2009年2月の映画

Index

  1. スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ
  2. アイ・アム・レジェンド
  3. ビフォア・サンセット
  4. アメリカン・グラフィティ
  5. 菊次郎の夏
  6. 監督・ばんざい!
  7. ディセント
  8. フェイク
  9. リトル・ミス・サンシャイン
  10. さらば、ベルリン
  11. アンブレイカブル
  12. アース
  13. セレンディピティ

スター・ウォーズ クローン・ウォーズ

デイヴ・フィローニ監督/2008年/アメリカ/DVD

スター・ウォーズ / クローン・ウォーズ 特別版 [DVD]

 スター・ウォーズ・シリーズ初となる劇場版CGアニメ。
 時期的にはエピソード2と3のあいだに挟まる話で、メインとなるのは、アナキンが彼のパダワン(弟子)となったアソーカ・タノという女の子とともに、誘拐されたジャバ・ザ・ハットの子供──あれはなんと表現したらいいのやら──を助けに行くという話。
 アニメだけあって、物語はそれほど凝ったものではなく、アクション主体の作品となっている。ヘイデン・クリステンセンやユアン・マクレガーら、実写版の俳優陣をモデルにしたCGキャラが、みんなそれなりに似ているので、彼らがデフォルメされてアニメのなかに入り込んだようで、それなりにおもしろかった。アニメ版のアナキンは実写版よりも悪そうで、すでに半分くらいダークサイドに入りこんでしまっているように見える。
 ただし、残念ながら大の大人にとっては、見どころはそうした似顔絵的キャラのおもしろさだけという気もする。もとよりスター・ウォーズの新シリーズ三部作は大部分がCGで成り立っていたわけで、そのことを念頭においてこの作品を観ると、やはり劇場版CGアニメとしては、ややグレードが低いかなという気がしてしまう。音楽もジョン・ウィリアムズじゃないし、オープニングからしてもう手抜き感がありあり。「アニメだからこれくらいでいいや」という作り手の姿勢が透けて見えてしまっていて、いまいち盛りあがれない。あまり関係ないけれど、ワーナーのロゴでスター・ウォーズが始まるってのも、ちょっとばかり違和感がある。
 やはり、わざわざ劇場版として公開するのならば、ピクサー・アニメのように「実写になんか負けないぜ」という気概を感じさせて欲しかった。これではちょっと豪華な子供向け映画どまりだろう。決してつまらないとは思わないけれど、スター・ウォーズという映画のステータスを考えれば、酷評するファンが多いというのも無理はないと思う。
(Feb 03, 2009)

アイ・アム・レジェンド

フランシス・ローレンス監督/ウィル・スミス、アリシー・ブラガ/2007年/アメリカ/BS録画

アイ・アム・レジェンド [Blu-ray]

 この映画における廃墟と化したマンハッタンの風景は一見に値する。いったいこんな映像をどうやって撮ったんだろうと、観ていて不思議になってしまった。なんでも実際にマンハッタンの一地区を封鎖して撮影したらしい(もちろんCGもそうとう使われているのだろうけれど)。こんなふうに現実には見られないような風景を見せてくれることも、映画の魅力のひとつだと思う。
 とにかくこの映画の序盤はかなりいい。ウィル・スミス演じる主人公は、人っ子ひとりいない無人のマンハッタンでもって、愛犬といっしょに鹿狩りをしたりしている。ウィルスにより全人類が死滅した世界……。話しかけられる相手は、愛犬のサムとマネキンのみ。そんな彼の孤独感がひしひしと伝わってくる(ちなみに世界を破滅に追い込むウィルスの発明者の役で、エマ・トンプソンがワンシーンだけ出演している)。
 そうこうするうちに、その世界には孤独以上におぞましい恐怖──理性を失って超人化した凶暴な怪人──が存在することがあきらかになる。でもって、ことの真相があきらかになったあたりから、物語は一気に荒唐無稽なアクション・ホラーへとシフトチェンジしてしまうのだった(なんたって敵が不自然に強力なもので)。
 なんでもこの映画はヴィンセント・プライス主演の 『地球最後の男』(64年)、およびそのリメイクであるチャールトン・へストン主演の 『地球最後の男 オメガマン』(71年)の3度目のリメイクなのだそうで、2番目の作品はその後のゾンビ映画に大きな影響を与えたんだとか、なんだとか……。つまりこれはその手の系譜につらなる映画なわけだ。
 まあ、もともとそういう映画のリメイクなんだから、荒唐無稽な展開になるのは仕方ないのかもしれない。でも、僕としてはもっとアクション・シーンを削ってもいいから、よりシリアスな見ごたえのある映画にして欲しかった。そういう選択肢もありえる内容だと思うし、なまじ前半の雰囲気がよかっただけに、とてももったいないと思ってしまった。
(Feb 03, 2009)

