2004年4月の映画

Index

  1. ダンサー・イン・ザ・ダーク
  2. 小説家を見つけたら
  3. 橋の上の娘
  4. ブラック・レイン
  5. 逃走迷路
  6. キル・ビル Vol.1
  7. レザボア・ドッグス
  8. 疑惑の影
  9. タイタンズを忘れない
  10. 泥棒成金
  11. サイコ

ダンサー・イン・ザ・ダーク

ラース・フォン・トリアー監督/ビョーク、カトリーヌ・ドヌーブ/2000年/DVD

ダンサー・イン・ザ・ダーク [DVD]

 カンヌ映画祭のグランプリに輝くビョーク主演の異色ミュージカル。
 先天的に視力障害があり、遠からず目が見えなくなるとわかっているセルマ(ビョーク)。彼女は血を分けた一人息子を自らと同じ運命から救うべく、手術を受けさせるためにチェコからアメリカに渡って来た。自動車工場で働きながら、手術費用のためにコツコツと貯金を続ける彼女だったけれど、金銭的なトラブルを抱えた隣人がそのことを知って、彼女の金に手を出したことから思わぬ悲劇が……。
 この映画はセルマの所属する素人ミュージカル劇団が 『サウンド・オブ・ミュージック』 の稽古をつけている場面から始まる。その映像がよく言えばドキュメンタリータッチ、悪くいえば素人くさい撮り方をしてある(わざとなのだろうけれど)。おかげで最初、間違ってメイキング・ビデオのボーナス・ディスクが入ってきちゃったのかと思ったくらいだ。
 初めのうちはそうした映像的手法があまり気に入らなくて、個人的にはやや興を殺がれた部分があった。ミュージカルだと聞いていたのに、最初の三十分くらいはまったく歌を歌う場面もないし。なんだか変な映画だなあと思いながら観ていた。
 でもね。だんだんととんでもないことになってゆくんだ、この映画が。いつもどおりあらすじなんかまったく知らないで観ていたので、いったん事件が起こってからは、これがどう終結するのか、目が離せなくなった。そして迎える衝撃のエンディング。このインパクトは相当のものだ。パルムドールもうなずける。好き嫌いは別にして。
 なんにしろこの映画の成功はビョークの不可思議な存在感、これに負うところが大きい。とんでもなく悲劇的な状況の中で、突然彼女が歌を歌いだす。その歌というのがいわゆるミュージカル向けの歌などではなく、音楽シーンの最先端を突っ走ってきた、ものすごくクールで官能的なビョーク自身の音楽なのだからたまらない。彼女の音楽から溢れ出す歓喜と、物語が描き出す悲哀とのアンバランスさがこの映画の中ではなんともいえない奇妙な味わいを生み出しているのだと思う。いいか悪いかは別にして──本当にそう何度も断わりたくなる映画だったりする──、これはある意味非常に稀な作品だと思った。
(Apr 07, 2004)

小説家を見つけたら

ガス・ヴァン・サント監督/ショーン・コネリー、ロブ・ブラウン/2000年/BS録画

小説家を見つけたら [DVD]

