2008年12月のサッカー

Index

  1. 12/06 ○ 札幌0-1鹿島 (J1・第34節)
  2. 12/18   G大阪3-5マンチェスターU (クラブW杯・準決勝)
  3. 12/21   パチューカ0-1G大阪 (クラブW杯・三位決定戦)

コンサドーレ札幌0-1鹿島アントラーズ

J1・第34節/2008年12月6日(土)/札幌ドーム/NHK総合

 アントラーズがJリーグ・ディヴィジョン1で2連覇の偉業を達成した一戦。
 試合後に感想を聞かれて「ほっとした」と口にしている選手が何人もいたけれど、僕もそれは同じ。奇跡的な逆転優勝を果たした去年とはちがって、今年の場合は、最終節で勝てば自力優勝──しかも対戦相手はリーグ最下位の札幌──ということもあって、ここまでくれば優勝して当然だという、去年とは逆のプレッシャーがあった。だから優勝を決めた喜びも爆発的なものではなく、どちらかというとしみじみとしたもの。いやぁ、最後につまずかなくて、本当によかった。
 それにしてもタフな1年だった。シーズンを通じてコンスタントにプレーできた選手はほとんどいない。小笠原の長期離脱はもとより、マルキーニョスや両サイドバックも故障でチームを離れる時期があった。開幕当時はスタメンだった田代、野沢、大岩らは不調やチーム事情でスタメンを追われているし、本山もすい臓に障害をかかえていて、痛みをこらえながらプレーしていたという(泣ける)。
 結局、34節すべてに出場しているのは曽ヶ端、青木のふたりだけ。次点は岩政の33試合(ゼロックス杯で退場をくらって開幕戦は出場停止だった)。まあ、裏返せば、センターの縦のラインを守るこの3人がほぼ全試合に出場できたことが、守備力の安定をもたらしたのは大きかった。とくに青木がボランチというカードの出やすいポジションで全試合出場を果たしてるのはあっぱれだと思う。
 ただ、ディフェンスの要であるこの3人にしても、クラブを優勝に導く活躍をみせながら、日本代表には呼ばれなかったり、呼ばれても結果を出せなかったりしているわけで、この1年に完全に満足しているとは思えない。大きな目標だったアジア制覇には失敗したし──しかも自分たちが敗北を喫したアデレードを完膚なきまでに破って、G大阪がアジア・チャンピオンについただけに思いはなお複雑──、予選を免除されたナビスコ杯は準々決勝のわずか2試合で敗退してしまったし、例年ならばリーグが終わったあとの最後のひと仕事として残っているはずの天皇杯でも、今年はすでに9年ぶりの敗退が決まっている。
 なおかつ勝利数18、勝ち点63という数字はともにリーグ・トップながら、去年と比べるとずいぶんと少ない(去年は勝利数22、勝ち点72)。レッズが内部崩壊を起こして沈んだり、ガンバがACLの過密日程のために低迷したことに助けられた部分は少なからずあると思う(この2チームには勝てていないわけだし)。
 リーグ優勝がもっとも重要なタイトルであるという事実には変わりがないけれど、アントラーズがすべてのタイトルを取りにゆくことをモットーとしているチームである以上、ほかがこれだけ不本意な結果に終わると、どうしてもやり残した感は残る。
 でもだからといってこの優勝の価値が薄れるなんてことはないわけで。故障者が出たり、主力が不調だったりでチーム力が安定しない中、綱わたりするようにやりくりして1年をしのいできた果てに、なんとかたどり着いた連覇の偉業だ。ほっとしたという言葉は選手たちの本心だろうけれど、そうした思いとともにもたらされた栄冠は、地味ながらもズシリと重い。きびしいシーズンを勝ち抜いた選手やスタッフの皆さんに心からご苦労さまと云いたい──そしてもちろん、ありがとうとも。

