フィラデルフィア
ジョナサン・デミ監督/トム・ハンクス、デンゼル・ワシントン/1993年/アメリカ/DVD
僕はこの映画を公開当時に劇場で観ているはずなのだけれど、おぼえていたのは、エイズのせいで職場を追い出された弁護士が、黒人弁護士の助けを借りてもとの職場を訴えて出るという漠然としたプロットだけだった。それだから、主人公はエイズという病気に対する世間一般の無知が原因で職場を追われるものと思いこんでいたら、そうではなく、問題となるのはエイズそのものよりも、主人公にその病気をもたらす原因となった、彼がゲイであるという事実、そのことに対する一般的な差別意識だった。要するに「ホモとなんか、いっしょに働けるかよ。気持ちわるい」と、そういう話ですね。
なるほど、残念ながらそういう気持ちは、僕にもわからないではない。この映画の仮装パーティーの場面で、トム・ハンクスが恋人役のアントニオ・バンデラスを相手にチークダンスを踊ったりするシーンでは、ちょっと勘弁して欲しいなあと思ってしまったし、普段はあまり意識したことがないけれど、僕自身にもゲイへの苦手意識はそれなりにあるみたいだ(申し訳ない)。
ゲイの人だって、わざわざ自然の摂理に逆らってまで、好き好んでゲイになるわけじゃないんだろうし、偏見はいけないと思いつつも、やはり正直なところ、ちょっとなあという思いは否めない。親しい人にゲイがいたら、また話は別なのかもしれないけれど、あいにく僕のまわりにはゲイはいないし(いないと思っているだけという可能性もあるけれど)、そうなるとやはりノーマルな性欲を持った人間としては、好んで同性と性的関係を結ぶ人というのは、なかなか理解がたいものがあるのだった。
ということで、法廷劇としての一面には惹かれつつも、そのメインテーマに対しては、不徳の致すところながら、どうにも若干の距離感をおぼえずにはいられない作品だった。オペラのシーンやラストのホーム・ムービーの場面など、演出的にややウェットでくどいかなあと思わせるところがあるのも、個人的にはいまいち。まあ、その辺は趣味の分かれるところかもしれない。
それでも、ホーム・ムービーのシーンで流れるニール・ヤングのタイトル・ナンバー自体は非常に感動的だった。 『フィラデルフィア』 といえば、ブルース・スプリングスティーンがオスカーをとった曲が有名なので、こんなところにニール・ヤングのアルバム未収録曲が隠れているとは思わなかった。それも、この人ならではの、いまにも壊れそうな、繊細きわまる極上のスロー・バラード。すでにサントラが廃盤になっているのが残念だ。
最後に恒例の「この人って見たことあるんだけれど誰だっけ?」シリーズの最新版。トム・ハンクスと対決する女性弁護士役のメアリー・スティーンバージェンという人──「私、この裁判いやだわ」とか言うところがいい──、どこかで絶対に見たことがあるんだけれど、はて誰だっけと思ったらば、『パック・トゥー・ザ・フューチャー』 完結編でドクと恋仲になる人でした。ああ、なるほど。
(Jun 03, 2008)