日本4-1タイ
ワールドカップ・アジア3次予選/2008年2月6日(水)/埼玉スタジアム2002/BS1
2010年の南アフリカを目指しての戦いは、雪の降る埼玉スタジアムで始まった。
降雪地帯に住む人からみれば、なんだこの程度、降っているうちに入らないじゃんという雪なんだろうけれど、温暖化の進むこの頃の東京近辺では、雪が降ってるというだけで大変なことのような気がしてしまう。そうでなくても不惑をすぎて、めっきり寒さに弱くなった僕は、こんなコンディションのなかでサッカーやっているというだけで頭が下がる。それは雪のちらつく寒空の下、埼玉に集まった3万5千人の観客に対しても同様。スタジアムの半分が空席であろうと、残り半分はこうして日本代表を愛する人たちで埋まっているんだから、それだけでも偉いものだ。ということで、チームの出来はあいかわらずいまいちだったのだけれど、あまりつべこべいう気になれない一戦だった。
この日のスタメンはGK川口、DF内田、中澤、阿部、駒野、MF啓太、憲剛、遠藤、山瀬、FW高原、大久保の11人。前の試合後に僕が期待したどおりの顔ぶれだったけれど、でもこの日も内容はいまひとつ。相手が格下だから、パスは自由にまわせるものの、やはりフィニッシュが遠い。前半はツートップあわせてシュートがわずか1本だった(高原が枠を外した)。やはりFWがゴールの近くで仕事ができないようじゃ苦しい。
それでも実力はこちらのほうがあきらかに上。そうこうするうちに前半なかばに遠藤が完璧なFKを決めて日本が先制する。よーし、これでこの試合は決まり──っと思ったのが甘かった。そのわずか1分後に、タイの選手に、信じられないようなビューティフルなミドルシュートを決められ、同点においつかれてしまうんだから、びっくりだ。
あの同点の場面はほんと、いただけなかった。あまりにプレスがゆる過ぎた。いくら相手がタイの選手で、おまけにゴールまで距離があったとはいえ、ゴール真正面であんな風にフリーでボールを持たせたら駄目だろう。ああいう風に中盤の底でふっと気を抜いてしまって、思わぬ距離からミドルシュートを決められて痛い目を見るというのは、以前はよくあるパターンだった。でもそれだって、相手が強豪国だったりした場合だ。最近は日本のサッカーも進化したし、プレッシングが徹底されているから、そういうミスはなくなったと思っていたのに、こともあろうかタイに決められちゃうなんて……。まあ、これもアジアのサッカーも日々進歩しているということの証拠かもしれない。
結局、前半はその同点ゴールのショックさめやらぬといった感じで終了。ピッチをあとにする遠藤たちの渋い顔も当然という内容だった。カメラが切り替わってみると、放送席の山本昌邦氏と山口素弘もそうとう渋い顔をしていたのには、ちょっと笑った。
後半についてもそれほどよかったとは思わないけれど、それでも3点を奪っていることだし、勝ち点3はきちんと手に入れたから、とりあえず文句なし。
決勝点となった2点目は大久保のゴールで、そのお膳立てをしたのは山瀬だった。ゴールラインを割りそうなボールをしぶとくキープして、ドリブルでゴール前に切れ込んでみせた。あいにくボールを奪われてしまい、自らヒーローにはなり損ねたけれど、そこに中村憲剛が加わって、途切れかけたチャンスを呼び戻す。相手DFがサイドに蹴りだそうとしたボールは、憲剛が出した足にあたって勢いよく跳ね返り、ゴール前につめていた大久保の足元へ。大久保は瞬時にこれに反応。右足のワンタッチでコースを変えて、ゴールへと流し込んでみせた。ラッキーな展開ではあったけれども、それでも山瀬の諦めない姿勢と中村の積極的な攻撃参加、そして大久保のFWらしい反応のよさがあいまって生まれた、なかなか味のあるゴールだった。
あとの2点はどちらもセットプレーからで、決めたのは中澤と、途中出場の巻。タイは大久保のゴールのあとで、10番の選手が2枚目のイエローをもらって退場してしまい、その時点でもう勝負ありという感じだった。
ということで、日本代表が2010年のW杯出場に向けて、無難な第一歩を踏み出した一戦だった。そういえば、この日もスタンドの個室ではオシムさんが家族ともども観戦していた。前回は母国との対戦だったから無理してきていたのかと思ったら、そういうわけでもなかったらしい。本当にサッカーが好きなおじいさんだ。
(Feb 06, 2008)