2017年7月の映画

Index

  1. ウディ・アレンの6つの危ない物語
  2. シン・ゴジラ
  3. インフェルノ
  4. インクレディブル・ハルク
  5. スーサイド・スクワッド

ウディ・アレンの6つの危ない物語

ウディ・アレン監督/ウディ・アレン、エレイン・メイ、マイリー・サイラス/2017年/アメリカ/Amazon Prime Video

ウディ・アレンの6つの危ない物語 (字幕版)

 昔かたぎな映画職人、ウディ・アレンがなんと時代の最先端、Amazonオリジナルの連続ドラマを監督したのみならず、みずから主演まで務めているという話題作。
 でも、そういう鳴りもの入りな部分を除けば──あと、ジャズ・マニアのウディ・アレンの作品にもかかわらず、一話目のオープニングでいきなり六十年代のロックがかかるのを除けば(これには驚いた)──、作品自体はものすごくオーソドックスな、いつも通りのウディ・アレン作品という感じ。連続ドラマとはいっても、一エピソードあたり二十分強、全六話ぽっきりなので、トータル・タイムは二時間半ほど。タイトルのせいで一話完結の短編が六本なのかと思っていたら、全体でひとつの物語だったし、そういう意味では、いつもよりもちょい長めのウディ・アレン作品という印象で、とても楽しめた。
 この作品はまったく内容を知らないで観たほうが絶対に楽しいと思うので、あらすじは書かないけれど、一話目ではほとんどなんの事件も起こらず、退屈なくらいにゆっくりとしたペースだった話が、二話目でマイリー・サイラスが登場した途端にがぜん急ピッチで転がり始め、ついにはカオス満載の最終話になだれ込んでゆくという、その展開が見事。笑いのツボもたっぷりだし、こんなドラマがAmazonのプライム会員になれば無料で観れちゃうのってのがすごい。まぁ、逆にいうと、Amazonの会員にならないと観られないってのが困りものかもしれない。
 マイリー・サイラスって僕は名前しか知らなかったのだけれど、ディズニー・チャンネルのドラマでブレイクして、歌手としても売れている女の子なんすね。そんな子がウディ・アレンと丁々発止のやりとりを繰り広げているのもなにげにすごい。昔ながらのコメディでありながら、映画配信の新しい時代を象徴するような作品。
(Jul 02, 2017)

シン・ゴジラ

庵野秀明・総監督、樋口真嗣・監督/長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ/2016年/日本/WOWOW録画

シン・ゴジラ

 去年大ヒットをとばした庵野秀明による劇場版『ゴジラ』の最新作。
 公開当時になんども劇場へ足をはこんだ人が多いとは聞いていたけれど、観てみて納得。なるほど、これは観なおしたくなる。かくいう僕も翌週に食事をしながらもう一度観てしまった。
 どんな映画かというと、すばり庵野がエヴァンゲリオンでやったことを、まんま実写で再現してみせたような作品だと思う。ゴジラという素材を震災をテーマにしたポリティカル・フィクションに仕立てて、それを全編にわたって惜しげもなくエヴァ風に味つけしている。音楽の使い方なんか、もろにエヴァンゲリオンそのままだ。
 エヴァでは「死海文書」や「ロンギヌスの槍」などの意味深なキーワードで視聴者を煙にまいてみせた庵野が、この作品ではあふれんばかりの情報量を詰め込んで、ふたたび僕らを煙にまく。画面には登場人物の役職名や地名、兵器の名称などが休みなくスーパーインポーズされるし、俳優陣のセリフ回しは過剰なまでに早口だ。
 僕ら観客はついてゆくのがやっとという過剰な情報の波に翻弄されながら、ゴジラの来襲という天変地異級の事件を疑似体験することになる。その二時間のせわしさときたら……。映画がはじまるなり、間髪入れずにいきなり事件が起こるし、物語の展開は速くて、観ていて無駄なシーンがひとつもない。序盤の会議のシーンはくどくてやや退屈だけれど、あれにしたって会議なんてものは長くて退屈なものだという風刺が入っているんだろうし。
 まぁ、その点にかぎらず、映画としては決して完璧とはいえない作品だと思う。初見のゴジラはゴジラと呼ぶにはあんまりだし、最終形態になってからは生き物のレベルを超えて無敵すぎる。僕にはこの映画のゴジラにはいまいち怪獣としての愛着を抱けない。怪獣映画としてはそこが欠点。
 あと、石原さとみが演じる米国政府要人や、松尾諭の演じる政調副会長など、重要な役どころにあるキャラが軽すぎる嫌いがある(個人的には長谷川博己と松尾諭が共演した『デート~恋とはどんなものかしら~』の脚本家が「あのふたりにゴジラが倒せるわけないだろ」といったという話が大好きだ)。
 でもそういう欠点もまぁ愛嬌かなと思えるくらいの力が、これでもかってくらいの濃さがこの映画にはある。石原さとみらのアニメ・キャラ的な軽さとか、ゴジラ第二形態──俗称「蒲田くん」というらしい──のふざけたデザインとか確信犯なんだろうし。そもそも、蒲田くんの昨今のCGらしからぬチープ感は、往年の特撮映画へのオマージュなんだろうしなぁ……。
 この映画には、たとえB級であろうとそれが自分たちの好きなものである以上、好きなものは好きだと割りきって、いまの自分たちにできる最高のものを生み出そうとして、それをなんとか成し遂げたという達成感がある。そこがいい。
 なにより、庵野秀明という人の映像作家としての文体が、実写でもそのまま通用するということを証明したという点において、非常に重要な作品ではないかと思います。
(Jul 23, 2017)

