、気がつくと憲剛と並んでプレーしていたりしていて、ちょっとばかり気にいらない部分もあるのだけれど、まあ、いまのチームはポジションがあってないようなものだから、そういう位置でプレーしているってのは、それだけチームのスタイルに順応しているってことなのかもしれない。少なくてもこの試合では不慣れな右足できちんとゴールを決めてみせたあたり、シュートが枠に飛ばない憲剛よりもポイントは高かった。
 その俊輔よりもなお目立っていたのが遠藤。今日は左からのセットプレーが多かったこともあり、1ゴール2アシストと大活躍だった。いまの彼のキックの精度には、俊輔にひけをとらないくらいのものがあるんじゃないかと思う。2試合連続MVPも納得の内容だった。
 ただ、彼の場合、流れの中から自ら決めたシーンがないのが不満だったりする。この日の俊輔のゴールだって、ひとつ前にボールに触った遠藤が、パスを出さずに自分で打ってもいい画面だった。もしそれで外しても──きっとオシム以外は──誰ひとり文句を言わないだろう。あそこで俊輔が見えている視野の広さは素晴らしいんだけれど、でもやっぱり、ああいうプレーができるってのは、裏を返せば、普段からシュートよりもパスを選択する日本人らしいメンタリティが浸みついてしまっているせいに思える。だから、いざ自分が打つ以外にはないって場面で、一瞬のためらいが生まれてしまって、決定力を欠くことにつながっているような気がする。
 まあ、これは遠藤個人に限った話ではなく、日本人全般に言える傾向なのだろうから、彼ばかりにケチをつけるのは、かわいそうかもしれない。けれど、彼は現時点ではオシム・ジャパンの中心と言っていい選手だと思うし、そんな彼だからこそ、できればそういう点は意識的に改革していってもらいたいものだと思ったりする。
 なんにしろ日本代表は見事グループリーグ1位抜けを決めた。オーストラリアに続き、なんと韓国までが1敗1分と低迷している状況を鑑みるに、2勝1分という成績でしっかり1位をキープしたのは、とても誇らしく思える。サンキュー、日本代表。猛暑のなか、大変だろうけれど、ぜひともこの調子であと3試合、がんばって戦って欲しい。
(Jul 16, 2007)

日本1-1オーストラリア(PK4-3)

アジアカップ・準々決勝/2007年7月21日(土)/ハノイ(ベトナム)/BS1

 今回がアジアカップ初参加となるオーストラリア。グループ・リーグでは苦戦を強いられたようだけれど、そこはやはりヨーロッパ・リーグで活躍する選手を数多く擁するだけはあって、地力がちがう。最終戦で確実に勝ち点3を積みあげ、苦しみながらも2位抜けで決勝トーナメントに進出、いきなり日本代表の前に立ちはだかることとなった。
 ちなみに韓国もなんとかグループ・リーグを2位で勝ち抜け。順調に勝ち進めば、日本とは決勝戦で顔をあわせることになる。
 さて、そんなわけで大注目のオーストラリア戦。
 オーストラリアは、去年のワールドカップで負けて日本が負けて以来、少なくても僕にとっては、世界でもっとも特別な存在の国になってしまった感がある。あの惨敗の記憶はいまだにトラウマとして残っていて、ちょっとやそっとじゃ消えそうにない。
 あの負けがなぜそれほど特別だったかといえば、それがW杯での敗戦であったこと以上に、相手が世界レベルでは決して強豪とは言えないチームだったことが大きかった。僕の記録にまちがいがなければ、02年のW杯以降、日本代表が2点差以上つけられて負けた相手は、ブラジル、アルゼンチン、ドイツの3チームしかない。どれもW杯優勝経験のある強豪中の強豪だ。そういうチームに大敗しても、まあ仕方ないで済む。まだまだ日本は発展途上だからというエクスキューズがつけられる。
