ダンサー・イン・ザ・ダーク
ラース・フォン・トリアー監督/ビョーク、カトリーヌ・ドヌーブ/2000年/DVD
カンヌ映画祭のグランプリに輝くビョーク主演の異色ミュージカル。
先天的に視力障害があり、遠からず目が見えなくなるとわかっているセルマ(ビョーク)。彼女は血を分けた一人息子を自らと同じ運命から救うべく、手術を受けさせるためにチェコからアメリカに渡って来た。自動車工場で働きながら、手術費用のためにコツコツと貯金を続ける彼女だったけれど、金銭的なトラブルを抱えた隣人がそのことを知って、彼女の金に手を出したことから思わぬ悲劇が……。
この映画はセルマの所属する素人ミュージカル劇団が 『サウンド・オブ・ミュージック』 の稽古をつけている場面から始まる。その映像がよく言えばドキュメンタリータッチ、悪くいえば素人くさい撮り方をしてある(わざとなのだろうけれど)。おかげで最初、間違ってメイキング・ビデオのボーナス・ディスクが入ってきちゃったのかと思ったくらいだ。
初めのうちはそうした映像的手法があまり気に入らなくて、個人的にはやや興を殺がれた部分があった。ミュージカルだと聞いていたのに、最初の三十分くらいはまったく歌を歌う場面もないし。なんだか変な映画だなあと思いながら観ていた。
でもね。だんだんととんでもないことになってゆくんだ、この映画が。いつもどおりあらすじなんかまったく知らないで観ていたので、いったん事件が起こってからは、これがどう終結するのか、目が離せなくなった。そして迎える衝撃のエンディング。このインパクトは相当のものだ。パルムドールもうなずける。好き嫌いは別にして。
なんにしろこの映画の成功はビョークの不可思議な存在感、これに負うところが大きい。とんでもなく悲劇的な状況の中で、突然彼女が歌を歌いだす。その歌というのがいわゆるミュージカル向けの歌などではなく、音楽シーンの最先端を突っ走ってきた、ものすごくクールで官能的なビョーク自身の音楽なのだからたまらない。彼女の音楽から溢れ出す歓喜と、物語が描き出す悲哀とのアンバランスさがこの映画の中ではなんともいえない奇妙な味わいを生み出しているのだと思う。いいか悪いかは別にして──本当にそう何度も断わりたくなる映画だったりする──、これはある意味非常に稀な作品だと思った。
(Apr 07, 2004)