ピクシーズの2004年の再結成ツアーの模様を追うドキュメンタリー・フィルム。
この映画(といっていいんだろうか。劇場公開はされていないっぽい)のなにがすごいかって、ピクシーズの面々のスター・オーラのなさ加減。僕はこれと前後して、ジョン・レノン、ドアーズ、パティ・スミス、ジョイ・ディヴィジョンと、計5本の音楽ドキュメンタリーを観たのだけれど、ことスター性のなさという点では、間違いなくこのドキュメンタリーがダントツで抜きん出ている。
なんたって中心人物のブラック・フランシス──もしくはフランク・ブラック。この頃はどちらで呼ぶのが正しいのか、よくわからない。ちなみにこのドキュメンタリーの中では本名で「チャールズ」とか「チャーリー」とか呼ばれていて新鮮だった──は健康診断で太りすぎと診断されるのは間違いないって体型だし(悪くいえば「でぶ」)。彼を含め、男性メンバーは3人すべてスキンヘッドだし(この映画のなかでちゃんと髪の毛があることを確認できるのはデヴィッド・ラヴァリングだけ)。紅一点のキム・ディールもかなり太ってしまっている(でもこのドキュメンタリーの時点では、まだ最後にサマソニで観たときよりは痩せている気がする)。
そもそも、ブラック・フランシス以外のメンバーは、再結成の時点では専属のミュージシャンでさえなかったようだ。
ギタリストのジョーイ・サンティアゴは仲間ミュージシャンのビデオ・クリップの編集とかしているし、ドラムのデヴィッド・ラヴァリングに至っては、音楽業界から足を洗って、本格的にマジシャンをやりながら、金属探知機で浜辺のゴミを回収する仕事をしつつ暮らしていたりする(なんだそりゃ)。
キム・ディールにしろ、ブリーダーズとして音楽活動をつづけていたとはいえ、ベーシストとして長時間プレーするのはひさしぶりだったようで、リユニオン後、初のプレミア・ライブが終わったあとには、楽屋に飛び込んでくるなり、ドリンクが浮かぶクーラー・ボックスのなかにざぶと手を突っこんで、指にできたマメを冷やしていた。ライブのあとで指にマメができるプロがいるなんて思ってもみなかったよ。どんだけ長いことベース弾いてなかったんだ。
とにかく、このドキュメンタリーで見られるピクシーズの面々の姿には、スターらしいところはほとんどない。唯一ドラマーのラヴァリングだけは初登場の時点では長髪だし、職業はマジシャンだし、ツアー中もドラッグの問題を抱えているしと、終始カタギではないオーラを発している。バンドでいちばん地味な存在に見える彼がいちばん一般人っぽくないってところも、このバンドの個性かもしれない。
でも、逆説的ではあるけれど、このドキュメンタリーのおもしろさは、そうしたスター性のなさにこそある。いかにも一般人然としたピクシーズの面々が、ふたたび集ってツアーに乗り出してゆくその過程、そしてともに世界中を旅してまわるその日々の姿がとても切実なのだった。音楽業界のスター・システムの外で、純粋に音楽性だけで評価されたピクシーズのようなバンドが、その後も音楽とともに生きてゆくのがどれくらい大変なことかが、このドキュメンタリーからはリアルに伝わってくる。
「昔の名前で出ています」的な再結成ツアーのブームには、とかく好意的でない見方をしてしまいがちだけれど、これを見ると再結成おおいに結構、と思えるようになる。彼らだって彼らなりに生活していかなきゃならないんだから、昔とった杵柄で金を稼いでなにが悪いんだ、という気がしてくる(特に自らが失業しそうな立場にあるだけになおさら)。
最後にサマソニで彼らを見たとき、僕は自分が疲れていたこともあって、「彼らがなにをモチベーションにしてツアーを続けているのかわからない」というようなネガティヴなことを書いたけれど、このドキュメンタリーを見たら、そんな風に思ったことが申し訳なくなった。
わずか4枚だけとはいえ、過去にロック史上に残る名盤を残した彼らだ。どうせなら気が済むまでその音を鳴らしつづけながら、いつまででも世界中を回りつづけて欲しいと、いまは思う。
(Feb 22, 2012)