カッコーの巣の上で
ミロス・フォアマン監督/ジャック・ニコルソン、ルイーズ・フレッチャー/1975年/アメリカ/BS録画
精神病院の話だというのであまり乗り気じゃなかったのだけれど、歴代映画史上ベストテンに入る傑作だというので観てみれば、そこはさすが、噂にたがわぬ素晴らしい出来だった。
僕がこの映画でもっとも気に入ったのが、思いのほか笑いのある映画だったこと。精神病院の話だということで、真面目一本やりのシリアスな映画だろうと勝手に思い込んでいたのに、いざ観てみれば、そんなことはないどころか、終盤になるまでは、どちらかというとユーモアのほうが勝った内容だった。
しかもそのユーモアというのが、頭のおかしい人たちの奇矯な行動を笑いものにするようなものではなく、心を病んだ悩める人たちへの共感をベースにした、心温まるものであるところがいい。この映画が入院患者たちに向ける視線は終始あたたかだ。社会的弱者である彼ら全員の生きる価値をしっかりと認めているところが、この映画の最大の魅力だと思う。
そうした作り手のまっとうな視線は、悪役である病院側の人々に対しても向けられている。こちらは患者たちとはちがって、みんなやや没個性な嫌いはあるけれど、それでも図式的に悪者としての役回りを割り振られているわけではなく、それぞれが自らの職務にふつうに取り組んでいる結果として悪役に甘んじることになってしまうという描かれ方をしている(少なくても僕はそう思った)。悪いやつがいたから弱者が悲劇の主人公になったというのではなく、それぞれがそれぞれの立場で行動した結果として、最終的に不必要な悲劇が生じてしまう──この映画のそういう悲劇性は、物語としてこの上なく見事だと思った。
まあ、あまったれの僕にはクライマックスの無情さはあまりに悲しすぎたけれど――正直なところ、作品の質を下げてもいいから、ひとつ前でハッピーエンドにしておしまいにしてくれればよかったのにと思ってしまった――、それでもそのあとにちゃんと希望を残して映画は終わっているわけで、当然そこに感動する人だっているのだろう。いや、これはまさに名画と呼ぶにふさわしいと思った。
ちなみにクリストファー・ロイドとかダニー・デヴィートとか、老け役でしか知らなかった俳優さんたちの若いころの演技が見られたのも一興でした。
(Apr 03, 2009)