鹿島アントラーズ2-2サンフレッチェ広島(PK3-4)
ゼロックススーパーカップ/2008年3月1日(土)/国立競技場
さあ、新シーズンの幕開けだっ──という高揚感に水を差されるような結果になってしまった今年のゼロックス杯。
今シーズンのアントラーズは長年親しんできたワインレッド一色のユニフォームに別れを告げ、ワインレッドとダークブルーが太めのボーダーになった新しいユニフォームを採用した。Jリーグでは赤といえばまずはレッズというイメージが強くなってしまったので、チームとして差別化をはかりたいという意図があったんだと思う。初めてその決定を知ったときにはちょっぴりさびしく思ったものだけれど、いざ試合でその真新しいユニフォームをみてみると、意外と違和感がなかった。これはこれで悪くないかもしれない。
というわけでユニフォームは新しくなったものの、チーム自体はほとんど去年と変化がない。というか、この日のスタメンをみるかぎり、まったく変わっていない。曽ヶ端、内田、岩政、大岩、新井場、青木、小笠原、本山、野沢、田代、マルキーニョスという顔ぶれは、天皇杯決勝のまんまだ。戦力的に変わったのは、ファボンが抜けて、伊野波が加わったことくらいだけれど、その伊野波はベンチだし、鈴木修人ほか新人たちはベンチ入りさえしていないしで、結果ユニフォームが変わったこと以外には、ほぼ去年のまま。これくらい変化がないシーズンというのも珍しい気がする。
対する広島は、J2降格により駒野が磐田へ移籍したものの、そのほかは特に大きな戦力ダウンはないようだった。去就が注目された柏木も残留を決め、今年は背番号10を背負うことになったそうだけれど、なんでもキャンプ中に怪我をしたらしく、この試合は欠場していた。
そんなわけで一年でJ1に帰ってくる確立はかなり高そうな広島だけれど、この試合も天皇杯同様、キーマン柏木を欠いている。駒野がいなくなって攻撃力も下がっているだろうし、これなら負けることはないだろう──そう思っていたところが、いやはや、やられた。2点のリードを追いつかれたあげくに、まさかのPK負け。しかもCBがふたりともレッドカードをもらってしまって、開幕戦は出場停止というおまけつき。なんとも幸先の悪いシーズンの始まりになってしまった。
いや、岩政の退場はある意味、自業自得だから仕方ない。ありふれたファールによる一枚目のイエローカードはともかく、GKの持っているボールを横から奪おうとして与えられた二枚目のカードはあまりに余計だった。あれがイエローカードに値するファールかどうか、サッカーのルールに詳しくない僕には判断ができないけれど、少なくてもすでに一枚イエローをもらっている選手が──しかもチームの守備の要たる選手が──やるべきプレーじゃない。いくらタイトルがかかっているとはいえ、これは実質的にはシーズン開幕前のエキシビジョン・マッチだ。そこまでして点を取りにゆく必要はないだろう。この試合は開幕前の調整のための試合だくらいに割り切って、どっしりかまえていて欲しかった。
とにかくそんな風に岩政が二枚目のイエローをもらって退場してしまったのが、開始からわずか12分。アントラーズはいきなり数的不利な状況での戦いを余儀なくされることになった。
でもまあ、相手は今シーズンはJ2の広島だ。これくらいのアドバンテージがあったほうが、いい意味での緊張感があって、調整にはもってこいかも──そんなふうに思う余裕が初めのうちはあった。だから前半の残り時間が少なくなってから、広島のリ・ハンジェ(李漢宰)がこれまた二枚目のイエローカードをもらって退場してしまったのは、ある意味では余計だとさえ思った。
なんにせよ、前半はおたがいに退場者ひとりずつを出して、スコアレスのまま終了。でもって数的にイーヴンな状態に戻ってのぞんだ後半は、圧倒的に鹿島のペースとなった。開始から10分もしないうちに、本山と野沢がそれぞれ見事なミドルを決めて、あっという間に2-0と広島を突き放す。やっぱり今年もこの中盤の構成力は強力だ、こりゃ今日は楽勝だと思った。この時点では勝利を疑いもしなかった。
なんだか雲行きがあやしくなってきたのは、残り30分強という時間帯になって、広島が久保竜彦を投入してきてから。