 さて、ということで以下はこの日の試合について。スタメンは前節と一緒だった。
 始まってちょっと驚いたのが、札幌が意外と強かったこと。右からのサイド攻撃にはかなり迫力があるし、FWのダヴィもマルキーニョスにつづくリーグ2位のゴール数を記録しているだけあって、ゴール前ではけっこうこわい。22歳のMF上里は「こいつ何者?」とびっくりしてしまうほどのキック力を持っている。優勝を目前にしてこちらが硬くなっていたというものあったのかもしれないけれど、前半に関してはほぼ互角という感じだった。なんでこれだけのプレーができるチームが、ダントツの最下位に沈んでいるんだろうと不思議になってしまった。
 それでも地力の違いは前半のうちに出た。チームに勝利をもたらすことになった虎の子の1点は、前半35分の野沢の豪快なミドル。いやあ、これは素晴らしいシュートだった。この日のチームの最初のシュートも、彼が相手GKの位置を見て打った、いいアイディアのループだったし(これも惜しかった)、オガサ、ダニーロがいない現状でアントラーズが優勝するには、彼の活躍が必要不可欠だと思っていたけれど、大事な試合で本当にいい仕事をしてくれた。ナイス。
 現状のディフェンス力ならば1点でも取れば負けはない。引き分けならば優勝はほぼ確定という状況なので、この1点は本当に大きかった。後半はマルキーニョスを中心としたカウンターで何度も好機を作りつつ、守るほうでは適当に時間をつぶしながら危なげなく守りきって、無事ゲームセット。6度目のリーグ優勝の栄冠は、連覇という快挙にはふさわしからぬ安堵感とともに訪れたのだった。
 優勝に加えて、通算21得点のマルキーニョスの得点王が決定。アントラーズとしては初の得点王だ。こちらもとても嬉しい。
 それにしても、この試合でのマルキーニョスは本当にゴールに嫌われていた。さんざんシュートを打っているのに、まるで決まらない。ようやく決まったと思ったらばオフサイドだったりするし、なんでこんなに決まらないのと笑っちゃうくらいに決定力を欠いた。もしも彼が通年この調子だったとしたら、絶対優勝はなかっただろう。
 とはいっても今年の彼の貢献度の高さは文句なしだった。ゴール・ゲッターとしての活躍ももちろんながら、守備での貢献度が高いこと高いこと。攻守ともにこれだけ貢献してくれるFWはそうはいない。MVPはおそらく彼で決まりでしょう。

 さて、他チームに目を向けてみれば、前節まで2位だった名古屋は4位の大分と引き分けて3位に後退。2位には川崎フロンターレが上がってきた。フロンターレの勝利数は18で、鹿島と一緒。関塚監督が不整脈で途中降板したというのに、優勝にあと一歩という成績を残しているのは、すごいと思う。
 ここまでの上位3チームは来期のACL出場が決定。でも、川崎にしろ名古屋にしろ、JとACLを両立させて戦い抜けるだけの選手層の厚さはなさそうなので、今年の好成績がアダになって、来年は苦戦を強いられるんじゃないかと思う。これだけ故障者を出してなお今年のリーグを制したアントラーズのほうが有利だろうと(贔屓目ながら)僕は考える。
 一方の降格レースでは、ジェフ千葉がFC東京を相手に、2-0のビハインドから後半だけで4点を奪うという奇跡的な逆転勝利を上げて、残留を決定した。僕はテレビ放送でその試合の途中経過をみて、ひとりで「マジかよ」と叫んでいた。この逆転勝利はこちらの試合よりもよほどインパクトがあった。
 結局、千葉に追い抜かれて逆転でJ2に降格することになったのは、フロンターレに負けた東京ヴェルディだった(岡田主審の不可解な判定で福西が退場になったのが気の毒のきわみ)。J1・J2入れ替え戦にまわる16位は、なんとジュビロ磐田だ。かつて鹿島にとって目の上のたんこぶだったヴェルディと、鹿島とともに2強といわれたジュビロが、いまや両方とも降格レースの真っ只中にいるというんだから、盛者必衰のことわりというか、なんというか……。
 あらためて鹿島アントラーズという常勝チームのサポーターであることの喜びをしみじみと味わった08シーズンの最終戦だった。
(Dec 08, 2008)

