ビヨンド the シー ~夢見るように歌えば~
ケヴィン・スペイシー監督・主演/2004年/アメリカ、ドイツ、イギリス/BS録画
ケヴィン・スペイシーといえば、オスカーを二度獲得した、当代きっての名優のひとりだけれども、その才能はどうやら演技だけに収まらないらしい。彼は初めてメガホンをとったこの映画において、製作、監督、脚本の三役をこなすのみならず、自ら主人公のボビー・ダーリンを演じて、全編にわたって歌って踊っての大活躍をみせている。それも吹替などではなく、ほぼ全曲を自分で歌って聴かせるというワンマンショー状態。それがちゃんとさまになっているから感心してしまう。
まあ、歌と踊りに関しては若干、素人っぽい感じもあるけれど、もとより僕はボビー・ダーリンという人については、ビートルズがデビューした頃に活躍していたポップ・シンガーで、ロックの盛隆とともに時代遅れになって姿を消した人、くらいの認識しかなく、どんなヒット曲があるかも知らなかったので、そんな風にやや素人っぽい感じがするところも、その時代の歌手ならばさもありなんという気がして、まるで気にならなかった。変に上手すぎないところが、かえってそれっぽい。
映画としては、同じ年に公開されたこともあって、 『五線譜のラブレター』 とかなりイメージがダブっていたのだけれど──実在した音楽家を主人公にした、いまどきのミュージカルという点で共通点が多い──、いざ観てみたらかなり印象がちがう。やや内向的でわかりにくいところのあったあちらと比べると、こっちは主役がポップ・シンガーだけあって、話がとても明快。難しいところは皆無なのがいい。ボビー・ダーリンという人の歌も、(少なくてもこの映画でフィーチャーされているものに関しては)しっとりとしたバラード中心ではなく、軽妙でノリのいいナンバーばかりだったので、オールディーズ好きのうちの奥さんにも好評だった。
あと、芸能界の話にしては最後まで奥さんのサンドラ・ディー(ケイト・ボスワース)と仲睦まじくてハッピーなところがいいねぇ──とか話していたら、あとで調べてみたところ、実はふたりは離婚していて、あまつさえボビー・ダーリンは死ぬ前の年に別の女性と再婚までしていたのだとか。そう知ってみると、ちょっとだけ騙されたような気がしないでもないけれど、でもまあ、そういう興ざめな事実はあえて
なんにしろ歌って踊れて映画も撮れるオスカー俳優、ケヴィン・スペイシーのマルチ・タレントぶりには、ただひたすら脱帽といった一品だった。ただし邦題のセンスには難あり。
(Jul 10, 2008)