ビフォア・サンセット

リチャード・リンクレイター監督/イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー/2004年/アメリカ/DVD

ビフォア・サンセット [DVD]

 『ビフォア・サンライズ』──劇場公開時の 『恋人までの距離(ディスタンス)』という邦題はどうかと思う──から9年後。今回はパリを舞台に、あの二人の再会を描いてみせた続編。
 前作のラストで二人は、住所も電話番号も交換しないまま、半年後にまたウィーンで再会しようと約束して別れた。
 さて、それから9年。こういう設定で続編が製作された以上、再会の約束は果たされなかったか、果たされたにしても不調に終わったんだろうことがあきらかだ。ではその真相やいかに──そして再会した二人の運命は?──というのが今回の話。
 前回の出会いが二十歳前後の出来事だったとしたら、今回はもう三十前後。二人ともすっかり自立した大人になっている。生活力のない学生同士ゆえにひと晩で別れざるをえなかった前回とは、おのずから状況は異なる。今回の二人を隔てるのは、生活力の有無ではなく、その間の歳月で育んだそれぞれの人生だ。
 当然、いまさら二人ともフリーだなんてことはないので、前回のように出逢った数時間後にはキスをしているような関係にはならない(なれない)。二人とも運命の人との再会に興奮しながらも、相手のいまの人生に干渉しないようにと、慎重に会話をつづけてゆく。お互いに相手のことを特別視しているのに、素直に抱きしめあえないじれったさ、せつなさ。それがこの続編のポイントだと思う。
 いやあ、それにしてもこの二人、しゃべること、しゃべること。今回も前作同様、9年ぶりに再会したなんて思えないほどの勢いで、環境問題からお互いの恋愛体験までの雑多な話題を、しゃべり倒している。これくらい言いたい放題の会話ができる関係って、それだけで十分に貴重だと思う。そりゃ確かに運命感じちゃうだろう。
 さて最後に二人がどうなるのか。それは観てのお楽しみ。まったく、おいちょっと待てといいたくなるような、唐突な終わり方をしてみせている。ちくしょう。憎たらしくも上手かった。
(Feb 09, 2009)

アメリカン・グラフィティ

ジョージ・ルーカス監督/リチャード・ドレイファス、ロン・ハワード/1973年/アメリカ/BS録画

アメリカン・グラフィティ (ユニバーサル思い出の復刻版DVD)

 オールディーズが大好きなうちの奥さんにとって、この映画のサントラは若いころの愛聴盤だった。僕も彼女と出逢ってそうそうに「これが好きなの~」とかいって、そのアルバム(二枚組)をダビングしたカセットテープをもらったような記憶がある(かれこれ20年以上昔の話だけれど)。
 そんな彼女はまた、スター・ウォーズの大ファンでもある。となれば当然、ジョージ・ルーカスの出世作であるこの映画そのものも好きなのが普通だと思うのだけれど、なぜだかそんなことはない。「サントラは大好きだけれど、映画のほうはあまり……」みたいな調子だったので、もともとこの手の青春群像に関心のない僕も、つられてこの映画にはあまり興味を持てないでいた。
 でも今回、初めて観てみたら、これが意外とおもしろい。ドラマとして決して派手さはないけれど、シナリオがいいのか、いくつかのシーンはとても魅力的だし、なによりも全編にあふれる陽気なオールディーズの紹介役として、伝説のDJ、ウルフマン・ジャックがカメオ出演しているのが拝めるだけでも、十分に観る価値があると思った。若いころにベストヒットUSAでの小林克也氏のDJに親しんでいた世代としては、彼がお手本としたウルフマン・ジャックその人を見られただけで、単純に嬉しかった。
 まあ、出演している四人の主演男優たちは誰ひとりかっこよくないし──そのうちのひとりが若き日のロン・ハワードだったり、のちに 『アンタッチャブル』 で会計士を演じる人だったりするのには驚いた──、おまけにそろいもそろって車と女の子のことにしか関心がないような、典型的なアメリカの男子だったりするので、若き日のうちの奥さんが共感できなかったというのもよくわかる。唯一のイケメン、ハリソン・フォードはいまいちさえない端役だし(でも若い!)。
 それでもこういう映画は、若いころよりも、ある程度の年をとって、若気の至りを笑って見過ごせるようになってからの方が楽しめる気がする。ということで、すっかりいい年になったせいか、僕ら夫婦はこの映画を思いのほか楽しく観ることができた。これぞまさに年の功。
 いや、もちろん、若いころからこの映画が大好きだぞって人だって、たくさんいるんでしょうけれどね。あくまで僕らの場合は、という話。
(Feb 10, 2009)