去年、故障のために満足にプレーができず、横浜FCから戦力外通告を受けた久保は、今年になって古巣のサンフレッチェに復帰した。復帰したというよりは、どこも獲得しようとしなかったために、拾ってもらったという感じだった。僕は久保が大好きで、歴代の日本代表のFWの中ではカズの次にすごいと思っているので、彼がそんな扱いを受けてしまうのはとても残念だった。どうせならばFWが駒不足気味の鹿島で獲って欲しかったさえ思う。
なんにしろ、この試合の楽しみのひとつは、そんな久保の元気な姿を見ることだった。とはいっても、そんな久保の投入をきっかけに、試合の流れが広島へ傾いていってしまうなんて展開は、当然のごとく、想像も期待もしていなかった。
けちのつき始めは、後半30分に久保に与えられたPK。こまったことにこの場面では、テレビ放送を観ていてもなにがPKなのか、さっぱりわからなかった。試合後のニュース番組で見ても、やはりなにがファールなんだかわからない。
日本の悪いところは、こういうシーンできちんとリプレイを見せてくれないことだと思う。レフェリーだって人の子だ。ときにはまちがいもする。それは仕方ない。でもそれは、まちがえたことをまちがえたと指摘しちゃいけないということとは違う。まちがいかそうじゃないかを確認した上で、それを踏まえて先に進まないと進歩なんてない。なんだかはっきりしない判定があったのならば、何度でもリプレイをみせて欲しい。こちらの納得がゆくまでみせて欲しい。そうしないで、PKだとレフェリーが言ったんだから、素直に従えって言われたって納得できない。そんな姿勢は、それ自体がまちがっていると僕は思う。
とにかくこのPKには非常に疑問が残った。岩政の退場は致し方ないと思ったけれど、このPKは素直に受け入れられなかった。そうしたら、そのPKのわずか5分後に、今度は佐藤寿人にヘディングを決められて同点に追いつかれてしまう。寿人、なにもこんな試合でそんなヘディングを決めてくれなくたってさ……。
これで結局、試合はPK戦へ──。でもってそのPK戦で、アントラーズはダニーロ(途中出場)、本山のふたりが外してしまう(今年もダニーロは不安要素だ……)。この時点で万事休すかと思った。
ところが、そのあとの広島のPKを、曽ヶ端が2本を続けて止めてみせる。うぉー、すごい曽ヶ端。さすが守護神と、鹿島サポーターならば誰だって盛りあがる。ところがこの日の主審は、その2本とも、相手が蹴る前に曽ヶ端が一歩前に出たからという理由で、蹴りなおしを命じるのだった。そんなのあり?
PKといえば、この日は試合中の久保のPKも一度成功したあとで、蹴りなおさせられていた。ひとつの試合でPKを三本も取り消されたゴールキーパーなんて、そうそういないだろう。新人で経験が浅いというんならばともかく、曽ヶ端は日本代表の経験もある十年選手だ。いまさらそんなミスを連発するとは思えない。彼にしてみれば、どれも普通のPKだったのに、それがこの日のレフェリーたちの標準にはあわなかったということなのだと思う。
とにかくこの日の主審の家本という人は、試合の空気がまるで読めていなかった。いまどき
決着がついたあと、あまりに憤懣やるかたない判定の連続に怒り心頭に達した鹿島サポーターがピッチに乱入して、スタジアムは一時、騒然たる雰囲気になった。いいことだとは思わないけれど、乱入したくなった気持ちはよくわかる。おまけに、PKの判定に抗議したアントラーズの選手三人にイエローカードが出されて、大岩までが退場扱いになってしまった(彼は主審とは口をきいていないと言っている)。つまり次週の開幕戦、アントラーズはレギュラーのCBをふたりとも欠いたままでのぞまなくてはいけないことになる。ああ、なんてこったい。踏んだり蹴ったりとはこのことだ。
まあ、ポジティブに考えるならば、岩政と大岩が出られなくなったことで、伊野波の開幕戦でのスタメン・デビューが確定的になったのだから、ある意味では興味深い展開だともいえる。伊野波がこのチャンスを生かして、チーム内でみずからの存在感を示すことができるのか、大いに注目したいと思う。
なにはともあれ、2008年のJ1開幕まであと一週間──。この負けで余計な厄がおちたと思いたい。
(Mar 03, 2008)