 ところがオーストラリアはそういう国じゃない。前回のW杯がわずか2回目の出場という国だ。いくらヨーロッパ・リーグで活躍している選手が多いとはいえ、余所{よそ}のようにサッカーが盛んなお国柄でもない。国民の関心の度合を強さのバロメーターとなるとするならば、オーストラリアは日本が負けて当然と思えるような国じゃなかった。
 そういう国に日本は、W杯という大舞台の初戦で、残り時間10分を切ってから一気に3点を奪われるという、屈辱的な逆転負けを喫してしまった。この事実は、日本がまだまだ世界のトップレベルには遠く到らないという現実を知らしめる上で、これ以上ないくらいの教訓になった。日本が世界の頂点にそれほど遠くないところにいるのではないかという淡い幻想は、ものの見事に打ち砕かれた。そしてオーストラリアという国は、僕のなかでは、その事実の象徴という役割を担うようになった。
 あれから1年。日本代表はオシム監督のもと、身の丈にあったサッカーをという方針で強化を進めている最中だ。ここまでにどれだけ成果が上がっているのかを見るには、あの時とほとんどメンバーの変わらないオーストラリアとの再戦は、願ってもないマッチアップだと言える。で、結果はどうかといえば……。
 うーん、どうなんだろうか。高温多湿のハノイの気候に慣れた日本が、初めてこの地で試合をするオーストラリア──しかも途中からは退場者が出て一人少なかった──と、120分間を戦って1対1のドローという結果は、PK戦の末、勝ったとはいえ、去年の雪辱を果たしたというには、ほど遠かった。
 でも、機動力を武器とするいまの日本にとっても、ハノイの気候が決してプラスにはならないのも確かなところだろうし、そう考えれば、最後まで決して走り負けることのなかったこの試合は、それなりに評価していいのかもしれない。
 日本代表のスタメンは、この日も前の試合と一緒。そう言えば前回のアジアカップでは、猛暑の中でもスタメンを固定したまま、途中交替のカードもほとんど切らないジーコにやたらと不満を持ったものだったけれど、今回のオシムさんもその辺の采配はまったく一緒だ。この日なんて、相手に退場者が出たためもあって延長戦も見据えていたんだろうけれど、90分間での交替は、足を痛めた加地を今野に代えたのみ。2枚目の交替(巻→佐藤)は延長前半も終わり近くで、3枚目のカードを切って、憲剛を矢野に代えたのなんて、延長の残り5分だ。選手交替のタイミングの遅さは、下手をしたら、オシム氏のほうがジーコよりも上かもしれない。
 ただ、サッカー監督としてのキャリアが30年になろうってオシムさんがそういう采配をふるうと、日本代表が監督初仕事だったジーコと違って、そのことを非難する気がしないから、不思議だというか、われながらいい加減なものだといいうか。まあ、いまの状況じゃ、選手交替をしてチームのバランスを崩してしまうよりも、現状維持のほうがいいんだろうな、とか納得しながら観ていたりする。同じ理由でジーコを非難していたことを、ちょっぴり反省する今日この頃だった。
 まあ、なんにしろこの日の試合自体は、相手のボール支配率のほうが高かったW杯の時とは違って、日本が終始ボールをキープしていた点で、あの時よりはマシだったのは間違いない。守備面で不満が残るのは、右CKからの失点のシーンと、危ないエリアで何本かFKを与えていたことくらい。川口の仕事量はW杯の時とは比べものにならないくらい少なかったから、上出来だろう。
 先制点を与えた場面では、オーストラリアには高さがあるからセットプレーが危ないと言われていたにもかかわらず、ニアへのローボールがファーサイドまで流れていって失点につながってしまったのが、ちょっとばかり滑稽だった。高さなんて関係ないじゃん。まあ、観ている時には滑稽だと思える心の余裕はなかったんだけれど。