インフェルノ

ロン・ハワード監督/トム・クルーズ、フェリシティ・ジョーンズ/2016年/アメリカ/WOWOW録画

インフェルノ (字幕版)

 ダンテの『神曲』をテーマにした『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズの映画化第三弾。
 すでに原作のディテールを忘れているので、どれくらい原作に忠実なのか、はっきりとはわからないけれど、でもまぁ、印象的にはそれなりに忠実なつくりになっていると思われる。病院から始まって水上音楽会でクライマックスってのは、確かにその通りだった覚えがあるし。
 ただし、この映画版では最後の最後で大きな変更が加わっている。原作ではその結末のサプライズこそがこの作品の最良の部分だと思っただけに、それを削ってしまった点が僕としては大いに残念。ヒロインのフェリシティ・ジョーンズ(『ローグ・ワン』の彼女)がなかなかいい感じだっただけに、彼女のキャラクターの魅力を損なうような改変だったから、なおさら残念だった。
 まぁ、映像的には派手で見どころも多かったし、その点をのぞけば、ミステリ映画としては決して悪くない出来なのではないかと思います。
 それはそうと、フリーメイソンをテーマにした原作の三作目『ロスト・シンボル』を飛ばして、四作目のこれが映画化されたのには、なんらかの政治的圧力があったってことなんですかね? ちょっと気になる。
(Jul 23, 2017)

インクレディブル・ハルク

ルイ・レテリエ監督/エドワード・ノートン、リヴ・タイラー、ティム・ロス/2008年/アメリカ/WOWOW録画

インクレディブル・ハルク(字幕版)

 ハルクのキャラクターにいまいち興味がなくて、いままで観ないままだったこの作品。『アヴェンジャーズ』へとつながるマーベル・シネマティック・ユニヴァースの、『アイアンマン』につぐ二本目とのこと。
 でもこれがなかなかの意表作だった。
 『アイアンマン』や『キャプテン・アメリカ』と同じく、当然この作品も主人公ブルース・バナーがいかにして超人ハルクになったのかを描くものと思っていたら、その部分はオープニングのタイトル・シーケンスでのフラッシュバックとして描かれて、あっさりと終わり。本編ではアメリカ政府に追われる身となったバナーと、それを追いかけるアーミー(ウィリアム・ハートやティム・ロスら)との追跡劇がメインとなる。
 調べてみたら、これ以前に『ハルク』が映画化されたのが2003年で、このわずか5年前のことだし、そのときの監督がのちに『ブローバック・マウンテン』でオスカーを取ることになるアン・リーだから──それにしてはiMDB や AllMovie での評価が最悪だけど──、さしものマーベルもリメイクするのが忍びなくて、この作品ではあえてそのつづきを描いたんでしょうかね。
 まぁ、なんにしろ主人公の出自を描いていない点といい、ここでハルクを演じているエドワード・ノートンが『アヴェンジャーズ』では降板してしまっている点といい、シリーズのなかでは異色の一本だろうって気がする。アヴェンジャーズの一員として欠かせないキャラだからマーベル・ブランドとして映画化してはみたけれど、残念ながらうまく『アヴェンジャーズ』本編につながりませんでした、みたいな作品。
 とはいえ、映画としてはけっこうおもしろかった。単なるスーパーヒーローものとしてだけではなく、異形の超人となって苦悩する主人公と、そんな彼をなおも愛しつづけるヒロイン(エアロスミスの娘、リヴ・タイラー)との『美女と野獣』的なラブ・ロマンスとしても楽しめるところがいい。
 心拍数があがると変身しちゃうからって、エッチもままならない主人公には同情を禁じえません。
(Jul 23, 2017)

スーサイド・スクワッド

デヴィッド・エアー監督/ウィル・スミス、マーゴット・ロビー/2016年/アメリカ/WOWOW録画

スーサイド・スクワッド(字幕版)

 マーベルに比べると映画界ではやや影が薄い感のあるDCコミックス原作の作品。バットマンらに捕まって刑務所に入れられた悪党たちがチームを作ってアメリカの危機を救うという話。
 この作品、キャラはいい。紅一点──ではないけれど、イメージ的に紅一点と呼びたくなる──のハーレイ・クイン(マーゴット・ロビー)はやたらとキュートだし、デッドショットというスーパー狙撃者役を演じるウィル・スミスもとてもカッコいい(ひさびさに見たらちょっとばかり印象が違っていて、不覚にもウィル・スミスだって気がつきませんでしたが)。悪い魔女役のエンチャントレス(カーラ・デルヴィーニュ)というキャラの妖しい感じも素敵。
 ただ、どうにもこうにもシナリオが~。話がどうでもよすぎる。キャラクターの行動原理がいい加減すぎる。ご都合主義にもほどがある。俺はあんなに何度もヘリコプターが爆発もせずに墜落する映画を観たのは初めてだよ。
 あと、ジョーカー役のジャレッド・レトという人、決して演技は悪くないんだけれど、なんたって過去にジョーカーを演じたジャック・ニコルソンやヒース・レジャーのイメージが鮮烈なだけに、どうにも分が悪い感が否めない。
 なまじいいところがあるだけに、あーもったいないと思ってしまうような作品だった。
(Jul 30, 2017)