 ブロンクスで生まれ育ったジャマール(ロブ・ブラウン)は密かに作家を目指す高校生。遊ぶことにしか興味のない友達たちの中にあって、一人将来を見据えて地道な努力を続けている。そんな彼がいつもバスケットボールをしているコートのとなりのマンションには、いつも窓から世間を覗き見している謎の老人(ショーン・コネリー)が住んでいた。ある夜、仲間うちの悪ふざけで老人の部屋へ忍び込んだ彼は、部屋を逃げ出す際に、雑多な思索を書き溜めたノートの入ったデイパックを置き忘れてきてしまう。デイパックは翌日老人の部屋の窓から投げ出されるのだけれど、見るとそのノートには到るところに添削が──。思わぬところに自分の理解者を見い出したジャマールは、これを機にこの世捨て人のような老人のもとへと押しかけて、文学的指導を仰ぐようになる。
 同じ道を志す若者と老人の友情を描く好作品だ。ジャマールがあまりにいい子すぎると見る向きもあるかもしれない。黒人の若者が主役にもかかわらず、ドラッグが一度も登場しないというのもリアリティがないという意見もあるだろう──っていうのもひどい差別的な言い方だけれど、それでも実際にそんな映画を見るのは初めてのような気がするのだから仕方ない。そう言えば性描写も暴力描写もないし、いまどき珍しいくらい温厚な青春映画だと言える。でもだからこそ僕はこの映画が好きだ。
  『ピアノ・レッスン』 で子役を好演していたアンナ・パキンがジャマールのガールフレンド役で出演している。すっかり大きくなっちまって……(山田康雄調)。
 もう一人、意外な出演者がいた。ジャマールの兄貴役で出演しているのがラッパーのバスタ・ライムズ。ヤンキーズ球場の駐車場係をしているドレッドの兄ちゃんが、母親に対して「いずれラップで稼いでやるぜ」みたいなことを言っているのを見て、これはもしかして名前の売れている人なんじゃないだろうかと思ったら案の定。でも、まさか自分ちにCDがあるアーティストだとは思っても見なかった。ミーハーなリスナーで困りものだ。
(Apr 17, 2004)

橋の上の娘

パトリス・ルコント監督/ヴァネッサ・パラディ、ダニエル・オートゥイユ/1999年/BS録画

橋の上の娘 [DVD]

 いきあたりばったりの男性遍歴を重ねたあげく、あまりの男運のなさに絶望して橋の上から飛び降りようとしていたアデル(ヴァネッサ・パラディ)は、たまたま通りかかったナイフ投げ芸人のガボール(ダニエル・オートゥイユ)に声をかけられる。どうせ死ぬ気ならば俺の的になってくれないかと。こうしてガボールとアデルは出会い、(なぜか)プラトニックな関係を保ったまま旅を続けるようになる。するとこれを機に二人には思わぬ運が回ってきて、ルーレットでは大もうけ、くじを引けば大当たり。男癖の悪さはあいかわらずのアデルだったけれど、ナイフ投げで命を危険にさらすスリルに、えも言われぬ興奮を覚えるようになってゆく。
 キュートで官能的なヴァネッサ・パラディの魅力、ナイフ投げのシーンの特筆すべき迫力、二人の旅に寓話的な味つけを施したシナリオ、モノクロームの映像、一時間半というコンパクトさ。これらがあいまって古典的な風格を感じさせる好作品に仕上がっている。個人的にはフランス版の演歌みたいな挿入曲だけは唯一残念だった。
(Apr 17, 2004)

ブラック・レイン

リドリー・スコット監督/マイケル・ダグラス、高倉健/1989年/BS録画

ブラック・レイン デジタルリマスター版 ジャパン・スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

 NY市警の刑事ニック(マイケル・ダグラス)はイタリアン・レストランで白昼堂々とヤクザ二人を殺したサトウ(松田優作)を現行犯逮捕する。この男を日本の警察に引き渡すため、相棒のチャーリー(アンディー・ガルシア)と共に海を渡った彼だったけれども、日本に到着するが早いか、偽の刑事にまんまと騙されて、犯人を取り逃がしてしまう。ニックは刑事としてのプライドをかけて、異文化の中、凶悪なヤクザの行方を追い始めるのだった。
 松田優作のハリウッド・デビュー作にして遺作となった作品。いずれは見ないといけないと思いながら、気がつけば公開から、はや15年。いまさらながら、ようやく見る機会を得た。
 でも残念なことに、お目当ての松田優作が思ったほどよくない。もっともっと迫力のある演技を見せてくれているのだろうと思っていたのに、残念ながらそれほどじゃなかった。いまひとつぱっとしない悪役ぶりだ。どちらかというと冴えない中年刑事・松本を演じる高倉健の方が、(その冴えなさゆえに)なかなか味のある演技を見せてくれている。でも一番の印象がよかったのは陽気な若手刑事を演じるアンディー・ガルシアだった。
 松田優作の遺作という話題性を超えるこの映画の一番の見所は、 『エイリアン』 『ブレード・ランナー』のリドリー・スコットが描く大阪の風景だろう。西洋人の眼から見た日本という国の姿には手に負えない気恥ずかしさがあって、どうにも困った気分になってしまうのだけれど。
(Apr 17, 2004)