 しかし、本当にこの失点で先制を許したときには、1年前の悪夢よ再びかと思った。この日の日本からは、オーストラリアのゴールをこじ開けられそうな雰囲気が、あまり感じられなかったからだ。ああ、またこの国に苦杯を飲まされてしまうのかと、苦々しい思いを抱いて試合の行方を見守っていた。
 ところがそのわずか3分後に、日本は高原の見事なゴールで同点に追いついてみせる。俊輔がペナルティ・エリア内に放り込んだハイボールを、巻が相手DFと競り合いながら、ヘディングでゴール前へこぼす。ボールはいったんは相手に渡ってしまうものの、相手DFのクリアミスで高原のもとへ。ここで高原は落ち着いて右足のフェイントで相手DFを振り切り、左足シュート。ボールはゴールポストに当たりながらも、ゴールネットを揺らす同点弾となった。
 いや、しかし本当に、今年の高原のシュートはどれもこれも素晴らしい。決して難易度が低くはないだろうシュートを楽々と決めてみせている。そのゴール前での落ち着きぶりには、貫禄さえ感じる。年齢的に3年後のW杯でも現状を維持できるのか、さだかじゃないけれど、現時点では日本最強のストライカーであるという意見に意義なし。これで今大会4得点目だし、ここまできたら、大会得点王として、記録に名前を残して帰ってきて欲しい。
 試合はその数分後に、高原と空中戦で競りあったオーストラリアの中盤の選手が、ひじ打ちをしたという判定を受けて、一発レッドカードで退場。以降、試合は守るオーストラリア、攻める日本という構図に終始した。日本にはラッキーで、オーストラリアにはやや可哀想な判定だった。
 でも、しかしながらというか、やっぱりというか。その後の日本にとって、ゴールは遠かった。いくつか惜しいシーンを作りはしたけれど、最後の最後でミスがあったり、相手GKのファイン・セーブに阻まれたりして、決めきれない。結局、90分で決着がつかず、延長30分も無得点に終わって、勝敗の行方はPK戦に持ち込まれることになった。
 延長戦で印象に残ったのは、プレミア・リーグでプレーしているという10番キューエルのしたたかさ。この人は体調不良かなんかで、この日はスタメンのビドゥカと代わっての途中出場だったのだけれど、ファールのもらい方とか、サイドでのボールキープとか、本当にクレバーというか、サッカー慣れしているというか、そのさわやかなルックスに似合わぬ実にふてぶてしいプレーぶりが印象的だった。彼が最初からスタメンで出ていなくて、日本はずいぶんと助けられた気がする。
 その他、ビドゥカもあいかわらずでかくて強いし、23番のブレッシアーノもスピードとパワーを兼ね備えている、いい選手だったし、くやしいことに、オーストラリアは個々の選手の能力──技術的なものよりも、実効的な経験値──においては、日本よりもちょっとばかり実力が上に思えた。
 とにかく、数的優位に立ちながらPK戦に持ち込まれてしまったことで、なにごとにも悲観的な僕は、恥ずかしながら、これで日本は負けたと思った。なんたって相手GKのシュワルツァーというのが、これまたでかくて上手かった。国家斉唱の時に、隣にいた188センチのビドゥカが小さく見えたので、なんだこのGKと思ったら、193センチもあった。いつでも上手いのかは知らないけれど、少なくてもこの日はあたりまくっていた。
 反対に、対する川口は、この日はディフェンスが安定していたこともあって、それほど仕事をしていない。日本敗退のシナリオがあるとすれば、まさにこんな展開なんじゃないかという流れに思えた。
 でもね。前大会に続き、川口はこの大会でもやはりすごかった。いきなりオーストラリアの最初の2本を見事にセーブしてみせる。一人目のキューエルは左、二人目は右。ちゃんとコースを読んでのファイン・セーブだった。いやはや、この人のPK戦は神懸かり的だ。負けるんじゃないかと疑ったりして、すいませんでした。
