ナイル殺人事件
ジョン・ギラーミン監督/ピーター・ユスティノフ、ロイス・チャイルズ/1978年/イギリス/DVD
ひさしぶりに原作を読んだので、せっかくだからつづけて観ることにしたアガサ・クリスティーの『ナイルに死す』の映画版。
先行する『オリエント急行』に比べると、それほど評価が高くないようなので、低予算映画なのかと思っていたけれど、決してそんなことはなさそうだった。
主演のポアロ役のピーター・ユスティノフという人をはじめ、男優陣は僕らの世代の日本ではそれほどメジャー感がない人ばかりだけれど──有名なのは『ピンクの豹』のデヴィッド・ニーヴンくらいじゃないでしょうか。あと、もしかしたらテレビ版の『がんばれベアーズ』でバターフィールド役を演じていたジャック・ウォーデンさん──、その分、女優さんが豪華。ジェーン・バーキン、ミア・ファロー、ベティ・デイヴィス、オリヴィア・ハッセーと、往年のビッグ・ネームだらけ。
事件の中心となるリネット役のロイス・チャイルズという女性は知らないと思っていたら、この人は『華麗なるギャツビー』でジョーダン・ベイカーを演じていた人だそうで、これの次回作が『007ムーンレイカー』のボンド・ガールだというくらいなので、当時はかなりの人気だったんでしょう。
そんな豪華な俳優陣を集めて、異郷エジプトでロケを敢行しているわけだから、やはりこれも予算はかなり高そうだ。
観ていておもしろかったのは、犯行後のポアロの推理のシーンで、容疑者すべてを殺人犯に仕立て上げているところ。「あなたはこんな風に殺人に及んだんじゃありませんか?」といってポアロが示してみせる犯行の手口を、実際にその人たちが演じる架空のシーンが延々とつづく。出てくる人、みんな殺人犯状態。それが映像つきで展開されるところに、なんとも殺伐としたおかしみがあった。
ポアロ役のピーター・ユスティノフ氏は、名前と容貌からロシア系の俳優さんかと思ったら、れっきとしたイギリス人らしい。その異国人っぽさが見事にポアロ役にマッチしていた。原作ではたまご型の頭をしているポアロが、ここではたまご型の体型をしているところにも愛嬌がある。
あと、ポアロの相棒をつとめるレイス大佐役のデヴィッド・ニーヴンがいい。レイス大佐役にふさわしいという意味ではなく、ポアロの相棒ってイメージにまさにぴったりだと思った。ヘイスティングズ役にでも据えて、このふたりのコンビでシリーズ化されてたらもっと楽しかったのに。
シナリオは、原作から二、三人のサブキャラと枝葉のエピソードを削って、再編成したもの。メインの部分はまったく手を触れていないところに好感が持てる。あとはエジプト観光にまつわる部分の絵がもうちょっとぱきっとした美しい映像で撮れていたら、もっとよかったのにって。そこだけがやや残念かなという映画。
それにしても、冒頭で新婚カップルがピラミッドに登っちゃうシーンがあるけれど、昔はあんなことしてよかったんでしょうか? 観光客がほとんどいないピラミッドってのも、いまとなるとすごく珍しそうな気がする。
(Sep 12, 2015)