逃走迷路

アルフレッド・ヒッチコック監督/ロバート・カミングス、プリシラ・レイン/1942年/BS録画

逃走迷路 [DVD]

 飛行機工場で働くバリー・ケイン(ロバート・カミングス)はフランク・フライ(ノーマン・ロイド)なる男の破壊工作に巻き込まれ、無実の罪を着せられて指名手配を受けてしまう。自らの無罪を証明しようとフライの足跡を追い始めた彼は、逃走中に出逢ったモデルのパット(プリシラ・レイン)とともに、資産家テロリストたちの陰謀に巻き込まれてゆく。
 この映画は主人公の性格がいまひとつはっきりしていないのが弱点だと思う。勇敢なんだか馬鹿なんだかよくわからない。おかげで物語にしまりがない印象を受けた。
 それはともかく、この作品もクライマックスは、ほかの多くの作品と同じように、高いところから落ちる、落ちないというシーンだ。ヒッチコックという人は本当にこういうシーンが大好きらしい。もしかしたら自身が高所恐怖症だったんじゃないだろうか。
(Apr 17, 2004)

キル・ビル Vol.1

クエンティン・タランティーノ監督/ユマ・サーマン/2003年/DVD

キル・ビル Vol.1 [DVD]

 結婚式で夫とお腹の子供を殺され、自らもなぶり殺しにされかけながら九死に一生を得た“ザ・ブライド”。彼女は4年間の昏睡のすえに意識を取り戻し、“ビル”を始めとした昔の仲間たちに復讐を誓う。最初のターゲットは日本でヤクザの女ボスとして名を馳せるオーレン・イシイ(ルーシー・リュー)。名刀匠ハットリ・ハンゾウ(千葉真一)の鍛えた究極の日本刀を手にしたブライドの血みどろの死闘が始まる。
 タランティーノの6年ぶりの新作にして、長くて二部構成になったというその前編。監督自身が愛好するすべてのアクション映画のエキスがこれでもかと詰め込まれている。カンフーあり、チャンバラあり、アニメあり、 『マトリックス』 的な銃撃シーンあり。でもこの映画で僕にとって一番印象的だったのは、ものすごくスプラッターな映画だったこと。とにかくチャンバラシーンでは血しぶきがシャワーのように吹き上がりまくる。クライマックスの青葉屋での百人斬りのシーンは本当に嫌になるくらい血生臭い。基本的にそういう監督だとわかっていたはずなのに、かなり辟易させられた。ま、この常軌を逸した流血シーンの多さがタランティーノらしいといえばらしいのだろうけれど。
 なんにしろハイテンションな映画だから、個人的には前後編に分けて配給されてよかったと思った。これを三時間以上もぶっ続けで見続けるのは、ちょっとばかりつらい気がする。
(Apr 17, 2004)

レザボア・ドッグス

クエンティン・タランティーノ監督/ハーベイ・カイテル、ティム・ロス/1992年/DVD

レザボア・ドッグス スペシャルエディション [DVD]

 宝石店強盗のために集まった7人の泥棒たち。ところがその中に一人警察のスパイが紛れ込んでいて計画は失敗。アジトに戻った男たちは裏切り者の正体をめぐり、互いに銃を突きつけあう羽目に陥る。
 一部で高い評価を受けるタランティーノのデビュー作。 『キル・ビル』 のDVD化にあわせてこの作品もプライス・ダウンになったので、この機にDVDでじっくりと見直すことにした。しかしLDを持っているくせにここまで記憶に残っていない作品というのも珍しい。
 この映画、冒頭からいきなり「マドンナの 『ライク・ア・ヴァージン』 は巨根の歌だ」なんていう仲間うちでの下品な雑談から始まる。ブラック・スーツのギャングたちが過剰なまでの饒舌さでマドンナと巨根の関係やらなにやら、具にもつかないおしゃべりで時間をつぶしている。スタイリッシュなんだか悪趣味なんだかわからないこの冒頭のシーケンスだけで既にタランティーノ節全開だ。
(Apr 25, 2004)