 結局、日本は俊輔、ヤット、駒野、高原、中澤が蹴って、エース高原だけが宙にふかして外したものの、あとは全員がきちんと決めて、見事、準決勝進出を果たした。
 まあ、PKにまでもつれこんでしまったせいもあって、ワールドカップの雪辱を果たしたという満足感はないけれど、それでも勝って文句を言ったんでは罰があたろうってもの。少なくても、アジアでならば楽に戦えるだろうなんて思っていたオーストラリアに、そんなことはないという現実を突きつけたられたという意味では、大きな勝利だった。
(Jul 22, 2007)

日本2-3サウジアラビア

アジアカップ・準決勝/2007年7月25日(水)/ハノイ(ベトナム)/BS1

 まさかアジアでこんな風にものの見事に負けるなんて思ってもみなかった。サウジとはこの大会の地区予選で二度対戦して1勝1敗と、確かに一度は負けている。ただし、どちらの試合も失点は運に見放されたという感じのものだったし、サウジがそれほど得点力があるチームだとは思わなかった。そんなチームにいくら守備がいまいち安定を欠いているとはいえ、いまの日本代表が負けるわけがないだろうよと。そう思っていた。
 ところがサウジはあれから監督が代わったとかで、大きく変貌を遂げていた。少なくても攻撃的な選手たちの切れ味の鋭さは、日本よりも上だった。剣豪にたとえるならば、日本は剣技に優れ、手数は多いけれど、あいにく刀がなまくらで、なかなか相手に致命傷を与えられない侍、それに対してあちらは、手数は少ないものの、一刀両断の鋭さを持った名刀を手にした刺客という感じ。今回の日本代表には、そんな相手の太刀筋を見切るだけの力がなかったのだろう。あんなにきれいに3点も奪われてしまったんでは、敗退も当然だと思える。
 1失点目は、セットプレーからの空中戦で競りあった加地が相手に当たり負けしてボールをクリアできず、そのこぼれ球に20番のFWヤセルが素早く反応して、右足を振りぬいたもの。2点目は右サイドからのクロスに9番マレクが飛び込み、ヘッドでどんぴしゃとあわせたもの。3点目は同じ9番がドリブルでペナルティエリアにボールを持ち込み、マーク2枚を振り切って個人技で叩き込んだもの。どれもぐうの音も出ないような鮮やかな得点シーンだった。
 まあ、日本もそれなりに健闘はした。最初の2点は、失点後、間髪入れずに同点弾を叩き込んで追いついてみせたのだから。
 日本の1点目は遠藤のCKからの中澤のヘディング。2点目もセットプレーからのこぼれ球を阿部がバイシクル気味に鮮やかなボレーで決めたもの。どちらも素晴らしいシュートだった。あんないいシュートを決めておきながら負けてしまうなんて、本当にくやしい。
 とにかく敗因は3失点を許した守備の乱調だろう。オシム就任以来、この大会の前まで、10試合を戦って3失点しかしていなかったチームが、この試合だけで3失点だ。そもそもこの大会ではここまで一度も完封勝利がなく、7失点もしているというのは、今回の編成にディフェンス面で問題があったことの証明だと思う。まあ、これまでの親善試合や予選大会とは違い、今回はタイトルがかかっているということで、戦いの質が違ったというのはあるんだろうけれど、それにしてもあまりに極端だ。
 そういう意味では、やはり闘莉王を欠いて、阿部をセンターバックに起用した4バックに無理があったような気がする。なんたってこの試合での2、3点目の失点は、阿部がマークについていた選手の得点だったし……。阿部のサッカー選手としての才能には異論はないけれど、それでも4バックの真ん中として使うならば、僕は坪井のほうがよいと思う。坪井にはこの日の阿部のような素晴らしいゴールは望めなかろうとも。
