マンハッタン殺人ミステリー
ウディ・アレン監督/ウディ・アレン、ダイアン・キートン/1993年/アメリカ/DVD
ヒッチコックやビリー・ワイルダーなどの古典ミステリ映画へのオマージュ的な色彩の強い(と思われる)ウディ・アレンのサスペンス・コメディ。作中でビリー・ワイルダーの 『深夜の告白』 がフィーチャーされていて、その映画を未見の僕は、そちらを先に見ておかなかったことをちょっぴり後悔した。
この映画の主人公はマンハッタンに居を構える中年夫婦のラリーとキャロル。子供が自立して二人きりで暮らすようになって間もない彼らは、趣味の違いもあって、すれ違い気味の日々を送っている。とくに出版社で働く旦那とは違い、奥さんのほうが退屈を持てあまし気味。
そんな折に、知り合ったばかりのとなりの老婦人が急死する。キャロルはその亭主がまるで悲しみの色を見せていないことを怪しみ、これは殺人に違いないといい出して、いやがるラリーをよそに、探偵のまねごとを始めるのだった。
配役は、主演がおなじみのウディ・アレンとダイアン・キートンのカップルで、脇をかためるのが 『アビエイター』 で嫌味な上院議員を演じてアカデミー賞にノミネートされたアラン・アルダと 『アダムス・ファミリー』 のお母さん役のアンジェリカ・ヒューストン(この人はジョン・ヒューストンの娘さんなんですね)。恥ずかしながら助演の二人は、あとで調べるまでそれと気がつかなかった。それと殺人の容疑を受けるジェリー・アドラーは、『ザ・ソプラノズ』 にユダヤ人の役で出ている人。
作品自体については、ウディ・アレンの脚本がとても気に入った。殺人事件の捜査に乗りだして、「こんなスリリングな経験はめったにできないわ」と浮かれ気味の奥さんと、そんな彼女にひっぱりまわされながら、ウィットに富んだぼやきを連発する旦那の対比が最高におかしい。中盤にデヴィッド・リンチかと思うような不条理感あふれる展開を用意しておきながら、最後はまっとうなミステリとして、スタイリッシュにまとめて見せたのも上手い。あいかわらず映像的な面ではそれほど惹かれないのだけれど、ことささいなセリフのおもしろさではこの人はダントツだ。
いつの間にか僕はウディ・アレンがとても好きになっている。
(Nov 17, 2007)