菊次郎の夏

北野武・監督/ビートたけし、関口雄介/1999年/日本/BS録画

菊次郎の夏 [DVD]

 顔さえ知らずにいた母親の存在を知って、やもたてもたまらず家を飛び出した少年と、「この子を母親に会わせてあげな」と奥さんから言いつけられ、いやいや旅に出たやくざものの旅の模様を描く、コミカルなロード・ムービー。
 この映画は久石譲の音楽がいい。久石氏の音楽はほかの北野作品やジブリの作品で何度も聴いていると思うのだけれど、この映画のそれが一番ぐっときた。いかにもって感動的な映画ではなく、ビートたけしならではというギャグいっぱいのコメディとの組合せがとてもよかった。
 というか、この映画自体がそういうミスマッチの産物だともいえる。描き方によっては『母をたずねて三千里』みたいな感動の物語になりそうなところを、北野武は、彼ならではの恥じらいでもって、ギャグ満載のコメディとして描いてみせる。ほろりとさせるようなところもあるけれど、下手に感傷的になりすぎていないところがいい。主演の男の子にいまひとつ垢抜けない子役(失礼)を抜擢するあたりも、いかにもって気がした。
 この映画、やくざものがカタギを相手に笑いを振りまくという点において、かなり 『男はつらいよ』 に近いものがあると思う。もしかしてこの映画の菊次郎という人は、ビートたけし版の車寅次郎なんじゃないだろうか。本人は思いきり否定しそうだけれど。
(Feb 10, 2009)

監督・ばんざい!

北野武・監督/ビートたけし/2007年/日本/BS録画

監督・ばんざい! <同時収録> 素晴らしき休日 [DVD]

 こりゃ、ひどい。ひどすぎる。
 お医者さんがビートたけしのはりぼて人形をCTスキャンにかけたりしているオープニングのギャグで、おいおい大丈夫かこの映画と思ったらば、ああ不安的中。「世界のキタノ」がまさかこんなひどい映画を撮るなんて思ってもみなかったぜ、ってくらいのひどい仕上がりになっている。
 とはいっても、とりあえず前半はそれほど悪くない。「もうギャング映画はとらない」と宣言したことでスランプに陥ったという北野監督が──僕はまだ 『BROTHER』 から 『TAKESHI'S』 までの4本を観ていないので、それが事実に即した発言なのかどうかわからない──、試行錯誤を重ねながらさまざまなジャンルの新作を撮ろうとするという自虐的な内容は、それなりにおもしろかった。
 こまっちゃうのは後半だ。江守徹、岸本加世子、鈴木杏らが登場するのとともに、いきなりシナリオが崩壊。それまでの「映画監督・北野武の苦悩をシニカルに笑い飛ばす」とでもいった展開が、なんの説明もないまま立ち消えになって、それ以降は安っぽくて下世話なコントが延々とつづくようになる。
 ここから先は、ひたすら救いようがない。ぜんぜん笑えないとは言わないけれど(「マトリョーシカ」には笑った)、かといって肯定的な気分にはとてもなれない。
 スランプなのに持ち前のワーカホリックな気質が災いして撮影に入らずにはいられず、撮り始めてはみたけれど、どうにも内容がまとまらない──そんな中で自らの世界的な映画監督としてのネームバリューにプレッシャーを感じて、「俺はどうせひょうきん族の出身だもの」という自嘲的なエクスキューズを引っぱり出し、自己破壊的な気分のまま撮りきってしまった作品だという気がする。
 せっかく鈴木杏、内田有紀、木村佳乃、松坂慶子といった美女どころをとりそろえたんだから、どうせならば彼女たちをうまく使って、いままでのイメージを裏切るような、思いきりセクシーな映画のひとつでも撮ってみせて欲しかった。ああ、みごとに救われない。
(Feb 12, 2009)

ディセント

ニール・マーシャル監督/シャウナ・マクドナルド、ナタリー・メンドーサ/2005年/イギリス/BS録画

THE DESCENT [DVD]

