鹿島アントラーズ2022年の公式戦初陣。対戦相手はガンバ大阪でスタジアムは吹田。今年は開幕前から不安要素しかないような印象だったけれど、結果は思わぬ快勝だった。なんと開幕戦での勝利は7年ぶりだとか。ここ2年の黒星発進はともかく、まさかそんなに長いこと勝ってなかったとは……。
まぁ、なんにしろこの試合を観るまで、今年は本当に期待できないと思っていた。
遠藤康、犬飼、町田、永木、レオ・シルバ、永戸、白崎といった実績のある選手が大量に移籍してしまったにもかかわらず、補強は出戻りの鈴木優磨と名古をのぞくと、樋口雄太(鳥栖)、仲間隼斗(柏)、中村亮太朗(甲府)、キム・ミンテ(札幌)という誰それって顔ぶれだったし。目利きの鹿島のスカウトが選んだのだから、みんないい選手なんだろうとは思うけれど、僕個人は知らない名前ばかりだったから、いなくなった選手たちとの比較で、どうしても戦力ダウンの感が否めなかった。
とくに犬飼、町田の抜けたところにキム・ミンテってのがなぁ。すでに外国人枠が足りない状態なのに、DFの補強に外国人呼んできてどうするんだって思った。今年もクォン・スンテが残留したので、彼を正GKとして使うならば、連携面で韓国人DFはありなのかもしれないけれど。でもわざわざ外からDFを補強するくらいならば、なんとしてでも犬飼を引き留めて欲しかったぜ……。
なんにしろ、去年レギュラーだったCBがふたりもいなくなってしまったのがいちばんの不安要素。今年は関川とキム・ミンテを軸に、林やブエノを併用して回してゆくことになるんだろう。背番号3と4が欠番のままなので、もしかしたらシーズン途中での補強も視野にいれているのかもしれない。あと、この日の試合では後半から三竿がCBとして出場していたけれど、なんでも今年は三竿のCB起用もオプションのひとつらしい。それはちょっとびっくり。
そんなわけで守備面では不安があるものの、とりあえず攻撃面では特に心配なさそうではある。去年いたブラジル人のうち、レオ・シルバを除く全員が残留しているし――まぁ、この日はファン・アラーノもカイキもベンチにいなかったけど――上田綺世、鈴木優磨、エヴェラウドの三人からFWを選べるのってそうとう強力だろう。
あともうひとつの不安要因が監督。ザーゴがスタートダッシュに失敗して解任に追い込まれたのが記憶に新しいので、新監督のレネ・ヴァイラー氏にもどれだけ期待していいのかわからない。しかも感染症予防の入国規制にかかっていまだチームに合流できていないとくる。おいおい、大丈夫なのかと思わずにいられない。
この開幕戦で監督代理を務めたのは、今季から新しくコーチに就任したばかりの岩政大樹だ。さすがに鹿島のことはよくわかっているだろうけれど、これまでプロとしての監督歴がないだけにその手腕は未知数。直前の水戸とのプレシーズンマッチでは十何年目にして初の黒星を喫したというし、本当に大丈夫なのと思わずにいられない。
さぁ、監督不在の新体制のもと、岩政はいかなるサッカーを見せてくれるのか――。
ということで、注目のこの日の先発メンバーは、GKがクォン・スンテ、DFが常本、キム・ミンテ、関川、安西、ダブル・ボランチがディエゴ・ピトゥカと新加入の樋口、攻撃的MFに土居と荒木、そしてFWが上田綺世と鈴木優磨のツートップだった。
この布陣をみて、おーっと思ったのがフォーメーションが4-4-2だったこと。
相馬のときは基本ワントップだったから、綺世と優磨、FWがふたり並んだツートップの布陣をみただけで、これだこれと思った。そうそう、俺が見たかったのはこの伝統の4-4-2だったんだと。このメンバー表を見ただけで、あ、もしかしたらきょうは期待してもいいかもと思った。
でもって、いざ試合が始まってみると、この布陣がみごとに機能する。とくに鈴木優磨が効きまくり。ピッチを縦横無尽に動き回る彼のアグレッシブさがチーム全体に波及しているような感じで、全員が積極的にシュートを打って出る。
公式記録ではシュート数28だけれど、DAZNの配信中は36本となっていた。そのうち枠内が19とかいうんだから、どんだけ打ったんだよって話だ。ガンバのGK石川慧(この日は東口がいなかった)がファイン・セーブを連発していなければ、あと2、3点は入っていてもおかしくない展開だった。やっぱシュートの多い試合は観ていて楽しい。そしてそれだけ打てば得点も生まれる。
今シーズン最初の祝砲をあげたのは上田綺世。前半20分に右サイドに抜け出て右足を振り切り、豪快なシュートをゴールネット左隅に突き刺してみせた。笑っちゃうくらい豪快な先制点だった。