 まあ、この日の日本代表は、なにも阿部ばかりが悪かったわけじゃなく、やはり全体的に疲労の色が否めなかった。この試合──スタメンはこれまでと同じ──では、序盤から日本が圧倒的に攻め立てていて、最初の20分くらいは日本のボールキープ率が70%なんていう、一方的な展開だった。でもそれだけボールを回していながら、フィニッシュの形が作れない。そうこうするうちに、日本代表の足が止まり始め、サウジが反撃に出るようになった。なんだか、攻めに攻めるもその甲斐なく、あっという間に疲れてしまった、みたいな感じだった。
 やはり連日30度を越えるハノイでの5連戦は厳しかったんだろう。決勝トーナメントが決まった時には、グループリーグ1位抜けしかたら移動がなくて楽、なんて言っていたけれど、いまになると2位で抜けて、各地を転戦しながら戦ったほうが気分転換にもなったし、少しでも涼しいところで戦えて、いい結果が出たんじゃないかという気もする。あくまで結果論だけれど、オーストラリア、サウジアラビアと、この土地にやってきたばかりの両チームが、日本よりも元気に見えたので、なおさらそう思う。
 ということで、日本代表のアジアカップ三連覇の夢はついえた。負けて唯一、救いがあるとすれば、それは三位決定戦の対戦相手が、韓国に決まったことくらいだ (あの国も不思議とこの大会じゃ優勝に縁がない)。オーストラリア、サウジアラビア、韓国というアジアの最強国と続けて戦えるというのは、とても貴重な体験だと思う。明日の糧にして帰ってきて欲しい。
(Jul 26, 2007)

韓国0-0日本(PK6-5)

アジアカップ・三位決定戦/2007年7月28日(土)/パレンバン(インドネシア・スマトラ島)/BS1

 試合開始前のキャプテン同士の握手のシーンを見て、おっと思った。今回の大会では奇しくも、日韓どちらもGKがキャプテンを務めていたからだ。こちらは川口、あちらはイ・ウンジェ(李雲在)。今年で34歳になるのだというこの韓国のGKの顔もすっかりおなじみだ。ハンサムな川口とくらべてしまうとルックスは地味だけれど、W杯には三大会連続で出場しているようだし、実績ではあきらかに川口を上回っている。
 そんな二人の握手で始まった今回のアジア杯での最終戦は、結局、まさにそれが運命だったかのようにPK戦へともつれ込んでしまう。そして川口がオーストラリア戦で見せたような素晴らしいプレーができず、6本続けてゴールを許したのに対して、イ・ウンジェは6人めの羽生のシュートを止めて、韓国に大きな大きな勝利をもたらしたのだった。
 この大会で三位までに入ったチームは、次回大会の予選出場が免除されるという。つまり労多くして益少ないアジアでの試合をさけて、より強い国とのマッチアップに日程を当てられるわけだ。そういう意味ではこの日の試合は、前の試合以上に重要だったといえる。それに負けてしまったのだから、残念無念もなおさらだった。
 無念の思いをさらに煽るのは、この試合でも後半途中で相手に退場者が出て、日本が数的有利な状況が長かったこと。オーストラリア戦にしろ、この試合にしろ、そうやって相手に退場者が出るというのは、それだけ日本のサッカーが相手をてこずらせていた証拠だとは思う。けれど、その結果として、互角の力を持っているはずのオーストラリアや韓国が、日本に対して、他の弱小国と同じように引いたサッカーをするようになってしまったのが誤算だった。どちらもなまじもとが強いチームだけに、なおさら崩すのが難しくなってしまった。こうした展開は、日本にとって非常に不運だったと思う。どちらの国とも、できれば最後まで互角の状態で戦って、きっちりと決着をつけ、いまの日本代表の実力を見極めたかった。
 なんにしろ、一人少ないオーストラリアや韓国に勝ちきれず、サウジには3点を奪われてしまったのだから、いまのチームの実力はそこまでだったのだろう。残念だけれど、そう考えて、これからに期待しよう。まだ伸びしろはあると思うので。
