2007年8月の映画

Index

  1. ハッピーフィート
  2. アビエイター
  3. フィラデルフィア物語
  4. アイス・エイジ2

ハッピーフィート

ジョージ・ミラー監督/2006年/アメリカ/DVD

ハッピー フィート 特別版(2枚組) [DVD]

 このアニメは出来がかなり微妙。少なくても、可愛いペンギンが踊って歌う楽しげなCGアニメとか思って、小学生の子供と一緒に観始めると、肩透かしを食うことになる。なんたって吹替でも歌はすべて英語だし、いきなりフィーチャーされているのがプリンスの 『キッス』 とかだし。いまとなれば普通の曲なのかもしれないけれど、少なくても英語のわからない小学生がすんなりと受け入れられるタイプの曲じゃない。しかも主役の子ペンギンが、DVDジャケットのイラストにあるような可愛い子供のままでいるのは、最初のわずか30分たらず。その後はいきなり成長してしまって、正直なところ、あまり可愛くない。ということでこの作品、八歳のわが子にはあまり好評じゃなかった。
 ただ、子供と一緒に観ようなんて思わず、英語で観たならば、そういう不満もなく、それなりに楽しめるかもしれないという気もする。少なくても、人間に捕獲された経験を持つ鳥が、自分はエイリアンに誘拐されたんだと吹聴するあたりのギャグや、アメリカのアニメの定番というべき愉快な脇役キャラ、五人組ペンギンのなんとかブラザーズの騒がしさとか、すごい笑えた。僕はその辺のギャグは大好きだ。
 要するにこの映画の問題は、思いっきり子供受けを狙ったような装いのわりには、実はけっこう大人向けの内容になっているという、ターゲットとする観客像が中途半端な点にあるんだと思う。エイリアンによるアブダクションなんてネタで、子供が笑えるはずがない。そうしたディテールの描き方や、音楽の選び方は大人向け。そのくせ、メイン・ストーリーは地球に優しくというエコ・メッセージ入りの子供向けという。
 そもそも歌の上手いヒロイン・ペンギン役の声優に、ブリタニー・マーフィを採用する姿勢からして中途半端だ。どうせ声優の顔なんて見せないんだから、採用するならば、まず歌唱力ありきでしょうに。そりゃブリタニー・マーフィは、女優にしてはなかなかの歌いっぷりだけれど──クイーンの 『愛にすべてを』(Somebody to Love) を熱唱していて、ボーナス・ディスクではそのレコーディング風景が見られる──、 『ドリームガールズ』 のジェニファー・ハドソンを観ちゃったあとじゃ、カラオケの上手なお姉さんくらいにしか思えない。かりにもミュージカルを名乗るんならば、ちゃんとした歌で観客を満足させて欲しかった。
 ということで、映像は見事だし、それなりに楽しませてはもらったものの、そうした中途半端さがひっかかって、素直にほめる気になれない作品だった。
 ちなみにボーナス・ディスクに入っているプリンスの 『ソング・オブ・マイ・ハート』 のビデオクリップは、踊る子ペンギンをフィーチャーして、映画のシーンを編集しただけのもの。曲もペンギンもとても可愛いけれど、殿下御本人は登場していなくて、プリンス・ファンとしては、やっぱりちょっと残念だった。
(Aug 06, 2007)

アビエイター

マーティン・スコセッシ監督/レオナルド・ディカプリオ、ケイト・ブランシェット、ケイト・ベッキンセイル/2004年/アメリカ/DVD

アビエイター 2枚組 [DVD]

 レオナルド・ディカプリオがその波乱の生涯にほれ込み、自らプロデュースしたハワード・ヒューズの伝記映画。マーティン・スコセッシの監督作品としては、最近では一番の話題作だったし、公開当時からずっと気になっていたのだけれど、DVDがちょっと割高だったせいで、ずっと観る機会が作れないままだった。最近になってボーナス・ディスク付きのDVDが──まあ、割高なままではあるけれど──とりあえず安くなったので、 『ディパーテッド』 でのオスカー受賞記念第何弾という勢いも手伝って、いまごろになってようやく観ることになった。
 ディカプリオ自身もボーナス・ディスクのインタビューで語っているように、ハワード・ヒューズという人については、僕もこの映画を観るまでは、強迫神経症を{わずら}った変人の大富豪というイメージしか持っていなかった。接点といえば、ジェイムズ・エルロイのLA四部作くらいしかなかったし、その中で描かれるこの人の姿は、まさしくそんなだったからだ。
 でもこの映画を観てみてびっくり。莫大な親の遺産をもとに、いきなり超大作の空中戦映画を作り上げて大ヒットを飛ばすは、大好きな飛行機の開発に着手して、自ら操縦して世界新記録を樹立するは、そうこうしつつ、あまたのハリウッドの美人女優と浮名を流すは。その姿はまさしく、アメリカン・ドリームの具現者以外のなにものでもない。晩年の奇人ぶりが有名になってしまって、そうした若い頃の華々しい経歴が霞んでしまったようだけれど、いやはや、それにしても格好よすぎるぞ、ハワード・ヒューズ。時代の寵児というのは、まさにこんな人のことを言うんだろう。晩年に神経症が悪化して引きこもってしまった点も含めて、この上なく現代的なヒーローだという気がした。
 映画としてもかなりの力作だと思うのだけれど、惜しむらくは、有名な実話に乗っ取っているせいか、部分的に説明不足なシーンがあって、その辺の事情に詳しくないものにとっては、若干、消化不良な気分になってしまうところがあった。
 典型的なのが、キャサリン・ヘプバーンが出てくるシーン。この大女優を演じるにあたって、ケイト・ブランシェットがかなり癖のある演技をしているのだけれど──彼女はこの演技でアカデミー賞・助演女優賞を受賞している──、キャサリン・ヘプバーンをよく知らない僕には、その良し悪しがわからない。そもそも、そうした演技の出来以前に、この女優さんの登場シーンには、暗黙の了解的な含みがやたらと多い気がした。
 あまりに気になったので、あとで 『フィラデルフィア物語』 のスペシャル・エディションに収録されているキャサリン・ヘプバーンについてのドキュメンタリーを観てみた。これは晩年のキャサリン・ヘプバーン本人が自らの生涯を映像で振り返ってみせるという趣向の一時間ばかりのドキュメンタリーで、ハワード・ヒューズとの出会いや、前夫や家族の話、運命の人スペンサー・トレイシーとの関係など、『アビエイター』 の中で描かれている事実がいくつも紹介されていて、非常にためになった。ああ、スコセッシが撮ったあのシーンは、彼女のこういう経歴がもとになっていたのかと、胸のつっかえが取れるようだった。ケイト・ブランシェットの演技がある程度、誇張されたものなのもわかった。
 『アビエイター』 自体のボーナス・ディスクに収録されているハワード・ヒューズのドキュメンタリーもとても興味深い内容だし、この二つのドキュメンタリーを観てからだと、この映画はなおさら楽しめると思う。余裕のある人にはお薦めです。
(Aug 19, 2007)