疑惑の影

アルフレッド・ヒッチコック監督/テレサ・ライト、ジョゼフ・コットン/1943年/BS録画

疑惑の影 [DVD]

 小さな町での平凡な暮らしに倦んでいたチャーリー(テレサ・ライト)の家へ、大好きな伯父のチャーリー・オークリー(ジョセフ・コットン)が遊びにやってくる。自分と同じ名前の世慣れた伯父が家族の一員として暮らし始めたことに喜びを覚えたチャーリー。しかしこの伯父が警察から殺人の嫌疑をかけられていることを知り、その証拠を見つけてしまったことから彼女の生活は一転してしまう。
 地味なタイトルの地味な作品であるにもかかわらず、これがとてもおもしろかった。こういう映画が何気なくあるあたり、やはりヒッチコックはあなどれない。
(Apr 25, 2004)

タイタンズを忘れない

ボアズ・イエーキン監督/デンゼル・ワシントン、ウィル・パットン/2000年/BS録画

タイタンズを忘れない 特別版 [DVD]

 人種統合に揺れる町の公立高校のアメリカン・フットボール部に就任した黒人監督ブーン(デンゼル・ワシントン)と、彼の下で働くことを余儀なくされた白人コーチのヨースト(ウィル・パットン)。二人の指導のもとで人種の壁を超えて団結し、連勝街道を突き進むタイタンズの選手たちの活躍を描く青春スポーツ映画。
 ディズニーの提供だけあって、深刻なテーマを扱いながら影を感じさせない──その辺の是非は意見の分かれるところだろうけれど──、せつなくも楽しい映画だった。
 アメフトに夢中のヨーストの娘役の少女、ヘイデン・パネティエーリが可愛い。あとやたらと太った彼(名前がわからない)も好きだ。とにかく僕は好きなもののことになるとわれを忘れて熱中しちゃう人や、場所をわきまえずになにかとすぐ歌いだしちゃうような人が好きなんだなと。そんなことをあらためて思った。
(Apr 25, 2004)

泥棒成金

アルフレッド・ヒッチコック監督/ケイリー・グラント、グレイス・ケリー/1955年/BS録画

泥棒成金 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

 リヴィエラで悠悠自適の引退生活を営んでいた宝石泥棒“ザ・キャット”ことジョン・ロビー(ケイリー・グラント)。自分そっくりの手口の事件が頻発したことから警察や昔の仲間に疑われる羽目に陥った彼は、自ら真犯人を捕まえるべく、次なる被害者になりそうな金持ちに接近をはかり、母親とその地に滞在中のアメリカ人女性フランシー(グレース・ケリー)と出逢う。
 とにかくビスタ・カラーの映像をいかに美しく見せようかと。全編に渡ってそればかりに気を配った結果、物語としてのスピード感を欠くことになってしまったという印象の作品だった。
(Apr 25, 2004)

サイコ

アルフレッド・ヒッチコック監督/アンソニー・パーキンス、ジャネット・リー/1960年/DVD

サイコ スペシャル・エディション [DVD]

 魔がさして事務所の金4万ドルを持ち逃げしてしまったマリオン(ジャネット・リー)は、一人の青年が経営する寂びれたモーテルに辿り着く。衝撃的なシャワーシーンで有名なヒッチコック監督の代表作。
 サスペンス・スリラーの代名詞とも言うべき作品だけれど、恐さよりもミステリ色の強さの方が印象的だった。ちょうど江戸川乱歩の 『続・幻影城』 を読んでいるところだったので、乱歩先生がこの作品を見たら喜びそうだなと思った。
 『続・幻影城』 にはミステリ短編集の編纂者としてヒッチコックの名前が出てくる個所があるだけに、実際に乱歩がヒッチコックをどう見ていたのかちょっと気になるところだ。まあ印象的には映画なんて観に行かなかったっぽい感じだけれど(追記:そんなことはなくて、逆に乱歩先生は大の映画好きであったことがのちに判明する)。
(Apr 25, 2004)