 現状での一番の問題点は、オシムの教え子である選手たちの使い方だと思う。
 今大会において、阿部、山岸、羽生、巻といった選手たちの出来がチームに及ぼした影響は、意外と大きかった。この日はフォーメーションを初戦と同じ形のワントップに戻し、巻と山岸を入れ替えたのみの変更で臨んだ。けれどせっかく二度目の先発の機会をもらった山岸が、恩師の期待にこたえるプレーをしていたとは、僕には思えない。どうせならば巻をそのまま使ったほうが、高原だって生きたんじゃないかと思う。阿部は阿部で、初戦でPKをとられたファールや、前の試合での失点シーンなど、この大会ではあまりにも重要な場面で失点に絡みすぎている。オシム監督が阿部の実力や山岸の将来性を高く評価して、彼らを重用する気持ちはわかるけれど、それが今回のような大事な大会の行方を左右してしまうのは、やはり問題だと思う。オシムさんが日本代表監督に就任して、はや1年が過ぎている。そろそろジェフ千葉への愛着から脱却して、ニュートラルに日本代表監督として選手を使いこなせるようになって欲しいところだ。
 そういう意味で僕は、闘莉王が戻ってくるだろう8月のカメルーン戦で、オシムが阿部をどう使うかに注目している。いまさら中澤を外すことはないだろうし、そうなると真ん中は中澤と闘莉王のコンビで決まりだろう。4バックを選択するならば、これに加地と駒野の4枚が、僕は現状ではベスト・チョイスだと考える。
 オシムがこの形を崩してまで、なお阿部を使うのか。それとも標榜している攻撃サッカーの旗を降ろして、フォーメーションを3バックに変えるのか。はたまた阿部を本来のボランチへと戻し、啓太や憲剛を外すのか。それとも思い切って阿部を外すのか。オシム先生がいかなる采配をふるってみせるのか、大いに注目だ。この先も教え子たちを優遇して結果がともなわないようだと、さすがに愛想も尽きるかもしれない。
 それにしても今回の韓国はあまり韓国らしくなかった。パク・チソン(朴智星)ほか、欧州リーグに所属している選手を2、3人欠いていたそうだけれど、それにしても6試合で3得点という得点力のなさは、他人事ながら問題じゃないかと思う。この大会で日本が初めて相手を完封してみせたといっても、正直なところ、韓国がこの状態じゃ、あまり喜べない (おまけにこっちも完封されているわけだし)。イ・チョンス(李天秀)や清水エスパルスのチョ・ジェジン(曹宰榛)ら、知った顔も少なくない攻撃陣からは、以前の韓国のような迫力は感じられなかった。
 ただその分、ディフェンスはそれなりによかったらしい。失点も得点同様、3点しかしていない。しかもそれらの得失点がすべてグループ・リーグでのもので、決勝トーナメントに入ってからは、3試合すべて0-0で120分を戦っているというのだから、それはそれである意味、すごい気がする。
 そんな韓国だけれど、試合後にピム監督が辞任を表明したとのことなので、また次の監督のもとで違うサッカーを目指すんだろう。まあ、韓国がどう変わるにせよ、次はしっかりと勝たせてもらおう。いまの日本のサッカーがこの先、きちんと熟成してゆくならば、未来はきっと明るいはずだから。

 ということで東南アジア4ヵ国共催のアジアカップ2007もこれでおしまい。決勝戦ではイラクがサウジアラビアを1-0で破り、初のアジア王者の座に輝いた。決勝戦であまり点が入らなかったおかげで、高原はサウジやイラクの選手と並んで、大会得点王ということになったみたいだ。4得点で得点王ってのもちょっとさびしい気がするけれど、まあ結果オーライ。日本代表のFWが大会得点王になったなんて話、ひさしく聞いた覚えがないから、これはなかなかの快挙だろう。素直に祝福したい。
(Jul 29, 2007)