秋晴れの空の下、緑のピッチと真っ赤なスタンドの対比が目に鮮やかなヤマザキナビスコカップの決勝戦。
いや~、それにしても疲れる試合だった。延長ふくむ120分間。なかなか点の取れない厳しい試合を制して、アントラーズが見事15個目のタイトルを獲得した。結局、今回のナビスコカップでアントラーズは、準々決勝以降のすべての試合で120分間戦っているとのこと。いやぁ、お疲れさまでした。
この日の決勝に臨んだスターティング・メンバーは、曽ヶ端、新井場、青木、中田、アレックス、柴崎、小笠原、遠藤、野沢、大迫、興梠の11人。オリヴェイラさん、なんとタイトルのかかったこの試合に、このところスタメンからはずれていた興梠を起用してきた。
まぁ、でもその気持ちもわかる気はする。なんだかんだいいつつ、3人のFWのなかでは、運動量はぴかいちだから。興梠がいるときの方が、攻撃のリズムもいい気がするし。現状では得点能力は田代が上かもしれないけれど、チーム全体としてのバランスは、興梠が入ったときの方がよくなる印象がある。
とはいえ、今年はまったく結果の出せていない興梠だ。この大事な一戦で興梠スタメンというのは、ある種の賭けに出たかなと思った。
で、その賭けに勝って、興梠のゴールでアントラーズが見事優勝!――というのが、試合前の僕の希望的観測だったのだけれど、その予想は結果としてはハズレ。興梠はこの試合でもノーゴールに終わってしまった。あぁ……。
とはいっても、延長戦での決勝ゴールのアシストは彼なのだから、まあ、監督の期待には答えたといってもいい。最後の最後まで足が止まらないそのプレーぶりはあっぱれだった。あとはもうちょっと、自分で決めてやるんだという積極性があればなぁ……。今年の興梠に足りないのは、なにがなんでも自分が決めるんだという、つねに自らゴールを目指す姿勢だと思う。ゴール前でパスを選択しすぎ。まあ、せっかく決勝ゴールのアシストを決めてくれた選手にそういうことをいうのもなんだけれど。
なんにしろタフな試合だった。前半は一進一退って感じで、試合が大きく動いたのは後半から。後半も早い時間帯に、山田直樹が2枚のイエローカードを立てつづけにもらって、退場してしまう。
そこからは完全に鹿島押せ押せの展開。オリヴェイラさんも積極的に動き、まずは遠藤を田代に替えて3トップとすると、さらには相手の右サイドは怖くないと見たのか、左サイドバッグのアレックスに替えて、フェリペを同じポジションで起用するという大胆な采配に出る。この超攻撃的布陣のためもあり、こりゃいつ決勝ゴールが決まってもおかしくないという時間帯がつづいた。ところがそれが決まらない。
そうこうするうちに、青木の右サイドでのなにげない競り合いに対して、いきなりイエローカードが出される。で、青木もそれが2枚目だったもんで、こちらも退場になってしまう。
山田の退場も、やや厳しすぎる嫌いはあったけれど、青木のほうはまったく納得がゆかなかった。そりゃ左サイドの突破をはかった相手を体をはってとめようとはしたけれどさ。それほど相手のビッグ・チャンスというシーンではなかったわけだし、あれで退場ってのはないだろう。単に山田の退場とバランスを取ったとしか思えない。あまりの判定にオリヴェイラさんもあきれて苦笑していた。ああいう場面にしては珍しい。
この日の主審の東城さんという人は、序盤からおやっと思うようなイエローカードを切っていたので、これはもしや危ないかもとは思っていたんだったが、まさか両方に退場者が出るとは思わなかった。あのジャッジには疑問おおあり。
この日の青木はセンターバックとしてプレーしていたので(岩政故障中)、この退場劇でアントラーズのCBは中田浩二ひとりになってしまった。ベンチにはルーキーの昌子源という子が控えていたようだけれど、さすがにこの大舞台にルーキーの途中出場は荷が重い。結局、新井場をCBへ、柴崎を右サイドへシフトして急場をしのぐことになった。