 女性六人が洞窟探検にでかけて、悲惨な目にあうというホラー映画。
 いやー、これも駄目だった。ホラー・ファンには評価が高いというので、なんとなく興味をひかれて観てみたのだけれど大失敗。映画の出来がいい悪い以前の問題として、僕はスプラッター・ホラーというやつが、からきし駄目なことを再確認してしまった。
 いや、これも前半は悪くなかった。わけもなく残酷な冒頭の事故シーンはともかく、その後の女性六人が洞窟に入っていくあたりからの展開には非常に見ごたえがあった。
 なんたって舞台は出口がどこかもわからない、狭苦しい洞窟のなかだ。しかも登場人物はか弱い――とはいえないながらも──女性ばかり。タフな男性がひとりもいないというだけで、頼りなさが違う。このまま洞窟という密室に閉じ込められた女性たちの心理描写を中心とした重厚な人間ドラマを描いてくれれば、非常にいい話になりそうなんだけれどな、とか思いながら観ていたのだけれども……。
 そこはそれ。これは純然たるホラー映画。そのままなんにも出てこないなんてこたあないわけで。やがて闇にうごめくあやしげなモノの存在がほのめかされはじめ、その正体があきらかになるあたりからは、あたりまえのように血みどろの展開に……。
 うっひゃー。またもやこういう映画ですか。なぜだかこのところ、この手の映画をいくつも観ているので、すっかり血糊の多さにうんざりしてしまっていて、終盤はほとんど楽しめなかった。
 とにかくいまは血が流れない映画が観たい。
(Feb 14, 2009)

フェイク

マイク・ニューウェル監督/アル・パチーノ、ジョニー・デップ/1997年/アメリカ/BS録画

フェイク (Blu-ray)

 ジョニー・デップ演じるFBI捜査官がおとり捜査のため、身分をいつわってマフィアに潜入するという話。
 オープニングで宣言されているとおり、この映画は実話に基づいているのだそうで、なるほどジョニー・デップの演じるドニー・ブラスコ──はマフィアに対する偽名で、本名ジョセフ・ピストーネ──については、 Wikipedia でもけっこう詳しく取り上げられている。写真で見るかぎり、実際のピストーネ氏はいかにもという感じの大柄なイタリア系アメリカ人で、この映画のジョニー・デップ──すでに30代なかばだけれど、まだまだ若々しい──とは似ても似つかない。
 そんなジョニー・デップの演技は、最近のエキセントリックなものとは違い、清潔で生真面目なムードをただよわせていて、なかなか新鮮。ただし、この映画のマフィアには 『ザ・ソプラノズ』 と同じような野暮ったさがあるので、そんな野暮なマフィアから彼のような優男{やさおとこ}が全幅の信頼をよせられるという展開には、やや説得力を欠く嫌いがあるような気がした。
 その点、演技のよさでいえば、アル・パチーノが一枚上手かなと。ギャング映画の金字塔 『ゴッドファーザー』 でマフィアのボスを演じていた彼が、ここではうだつの上がらない中間管理職的なマフィアの幹部をみごと演じきっている。品格あるマイケル・コルレオーネとはうって変わった、しみったれた哀愁の漂うその役作りが秀逸。アル・パチーノの演技がいいから、そんな彼をだましていることに罪悪感をおぼえるジョニー・デップの演技がなおさら共感を呼ぶ。
 最後は裏切りの事実があきらかになって終わってしまうので後味はあまりよくないけれど──実話だというんじゃそれも仕方ない──、これはこれで十分にいい映画だと思った。
 それにしても 『フェイク』 というしゃれた邦題がいまひとつ内容とそぐわないと思ったらやっぱりで、原題はジョニー・デップが名乗る偽名の 『ドニー・ブラスコ』 だった。そっちの無骨さのほうが断然あっていると思うのだけれど、なんで日本はこうなんでしょうか。
(Feb 17, 2009)

リトル・ミス・サンシャイン

ジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ヴァリス監督/グレッグ・キニア、トニ・コレット/2006年/アメリカ/BS録画

