ドント・ルック・バック
D・A・ペネベイカー監督/ボブ・ディラン/1967年/アメリカ/DVD [デラックス・エディション]
ボブ・ディランにとって最後のアコースティック・ツアーとなったという、65年のUKツアーの模様を追う伝説的なドキュメンタリー映画。今回、僕が観たのは、その公開40周年を記念して、監督のペネベイカー自らが未公開映像を編集して製作した 『ツアー65再訪』 という60分の姉妹編をセットにした限定版のDVDボックスセット。
ボブ・ディランが英単語の書かれた紙を歌詞にあわせてめくってゆく、かの有名な 『サブタレニアン・ホームシック・ブルース』 のプロモーション・ビデオは、この映画のオープニング映像だった。その部分をまるまる抜き出して使用した映画の予告編が、その後、プロモーション・ビデオの元祖として知られるようになったらしい。
DVDにはボーナス映像として、そのシーンの別テイクが二種類、収録されている。そのどちらも、歌詞にあわせて、うまく紙をめくれていないところがおかしい。シンプルなアイディアのビデオ・クリップだけれど、撮影には意外と苦労したみたいだ。
おまけの 『ツアー65再訪』 も、本編と遜色のない仕上がりとなっている。 『くよくよするなよ』 や 『イッツ・オールライト・マ』 など、本編では短めにカットされた演奏シーンが、こちらにはフル収録されているので、コアなファンの人にとっては、見ないで済ますわけにはいかない作品だろうと思う。いずれも若き日のボブ・ディランのカリスマ性に触れることができる上に、当時の音楽業界の裏舞台が覗ける、興味深い内容だった。
DVDのデラックス・エディションは豪華な箱入りのうえ、映画を再現したペイパーバックの復刻版と、 『サブタレニアン~』 の全シーンをパラパラマンガ風に収録した、百円ライターサイズのマメ本がついている。外箱が輸入品仕様のため、日本語の解説書がケースに収納されていないのがネックだけれど、その点を除けば、かなり満足度の高いコレクターズ・アイテムだと思う。
若干、問題があるなあと思ったのは字幕。このDVDでは、歌唱シーンに歌詞の対訳がちゃんと字幕で表示されることを売りのひとつとしていて、そのこと自体は高く評価するのだけれど、この作品の場合、部分的にはそれがあだになって、難儀させられた。
一番いい例が、前述した 『サブタレニアン~』 のシーン。紙に書かれた英単語の日本語訳が画面の下中央に表示され、それとは別に、歌詞の字幕も左側に縦書きで表示される。でもって困ったことに、それらの日本語訳が異なっていたりする。
たとえば、ボブ・ディランが "PAID OFF" という単語カードを持っている場面では、下にその訳語として「精算」という字幕が出ている。でもってそのバックで流れている歌にあわせ、左横には歌詞の訳として「未払いの給料もちゃんと払ってほしいんだってさ」という字幕が出ている。英単語ひとつと日本語ふたつを同時に目で追わなきゃならないことになって、聖徳太子じゃあるまいし、とてもじゃないけれど、ついてゆけない。こういうところは、もう少し気をつかって、どうにかして欲しかった。
そのほかの曲でも、歌いまわしが早すぎて、字幕についてゆけない場面があったし、歌詞の意味が大事だから、きちんと訳してみせようという意欲は買うけれど、普通に読めないんじゃ仕方ない。たまに耳にする、「映画の字幕は直訳すればいいものじゃない」という話を、なるほどなあと思わされた作品だった。
(Jun 02, 2007)