要するに、ここからの4バックは、柴崎、新井場、中田、フェリペという形。わぉ、プロパーなDFがひとりもいないじゃん! って、それでもしっかり守り切れてしまうところが、鹿島のすごいところかもしれない。柴崎もサイドバック、意外といけていた。120分間フル出場してなお涼しい顔をしているし、ほんとこの子は底が知れない。
あと、スタメンの右サイドバックが西ではなく新井場だってのも、この展開になってみると大正解だった。西がスタメンだったら、さすがにCBは任せられなかっただろうし、となれば昌子くんの出番となって、その後の増田の出番はなかったかもしれない。ここんところでもオズワルド・オリヴェイラの采配はなにげにマジカルだった。さすがオズの魔法使い。
ということで、両方とも10人ずつになって、試合はまた振り出しに戻った。とはいえ、基本的なパターンはそれ以降もそうは変わらず。基本こちらがボールをまわして組織で攻め立てる一方で、レッズがたまのカウンターから、原口やエスクデロの個人技でこちらのゴールを脅かすという図式。
それでも双方なかなか点が入らないじりじりとした展開のまま、試合は延長に突入。で、アントラーズは延長とともにオガサを下げて、増田を入れてくる(レッズも啓太が交替)。ここまできて、ようやくチーム唯一の代表選手の登場だ。延長戦のおかげで増田に出番がまわってきたんだから、とりあえず90分で勝負がつかなくてよかったかもしれない、なんてちょっと思った。
なにはともあれ、その延長前半に試合をようやく決めてくれたのは、途中出場の田代を加えた3トップだった。田代がハイボールを胸トラップで落とし、左サイドをフリーで攻め上がった興梠にスルーパス。興梠がこれをグラウンダーのクロスでファーサイドに流し込むと、その先に大迫が待ち構えていた。フリーの大迫はこのボールにあわせるだけ。3人のFWの見事な連係から生まれた決勝ゴールだった。いやぁ、勝ってよかった。
レッズは十日ほど前にペトロヴィッチ監督が解任され、ユースの監督だっだとかいう堀孝史という人が指揮を取っていた(俺よりひとつ年下)。そのせいか、スタメンの顔ぶれがリーグ戦のときとか変っていて、鈴木啓太や山田暢久がスタメンに名を連ねていたのが嬉しかった。
内容的にもリーグ戦より粘りづよいサッカーをしている気がした。攻めはやはり個の才能頼りの感が否めないけれど、それにしたって、エスクデロ、原口、梅崎、柏木ら、攻撃的なセンスのある有望な若手は本当に多いわけで(あまりに代表でなじみの選手が多いせいで、レッズのシュート・シーンに思わず「あ、惜しい」とか言っているやつ)。山田直樹がこの日の退場劇の悔しさをバネに一皮むけて、真の司令塔として機能し出すようだと、来年のレッズは怖いかもしれない。
なにはともあれ、この日みたいなサッカーができていれば、レッズのJ1残留はなんの問題ないでしょう。なによりレッズには日本一のサポーターがついているわけだし。ほんと延長後半の大歓声はものすごかった。敵ながらあっぱれでした。
いやぁ、それにしてもオリヴェイラ監督はこれでついに国内タイトルを完全制覇ですよ。就任以来のこの5年間でタイトルを取ってない年がないってんだから、冷静に考えるとものすごい(冷静に考えなくてもすごい)。
こうなるとあとはもうアジア制覇を残すのみってことになるけれど、今年はもうリーグ戦での3位以内は無理になってしまったから、来年のACLに出るには天皇杯も取らなきゃならない。基本的に「目指せ全タイトル!」がモットーのクラブとはいえ、実際に2冠を達成しなきゃならないというのは、さすがにハードルが高いよなぁ……と思う。
でもまあ、いまだにACLだけ獲ったことがないってのは、逆に天皇杯に向けて、ひいては来季に向けての大きなモチベーションになりそうな気もする。
じつは原発事故のせいで、オリヴェイラさんとの契約も今年限りになるんじゃないかと心配していたりするんだけれど、天皇杯に勝ちさえすれば、また話も違うかなと。大迫も試合後のインタビューで、天皇杯も勝つつもりだから応援よろしくといっていたし、とりあえず期待して行方を見守ろう。
(Oct 29, 2011)