2006年9月の映画

Index

  1. メラニーは行く!
  2. ザ・ソプラノズ<ファースト>

メラニーは行く!

アンディ・テナント監督/リース・ウィザースプーン、ジョシュ・ルーカス/2002年/アメリカ/BS録画

メラニーは行く! 特別版 [DVD]

 『メラニーは行く!』という邦題は、黒いタイトなワンピース姿のリース・ウィザースプーンが腰に手を当てて、すらりとしたプロポーションを誇示しているDVDジャケットの写真のイメージにはぴったりだと思う。けれど映画自体は、原題の『スウィート・ホーム・アラバマ』の方がしっくりとくる内容だった。
 新進気鋭のファッション・デザイナーとして売り出し中のメラニー・カーマイケル(リース・ウィザースプーン)が、女性ニューヨーク市長の息子にして、自らも政治家の恋人アンドリュー(パトリック・デンプシー)から、貸切にしたティファニーでプロポーズを受ける、というのが話の発端。幸せの絶頂というメラニーだったけれど、彼女にはひとつ、重大な秘密があった。実は彼女は結婚していて、7年間も別居中の夫がいるのだった。彼女は夫ジェイク(ジョシュ・ルーカス)との離婚を果たすため、故郷のアラバマへと里帰りする。
 ニューヨークのファッション・デザイナーであるメラニーが、故郷の南部の田舎町で浮きまくってしまうというシチュエーションがこの映画の一番のポイントだ。オープニングこそファッションショーなどの華やかな場面が続くけれど、いったん本編に入ってからの舞台は、ほぼすべてアラバマ。いまだにおじさんたちが集まって南北戦争ごっこをしたりしているアメリカ南部の独特の雰囲気がフィルム一杯にあふれている。タイトルとなったレイナード・スキナードのヒット曲──映画で使われているのはオリジナルではないようだけれど──がまさにぴったりの映画だった。ちなみにこの曲をエンド・クレジットで歌っているのはジュエルとのこと。
 話はひとりの女性がふたりの男性のどちらを選ぶかが焦点という、この手の映画の定番。なんで最近はこうも徹底して同じような話が多いのか、不思議になるほどだ。ハリウッドでは基本的に同じ話をどういうシチュエーションで見せるかを競っているんじゃないかという気がしてくる。
(Sep 02, 2006)

ザ・ソプラノズ<ファースト>

デイヴィッド・チェイス製作総指揮/ジェームズ・ガンドルフィーニ/1999年/アメリカ/DVD

ザ・ソプラノズ 〈ファースト・シーズン〉セット1 [DVD]

 鬱病に悩むマフィアの幹部、トニー・ソプラノ(ジェームズ・ガンドルフィーニ)を主人公にして、彼を中心に繰り広げられるマフィア内部の権力争いと、そのトラブル続きの家庭生活を平行して描いてみせた異色の硬派コメディ。
 『ゴットファーザー』で必要以上に美化されたマフィア像を打破して、もっとリアリティのあるマフィア像を描いてみせようとしたのがスコセッシの『グッドフェローズ』だとするならば、このドラマはそれをもう一段階推し進めてみせた作品だ。組織としてのファミリーを大事にするマフィアならば、自らのファミリー=家族だって大切にして当然、そして現代社会における家庭生活には、組織を維持する以上の苦悩がつきまとうだろうよと。そういう視点から生まれたのがこのドラマだろう。そういう意味では邦題に「哀愁のマフィア」や「二つのファミリーをもつ男」という、格好の悪くも的を得たサブタイトルがついてしまうのがよくわかる作品に仕上がっている。
 とにかくこのドラマの特徴は、徹底的に冴えない(それゆえに憎めない)トニーたちマフィアの悪党ぶりにある。彼らは子供の進学に悩んだり、心理カウンセラーにかかったりと普通の家庭生活を営む一方で、金と暴力とセックスにまみれた組織内部の権力争いをごく普通にくりひろげている。そこにはギャングとしての人生を美化してみせる姿勢はほとんど見られない。どちらかというと、そうした欲得まみれの人生を、滑稽なものとして描いて見せている。
 そうした演出上の性格のためだろうか、この作品にはまったくといっていいほど、美男美女が登場しない。見た目はぱっとしないけれど、演技力は抜群という俳優たちばかりが集まっている。過激な暴力シーンやストリップ・バーでのヌード・シーン、セックスに関する言動の多さなど、テレビ・ドラマにしては珍しく、子供に見せたくないようなシーンが多いのも特徴だ。総じて全体的にスマートではない印象が強く、あまり万人向けではない気がする。
 あまたのキャラのなかでもっとも出色なのは、トニーの母親リヴィア(ナンシー・マーチャンド)だろう。キャラクター設定も演技も抜群(ひどい役だけれど)。こんな人が近くにいたら困ってしまうよなと思わせる点で、『男はつらいよ』の寅さんに近い存在感がある──キャラクター的にはぜんぜん違うけれども。
 トニー役のジェームズ・ガンドルフィーニも非常にはまり役。この人はコーエン兄弟の『バーバー』でフランシス・マクドーマンドの愛人役を演じているそうだけれど、ぜんぜん顔におぼえがなかった。
 変わったところでは、舞台となるニュージャージーの出身で、スプリングスティーンの盟友でもあるスティーヴン・ヴァン・ザントが滑稽味のあるいい演技を見せている。この人はバンダナをつけている時とつけていない時でぜんぜん雰囲気が違っておかしい。
(Sep 18, 2006)