ガンバ大阪3-5マンチェスター・ユナイテッド

FIFAクラブワールドカップ・準決勝/2008年12月18日(木)/横浜国際総合競技場/日本テレビ

 AFCチャンピオンのガンバ大阪、世界のマンUに挑戦するの巻。
 いやしかし、これがおもしろい試合だった。試合後の記者会見で西野さんは「おもしろい試合だったと言われたけれど、自分はそうは思わない」と不本意そうな表情を見せていたそうだけれども、第三者としての無責任な立場で言わせてもらえば、こんなにおもしろい試合はなかった。今年観たなかで、もっともおもしろい試合だったんじゃないかとさえ思う。
 ガンバはGK藤ヶ谷、DF加地、中澤聡太、山口、MF安田、遠藤、明神、橋本、FWルーカス、播戸、山崎というスタメン。メンバー表だけ見ると3-4-3だけれど、安田は右SB、遠藤がボランチ、橋本とルーカスがトップ下で、実際は4-4-2という形だった(と思う)。二川は怪我のためベンチ。
 現在のガンバがこのメンツで展開する中盤の構成力を武器にしたパスサッカーは──スタメン唯一の外国人であるルーカスも、ブラジル人らしい決定力よりもチーム・プレーが得意な日本人っぽいタイプであることもあり──、内容的にも実力的にも、そのまま日本代表に重なると僕は思っている。
 いっぽうでクラブチームの実力は、代表チームのそれを凌駕するとも言われる。その意見に従えば、いまのマンUはクラブ、代表という枠を超えて、世界最強のサッカー・チームのひとつであるということになる。そんな世界最強のチームを相手に、日本代表と同じベクトルを持つ日本のトップ・クラブのサッカーがどれだけ通用するのか──それがこの試合のなによりの見どころだった。
 それにしてもなぁ……。僕は海外のサッカーはほとんど観ないので、クリスティアーノ・ロナウドとテベスが同じチームでプレーしていることさえ知らなかったりしたのだけれど、さすがは世界最強のマンチェスター・ユナイテッド。サッカーの僻地、日本のクラブが相手では、まるで本気を出そうとしない。余計なプレスはかけずに、どっしり構えて受けて立ち、いざマイ・ボールとなると、少ない手数でゴール前までボールを運んで、迫力満点のカウンターを仕掛けてくる。決勝戦をみすえて省エネ・サッカーを展開しているのがありありで、憎らしいくらいに余裕しゃくしゃくだった。
 相手がそんな調子だから、ガンバにもけっこう、つけいる隙がある。持ち前の細かいパスワークで、前半から何度か惜しいチャンスを作り出していた。ただ、よくあるパターンで得点には至らない。そうこうするうちに、マンUにセットプレーから先制点を許し、前半のロスタイムには、またもやセットプレーから追加点を奪われて、2-0で前半を終了。どちらもCKからのヘディングによる失点で、相手の高さの前になすすべなしといった印象だった。ほんと、マンUの選手はでかかった。特にGKのファン・デル・サールや最終ラインのDF陣はJリーグでは未体験の高さだと思った。あれはしゃれにならない。
 実力差を考えれば、この2点でガンバの負けは決まったようなものだったし、この時点ではその後の派手な展開は予想だにできなかった。
 試合が大きく動くきっかけとなったのは、後半29分に決まった山崎のゴール。何度となく好機を作り出していたガンバの攻撃が、その時間になってようやく実を結んだ形だった。なんでもこの大会が始まってから、準決勝でヨーロッパのチームから得点をあげたのは、今回のガンバが初めてとのことで、Jリーグのファンとしては大いに盛りあがった。
 しかしながら、さあ、これで1点差だ、おもしろくなったぞと思ったのもつかの間……。なんとそのゴールのリプレイを見ているあいだに、途中出場で登場したばかりのルーニーにゴールを決められてしまう。その間、わずか30秒? いったい、なにごとかと思った。ルーニーがセンターライン付近からのロングボールをトラップするともなく受け取って、中澤聡太のマークを交わしながら打ったシュートは見事のひとこと。今大会はバロンドールを獲得したクリスティアーノ・ロナウドばかりが注目されているけれど、僕としてはこの試合に途中出場していきなり2得点したルーニーのすごさのほうが印象に残った。
 それにしても前半ロスタイムの失点といい、せっかくの追い上げムードが一瞬で吹き飛ぶこの失点といい、この日のガンバは点の取られ方が不味すぎた。どちらもそこで取られちゃいけないだろうという最悪のタイミング。この辺のもろさが世界との差だと思う。
 まあ、逆にいえば、そこでちゃんと得点して相手を突き放せるところが、強いチームの強さの秘訣だという気もする。とにかく初失点からわずか5分足らずで、たて続けに3得点してみせたマンUの破壊力は圧巻だった。この5分間に世界との距離感が凝縮していた。あまりの差に自嘲的に笑わずにはいられなかった。
 それでもこの日のガンバが素晴らしかったのはここからだ。5-1という屈辱的なスコアを跳ね返すべく果敢に攻撃を仕掛けてゆき、そこから見事2点を奪い返してみせたのは心底あっぱれだった。なんたってボール支配率やシュート数では最終的にマンUを上回ったというし、後半だけ見れば3-3のタイだ。この数字は世界に誇れる。
 ガンバの2点目は播戸のクロスがペナルティエリア内でのハンドを誘って、そのPKを遠藤が決めたもの。ファン・デル・サール対コロコロPKの遠藤──このシチュエーションも最高だった。でもって結果は遠藤の勝ちながら、遠藤いわく「相手が最後まで動かなかったから普通に蹴りました」とのことで、ヤットに得意のコロコロPKを蹴らせなかったファン・デル・サールもやはりすごかった。本当にこの人には何度も惜しいシーンを止められた。GKもさすが世界最高峰だった。
 しかしながら、そんなファン・デル・サールも後半ロスタイムに橋本に3点目を決められたときには、ゴールポストを蹴とばすほど悔しがっていた。1点目同様、これもガンバらしいパス・ワークのよさから生まれたきれいなゴールだったし、8ゴールが乱れ飛んだこの試合最後のゴールがガンバの得点だったのも、こちらとしてはいい気分だった。終わりよければすべてよしというように、この3点目のおかげで気分的にもかなりすっきりした。
 マンチェスター・ユナイテッドがいまいる場所が山の頂上だとするならば、この試合から判断するかぎり、僕らのJリーグのサッカーはせいぜいまだその半分くらいにしか達していない。ただ頂上まではまだまだ遠いけれど、まったく届かないというほどではなさそうだ。これまでに登ってきた高さだって、けっして悲観するほどには低くはないだろう。目的地がどれほど遠かろうとも、いずれかならずヨーロッパのクラブと互角に戦える日がくることを信じて、僕は明日からもJリーグを応援してゆきたいと思う。
(Dec 21, 2008)

