サンフレッチェ広島0-2鹿島アントラーズ
天皇杯・決勝/2008年1月1日(火)/国立競技場/NHK
J1での優勝が決まったのが12月1日だったから、元日のこの天皇杯決勝戦は、あれからちょうど一ヶ月後にあたる。今年の対戦はJ1王者の鹿島とJ2降格が決まった広島。どちらも誰ひとり想像しなかったような成績でリーグ戦を終えた両チームの対決は、順当に鹿島の勝利で終わった。奇跡的と形容したくなるような一ヶ月前のリーグ優勝と比べると、この天皇杯での優勝は運にも恵まれ、至極まっとうな印象だった。
なんたってこの大会は対戦相手に恵まれた。戦った5チームの内訳を見てみると、JFLが1チーム、J2が1チーム、J1が3チームながら、そのうち2チームは降格組──つまりリーグの最下位3チームのうちのふたつだ。一番の強敵は準決勝で当たったリーグ5位の川崎フロンターレだったけれど、それだって順当にレッズが勝ち進んでくるよりは、まだ戦いやすい相手だった。
そもそもレッズに限らず、ガンバやグランパスなど、リーグ戦で大敗を喫したチームで、対戦する可能性があったところが、ことごとくアントラーズと当たる前に姿を消してくれてしまった。対戦したチームも広島の柏木が出場停止だったり、川崎の谷口が出場停止だったりと、本来のベストメンバーではなかった。それに比べて、鹿島は大会の全試合を同じスタメンで戦っている。それは裏を返せば、大会を通じて無理なプレーをしなくて済んだことの証拠だろう。これだけ条件に恵まれれば、二冠の達成自体はなんの不思議もなかった。
どちらかというと不思議なのは、ここまで幸運な条件に恵まれることになった巡りあわせのほう。J1の優勝にしても、鹿島の9連勝よりは、浦和が終盤の5試合を白星ゼロに終わったほうが驚きだったし、そういう意味では今年の鹿島は本当についていたと思う。リーグ序盤の不振や、新外国人の補強失敗を考えると、二冠達成は本当にマジカルだった。ここまでツキに恵まれると、オズワルド・オリヴェイラ監督を「オズの魔法使」と称したくなる人の気持ちがわかる気がする。
ただ考えてみれば、過去に三冠の偉業を成し遂げたのも、トニーニョ・セレーゾの就任一年目だったし、別にオリヴェイラ監督の魔法に頼るまでもなく、もともとアントラーズというのは、そういう幸運な巡りあわせを持ったチームなのかもしれないとも思う。そもそも三冠を達成した年だって、それほど強いチームだった印象はなかったし。
ただ、あの年のアントラーズは非常にディフェンスが安定していて、とても勝負強かった。ここぞというところでは、絶対負けなかった。その点、今年のチームもとても似ている。この天皇杯でも格下相手に延長戦2試合を戦っているわけで、やはりそれほど強かった印象はないものの、それでも負けずに決勝まで駒を進めてきた。そのへんが、愛媛に負けたレッズや、広島に屈したガンバ、ホンダに足元をすくわれたグランパスなど、そのほかのチームとは確実に違っている。
基本的に鹿島には、チャンスがある限り、ひとつのタイトルも逃しちゃいけないという使命感がある。そしてそれがきちんといまのチームにも継承されている。それがおそらく伝統ってものなのだろう。そうした伝統がツキを呼び込んでいるという面もある気がする。
そうした伝統をいま現在、もっとも強く受け継いで体現している存在が小笠原だと思う。そういう意味では、やはりリーグ戦途中での彼の復帰は本当に大きかった。この試合を見ても、攻守にわたる彼の存在感は、やはり抜きん出ている。小笠原抜きでは今回の二冠はあり得なかっただろう。来年は本田のつけていた背番号6を彼が引き継ぐという噂もあるし、そうなればもう移籍話もなくなり、あと数年は強い鹿島がみられそうだ。その間にきちんと後継者が現れてくれることを祈ろう。少なくてもディフェンス面では岩政がそういう存在になりつつあるので、あとは野沢なり、増田なりが攻撃面でチームの舵取りをできるよう、よりいっそう成長してくれるのを待つばかりかなと。あまり期待できそうにない気がしちゃうのが困りものだけれど。
さて、そんなわけで鹿島アントラーズがめでたくも二冠を達成した天皇杯の決勝戦。
この試合では前半の鹿島のディフェンスが圧巻だった。FWとMFによるプレッシングが徹底されていて、広島につけいる隙をいっさい与えいなかった。チーム全体でこれだけの守備ができれば、そりゃ強いだろうさと思ってしまった。
攻撃の面では、本山や野沢が精彩を欠いて、いくぶん迫力不足ながら、それでも内田篤人の今季初ゴールで早々と先制。この一点でもう安心って感じだった。
後半は広島が主導権を握っていた気もするけれど、それでもやはり鹿島のディフェンスは崩れない。試合終了間際には決定的な2点目を奪い、鹿島がほぼ完勝という内容で、三冠達成以来となる7年ぶりの天皇杯を手にした。新井場くんも今度はちゃんと優勝の決まった瞬間にピッチに立っていることができて、なによりでした。
広島はやっぱり柏木の欠場が痛かったと、ペトロヴィッチ監督が言っていた。でもそんなこと言っているようだから、これだけの戦力を保持しながら、J2に降格してしまうんじゃないかとも思う。柏木はたしかにいい選手だけれど、それでもまだ二十歳そこそこ。そんな若い選手にチームの命運を託しているようでは仕方ない。それよりも個人的には、かつてレッズのFWだった盛田がDFをつとめていたのがびっくりだった。いつのまにDFに……。
鹿島に話を戻すと、この日の試合で前半のディフェンスと並んで感銘を受けたのが、途中出場の二人による後半ロスタイムの2点目。この試合が鹿島でのラストゲームになるんではないかと噂されている柳沢がドリブルで持ち込み、自ら作ったシュート・チャンスでラストパスを選択。いかにも彼らしいと誰もが苦笑したそのシーンで、パスの出たスペースに駆け込んできて、豪快なシュートを決めてみせたのがダニーロだった。ダニーロかよ、ここで! 今年一年、期待されながらも不遇をかこち、スタメン落ちした上にノーゴールで終わると思われた彼が、最後の最後にこんなにあざやかなゴールを決めちゃうとは……。彼の苦労を知るまわりの選手たちも本当に嬉しそうに祝福していて、非常に感動的だった。
いやあ、それにしても元日にダニーロの今季初ゴールが決まっての二冠達成とはおそれいった。07年度の鹿島アントラーズは、最後の最後まで本当にマジカルだった。
願わくば今シーズンもこのオズの魔法がとけずにいてくれたらなら──。そうすればきっと、ACL制覇も夢じゃない。
(Jan 05, 2008)