その6分後にガンバの小野瀬にセットプレーからのこぼれ球を芸術的なミドルで決められてすぐに同点に追いつかれるも、そのすぐあとに土居聖真が相手DFのフィードを高い位置でカットすると、そのボールを鈴木優磨が拾ってゴールへと流し込み、ふたたび勝ち越し。
そのあとの前半38分に、優磨のスライディングタックルを受けてもつれあうように倒れたパトリックが離れ際に肘打ちをしたということで、レッドカードを受けて退場になってしまう。さすがにこれで勝負ありって感じだった。
パトリックへのレッドについては、故意に肘打ちしたようには見えなかったし、ちょっときびしすぎたかなと思う。接触した際に優磨に太腿をつかまれて、いらっとして振り払おうとした腕があたってしまった感じ。でもってそれを優磨がオーバーアクション気味に痛がったせいでレッドになってしまったと。お気の毒さまでした。
ネットではパトリックの脚を抱え込んだ優磨にもカードではという意見もあるけれど、流れの中でやったのならばともかく、その前に笛が鳴ってプレーが止まっているのだから、リスタートを遅らせようとしただけの優磨がイエローの対象になるとは思えない。まぁ、褒められたことではないとは思うけど。
それにしても復帰戦でいきなり炎上するのも優磨らしいっちゃらしい。
ということで、その後をひとり多い状態で戦った鹿島が、後半に追加点を奪って3-1で開幕戦をものにした。
後半の追加点はまたもや綺世。ピトゥカが中盤でボールを落ち着かせていたと思ったら、そこかららずばっとゴール前にいた荒木へとパスを通し、荒木がそれを反転して綺世につないで、最後は綺世がしっかりと決め切った。点と点をつなぐような絶妙なパスワークから生まれた極上の1点だった。
上田綺世はそのほかにもいくつかチャンスがあったので、彼がハットトリックを達成できなかったのがこの試合で唯一残念だった点かなって。そんな贅沢をいいたくなるくらいの快勝だった。
途中出場は前半に二度も転倒して後頭部をうった関川が大事をとって後半頭から三竿と交替。そういや、スタメンに三竿の名前がなかったのもサプライズのひとつだった。今年から背番号6をつけた自分が開幕戦でいきなりベンチを温めることになるなんて三竿本人も思わなかったろう。
三竿からポジションを奪った樋口がどんな選手かまだよくわからないけれど、漠然とした印象では運動量が多くてパスセンスがある感じ。そういう意味ではピトゥカと似た印象。守備力の高い三竿ではなく、樋口とピトゥカにコンビを組ませたのも、今年の鹿島の攻撃的な姿勢の表れかもしれない。
そのほかの途中出場は仲間、エヴェラウド、染野、和泉、広瀬の計6人。関川が脳震とうの影響による交替ということで、去年からの新ルールにのっとり6人の交替が可能だったらしい。要するにベンチ入りしたフィールド・プレーヤーは全員出番があったわけだ。まぁ、三竿以外の選手が出てきたのは82分過ぎだったから、もう少し早く動いてもよかったと思うけれど。
なんにしろ、4-4-2の布陣といい、登録選手全員に出場機会を与えた采配といい、そしてなにより結果といい、岩政監督代行の初陣は文句なしの出来だった。試合後のインタビューでの「これでやっと寝られます」ってのもよかった。
対するガンバは宇佐美や倉田が高い位置でボールを持ったときには危ない場面もあったけれど、そういう機会はそれほどなく。途中から数的に不利になったこともあって、不完全燃焼な試合だったのではと思う。今年から指揮を取るのが片野坂監督だというので、大分にはけっこう苦戦した印象があるから嫌だなぁと思っていたのだけれど、この日に関しては単なる杞憂に終わってなによりだった。
ということで不安たっぷりで迎えた新シーズンの開幕戦だったけれど、結果はこれ以上ないくらいの快勝に終わった。開幕戦で3得点以上して勝ったのは鹿島だけなので、なんと今年はいきなりの首位スタートだっ! そして綺世が得点ランキングトップ! なんとも上出来すぎる。
考えてみれば、今年は土居聖真が自らキャプテンマークをつけることを願い出たというし、荒木もエースナンバーの背番号10を託され、鈴木優磨は鹿島を優勝させるために戻ってきたと豪語して小笠原の背番号40を引き継ぎ、綺世はつい先日結婚を発表している。彼ら主力選手たちがそれぞれに強い決意をもってこの新シーズンに臨んでいるのは間違いないところだろう。だとしたら――。
もしかしたら今年は特別な一年になるのかも?――そう思わせてくれる素晴らしい開幕戦だった。
あまりの出来につい長くなってしまった。
次節の対戦相手は王者・川崎。この日のようなサッカーを王者相手にも見せられるか要注目だ。
(Feb. 20, 2022)