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 走り出す黄色いバンに家族の面々が駆け込んでゆく──。
 この映画のなかで何度も繰り返されるそんなシーンをあしらったDVDのジャケットが僕はとても気に入っていて、もしも映画がよければポスターを部屋に飾ってもいいと思ったくらいなのだけれど、残念ながら映画自体にはそこまで惹かれなかった。アカデミー賞で最優秀脚本賞をとっているので、ちょっとばかり期待しすぎていたのかもしれない。終始、笑いながら観ていたわりには、終わってから、もの足りなさをおぼえてしまった。
 物語は家族それぞれが別個の問題を抱えたびんぼう一家が、末娘──どうみてもミスコンには縁遠そうな、おなかがぽっこりふくらんだ幼児体型の女の子――のミスコン出場のため、一台のオンボロ・バンに乗り合わせてカリフォルニアを目指すという一泊二日か二泊三日のロード・ムービー。アカデミー賞では、脚本賞のほか、アラン・アーキンが最優秀助演男優賞、アビゲイル・ブレスリンが史上4番目の若さで助演女優賞にノミネートされたことで話題になった。
 アカデミー賞には縁がなかったそのほかの俳優陣──グレッグ・キニア、スティーヴ・カレル、トニ・コレット、ポール・ダノ──も、それぞれにいい演技を見せてくれていると思う。個人的には、問題ありの一家にあって、ただひとり普通な母親役を演じたトニ・コレットがよかった。
 惜しむらくは、クライマックスとなるミスコンでの、全員そろっての気恥ずかしいまでのフィーバーぶり。僕としては、あれでせっかくのいいムードがだいなしになってしまったような気がしている。
 たとえれば、見た目はけっこう可愛くて、性格も悪くなく、話もおもしろいんだけれど、たまたま目にしたわずかな欠点が気にかかってしまって、つきあいたいとは思わない女の子。そんな感じの映画だった。
(Feb 21, 2009)

さらば、ベルリン

スティーヴン・ソダーバーグ監督/ジョージ・クルーニー、ケイト・ブランシェット/2006年/アメリカ/BS録画

さらば、ベルリン [DVD]

 第二次大戦終戦まぎわのベルリンを舞台に、ジョージ・クルーニー演じる戦争特派員が、ケイト・ブランシェット演じるわけありの美女をめぐっての陰謀劇に巻き込まれるという歴史スリラー。
 この作品のポイントは40年代あたりの古典映画へのオマージュとして撮られていること。白黒で画面アスペクトは4:3(劇場公開時はちがったらしい)だし、エンディングの空港のシーンなどは、百パーセント 『カサブランカ』 を意識している。なんだか主演がハンフリー・ボガートではないことに違和感をおぼえてしまうくらい、徹底的にあのころの映画のフォーマットを踏襲している。
 でも、それではこの映画が当時の名画とおなじくらいに魅力的かというと、答えはノー。なんだかすごくよくできたイミテーションをつかまされているような気がして、なんとも気分がすっきりしない。モノクロとはいっても、映像はいまどきの映画だけあって非常にシャープだし、 トビー・マグワイアが女性のうえで腰を振っている場面など、昔の映画ならば映倫を通らなかったようなシーンもある。そもそも彼やジョージ・クルーニーの物腰自体がなんだかやたらと現代風で、モノクロの映像とマッチしない。
 古典的なフォーマットを踏襲しつつも、そんなふうに現代的な要素がたくさん紛れ込んでいるのが、この映画の欠点だと思う。新旧のミスマッチによる新鮮味を狙ったのかもしれないけれど、僕にはそれが成功しているとは思えなかった。どうせならば、これって本当に二十一世紀に撮られた映画なんだろうかと疑ってしまうくらい、徹底的にオールドファッションなスタイルを追求してみせて欲しかった。
 ソダーバーグにハズレなしという僕の思い込みがけっこう揺らいだ一品。
(Feb 22, 2009)