フィラデルフィア物語

ジョージ・キューカー監督/キャサリン・ヘプバーン、ケーリー・グラント、ジェームズ・スチュアート/1940年/アメリカ/DVD

フィラデルフィア物語 スペシャル・エディション [DVD]

 ひとつ前に観た 『アビエイター』 でのケイト・ブランシェットの演技が、ご本人とどれくらい似ているのか比較したくて手にとった、キャサリン・ヘプバーン主演の傑作コメディ。
 物語はヘプバーン演じるバツイチの主人公、トレイシーの二度目の結婚式の前日から始まる。彼女の再婚をこころよく思わない彼女の前夫役がケーリー・グラント、上流社会の様子を取材してこいと命令を受けて、ゴシップ誌に派遣されてやってくる作家の役がジェームズ・スチュアート。ヘプバーンの再婚相手はジョン・ハワードという人(当然この人は脇役)。この三人のあいだで、ヘプバーンを巡ってくりひろげられる恋の鞘当てが、かろやかに描かれている。
 ロマンティック・コメディとはいっても、わずか二日間で恋の行方が左右してしまう、僕なんかにはあまりロマンティックだとは思えない話なのだけれど、それでもさすがにシナリオはよくできている。特に終盤の展開には、僕のような二日酔い常習犯にとっては非常に身につまされるものがあって、ずいぶんと苦笑を誘われた。ケーリー・グラントとジェームズ・スチュアートという、ヒッチコック映画でおなじみの、当代きっての名優二人が顔をそろえている点でも、見る価値ありだと思う。
 『アビエイター』 絡みの話でおもしろいのは、この映画のなれそめ。キャサリン・ヘプバーン主演のブロードウェイ・コメディとして大ヒットしたこの作品、いざ映画化されるという際に、その映画化権利を買い占めて、再びヘプバーンに主演の座をプレゼントしたのが、ほかでもないハワード・ヒューズなのだそうだ。さすが、大富豪。ちょっとばかりロマンスの桁がちがいすぎる。
(Aug 19, 2007)

アイス・エイジ2

カルロス・サルダーニャ監督/2006年/アメリカ/DVD

アイス・エイジ2 豪華2枚組特別編 爆笑どんぐり伝説ディスク付 (初回限定生産) [DVD]

 氷河期を舞台に動物たちの愛と友情を描くCGアニメの第二弾。
 続編というものは、得てして前作よりも派手になるもので、この作品もご多分に漏れない。地球温暖化により、住んでいる土地が水没の危機にあると知った動物たちが、救いを求めて旅に出るという話で、聖書的なモチーフといい、パニック映画的なストーリーといい、シンプルなロード・ムービー風だった前作とくらべると、格段に派手になっている。登場するキャラクターも倍増しているし、マンモスの恋なんて伏線もあって、にぎやかで飽きさせない内容になっている。
 でも、じゃあ前作よりも出来がいいかというと、ちょっと疑問。少なくても、子供向けの映画という点では、シンプルなストーリーで友情を描いてみせた前作のほうが、ハリウッド映画らしい愛と冒険の物語になってしまったこの作品よりも、僕はいいと思った。ボーナス・ディスクに収録されているスクラットが主役の短篇アニメも、安直にSFに走ってしまった点が残念だったし、とにかく特別、出来は悪くないんだけれど、全体的にちょっと凝りすぎた感じがする。シンプル・イズ・ベストという言葉の意味を再確認させられるような作品だった。
 あ、あと、日本語の吹替では、雌マンモスの役が優香ってのが、かなりのミスマッチ。声優としてのよしあし以前に、体の大きなマンモスがあの声ってのが、ぴんとこなかった。そもそも英語版ではクイーン・ラティファがやっている役が、日本では優香って時点で、なんだかすごく間違ってないですか。
(Aug 25, 2007)