パチューカ0-1ガンバ大阪

FIFAクラブワールドカップ・三位決定戦/2008年12月21日(日)/横浜国際総合競技場/日本テレビ

 マンUとの一戦があまりにおもしろかったので、続けてみることにした三位決定戦──ガンバ大阪、メキシコ王者に挑むの巻。
 負けてあたり前だったマンUとは違い、パチューカはメキシコのチームだ。メキシコ人は身体能力的には日本と大差がないし、サッカーもパス中心で日本に近いイメージがある。でもってFIFAランキングは日本よりも上。そんな国からきたクラブとどれくらい戦えるかというのは、世界におけるJリーグの位置づけを計る上で、絶好のバロメーターになるだろう。なにより実力伯仲したおもしろい試合が観られそうだと思った。だにしかし。
 そこはやはり3位決定戦だからか、相手のクラブに馴染みがなさすぎたせいか、それとも得点が1-0という最小スコアで終わってしまったからか、試合は思ったほど盛りあがらない。ボール支配率は圧倒的にパチューカが上だったようだけれど、観ていてもそんな感じはしなかった。ガンバは無難に相手の攻撃をしのいで、要所要所で持ち前の華麗なパス・サッカーを展開。前半29分にまたもや山崎のゴールで先制すると、終盤に押し込まれつつもその1点を守りきって、クラブW杯3位の座を手にした。
 この2試合を通じて一番印象的だったのは、やはり遠藤。攻守にわたって最初から最後までものすごい存在感だった。中盤の底から無理のない的確なボールさばきで試合を組み立ててゆくそのプレーは、まさに円熟の味。「無理のない」という部分が、ときたま「消極的」とも感じられてしまう点がなきにしもあらずだけれど、それでも現在のJリーグにおいて最高の選手のひとりであることはまちがいないと思う。
 なにはともあれ、去年のレッズにつづいて2年連続でJリーグのクラブが3位となって、めでたしめでたしでした。決勝戦ではマンチェスター・ユナイテッドがリガ・デ・キト(エクアドル)を1-0で破り、大方の予想通りにクラブ世界チャンピオンの座についた。決勝点を決めたのはルーニー。やっぱり彼はすごかった。
(Dec 21, 2008)