アンブレイカブル

M・ナイト・シャマラン監督/ブルース・ウィリス、サミュエル・L・ジャクソン/2000年/アメリカ/BS録画

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 『シックス・センス』 で世界をおどろかせたM・ナイト・シャマランの次回作は、これまた意外な結末がさえた、なかなかの秀作だった。
 ブルース・ウィリス演じる主人公のデイヴィッドは、乗客のほぼ全員が死亡した列車脱線事故での唯一の生存者。それも単に助かったというレベルではなく、かすり傷ひとつ負わないという不死身の存在。ところが彼はそんな自らの特別さを受け入れることができず、平凡な生活に埋没していた。隠しごとをしているわだかまりから、夫婦仲も冷え切ってしまっている(ちなみに奥さん役は 『フォレスト・ガンプ』 のロビン・ライト・ペン)。
 そんな彼に目をつけるのが、サミュエル・L・ジャクソン演じるイライジャ。彼は先天的に骨がもろくて、両手足を骨折したまま生まれてきたという、生きているのが不思議なくらい不遇な境遇の持ち主。そんな彼が、自分とは正反対の存在であるデイヴィッドに対して、「君はアメコミにあるようなヒーローとなるべき使命をもって生まれてきたんだ」と説きはじめる。
 さて、デイヴィッドは本当にヒーローとなるべき存在なのか――というか、彼はそんな自分の特別さを受け入れて、なんらかのアクションを起こすことができるのか――、というのがこの映画の主題。ゆったりとしたリズムを持った、不気味でウェットな演出はあまり好みではないのだけれど、それでも風変りなヒーローものの一亜種とでもいった内容は、けっこう気に入った。エンディングもこれまたびっくりだった。
 ちなみにM・ナイト・シャマランという人、変わった名前だと思ったらば、インド生まれのアメリカ移民だとのこと。なるほど、独特の感性を感じさせるのはそれゆえかと納得しました。
(Feb 22, 2009)

アース

アラステア・フォザーギル監督/2007年/イギリス、ドイツ/BS録画

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 『ディープ・ブルー』 と同じく、イギリスBBCが制作したネイチャー・ドキュメンタリーを劇場公開用に再編集した作品で(多分)、北極から南極まで地球を半周しながら、雄大な自然の美しさやさまざまな動物たちの生の営みを、貴重なフィルムをつないで見せてゆくというもの。
 海に焦点を絞った 『ディープ・ブルー』 よりも、こちらは大雑把なストーリー仕立てになっている分、ひとつひとつの映像が長めで、ゆっくりとした印象だった。 『ディープ・ブルー』 を観たのはもう随分と前だから、実際にはそれほど変わらないのかもしれないけれど、僕にはこちらのほうが演出がゆったり、まったりしているように思えた。正直なところ、もっと息つぐ間もないくらいのせわしなさで、がんがんと珍しい映像が目の前を通り過ぎてゆくようなのを期待していたので、このゆっくりとしたリズムはちょっとばかりもの足りなかった。
 まあそれでも、見どころはけっこうある。個人的に好きだったのは、まだ飛べもしないのに短い羽をばたつかせて巣穴からダイブしてみせる雛たちや、珍妙な求愛ダンスをしてみせるカラフルな野鳥の姿。いやー、これらはどちらも笑った。鳥でこんなに笑えるとは思わなかった。京極堂は「世の中には不思議なことなどないのだよ」とうそぶくけれど、こういうドキュメンタリー・フィルムを観ると、そんなことはないんじゃないかという気がする。
 自然の世界は不思議なことで満ちている。
(Feb 22, 2009)

セレンディピティ

ピーター・チェルソム監督/ジョン・キューザック、ケイト・ベッキンセイル/2001年/アメリカ/BS録画

セレンディピティ [DVD]

 「セレンディピティ」というのは ウィキペディア によると「探しているものとは別の価値あるものを見つける能力・才能を指す言葉」なのだそうだけれど(なにやら難しい)、この映画の字幕ではもっと簡単に「幸福な偶然」と訳されていたと思う。
 ということでこれは、幸福な偶然に導かれて運命的な出会いを果たしたにもかかわらず、わずか数時間をともに過ごしただけで離ればなれになってしまった男女が、ふたたび幸福な偶然に導かれて、運命の再会を果たすまでを描くロマンティック・コメディ。
 「偶然」にまつわる言葉をタイトルにかかげてあるだけあって、人によっては「そんな都合のいいことあるかい!」と突っ込まずにはいられなさそうなシーン満載の、ご都合主義まるだしの話なのだけれど、なんといってもこの映画の魅力はそこだと思う。
 現実ではありえないようなハッピーな展開が待っているからこそ、映画は楽しい。かなわぬ恋がかなうことからこそ、フィクションは素晴らしい。僕はそう思う。年がら年中こんな話ばかり観ていたら、あっというまに食傷してしまいそうだけれど、それでもこういう作品がなくなったらば、映画ってもっと味気なくなってしまうと思う。
 それになんといったって、この映画はケイト・ベッキンセイルが可愛い。『アヴィエイター』 でつんと澄ましたエヴァ・ガードナー役を演じていた彼女よりも、こちらのカジュアルな彼女のほうが、僕はだんぜん好きだった。やはり美女の魅力を最大限に引き出すのならば、ロマンティック・コメディでしょう。美女の笑顔に勝るものなし。
 ということでこの映画、出来が特別いいとは思わないんだけれど、僕はかなり好きだった。
(Feb 22, 2009)