2020年5月の映画

Index

  1. ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q
  2. グレイテスト・ショーマン
  3. ベイビー・ドライバー
  4. オーシャンズ8
  5. ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
  6. シリアスマン
  7. インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌
  8. ゴジラ キング・オブ・モンスターズ
  9. ハドソン川の奇跡
  10. ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q EVANGELION:3.33 YOU CAN (NOT) REDO.

庵野秀明・総監督/緒方恵美、林原めぐみ、宮村優子/2012年/YouTube

ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q

 今年の六月に予定されていた第四作目の公開がコロナのせいで延期になったとかで、おそらくそのプロモーションと自宅待機への応援の意味をかねて、期間限定で無料公開されていた『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』三作品をYouTubeでまとめて観た。
 一、二本目は過去に感想を書いているので(まあ、胸をはれる内容じゃないけれど)、今回はこの第三作のみ。
 で、公開からすでに八年がすぎているこの作品。なんでこの三本目だけ感想を書いてないんだろう? と思っていたら、僕はこの映画を観るの、もしかしたら今回が初めてなのかもしれなかった。
 いや、冒頭三十分の衝撃の展開は知っていたし、ラストシーンもおぼろげに記憶がある気がしなくもないので、地上波で放送されたときに観ている気もするんだけれど(少なくてもその録画はディスクに焼いてあった)、でもそれ以外はまったく知らない話だった。ここまで知らないと観ていないも一緒。
 とにかく、ストーリー的にほぼテレビ版の通りだった『序』、テレビ版を踏襲しながらディテールを改竄して方向性を変えてみせた『破』につづくこの第三作『Q』では、物語はテレビ版から離れて、まったくの別物になっている。
 いや、違うのは物語というよりは、舞台設定――だろうか。メインとなる子供たちは――真希波マリという『破』から登場した新キャラがいる点をのぞけば――ほぼそのままだし、ミサトさんをはじめとしたネルフの人々も出てくる(出てこないキャラもたくさんいるけど)。でもなんといってもこの映画の舞台はサード・インパクト以後という設定なので、根幹をなす物語の背景がまるで違う。もうここには僕らがテレビ版で親しんできた第三新東京市の風景はない。
 この作品を受け入れられるかどうかは、その大胆な変更をどう思うかに尽きるのではないかと思う。
 もしもここに描かれる「その後」の世界をあっさりと受け入れられれば、テレビ版の何倍も美しい作画のもとに描き出されるシンジたちの新たな戦いや、斬新な巨大メカをフィーチャーした空中戦は、意外性たっぷりでこたえられないものなのかもしれない。
 でも僕個人はその方向修正にほとんど魅力を感じなかった。『破』で思ったのと同じように、やはりこの『Q』での新たな世界観もテレビ版の魅力には遠く及ばない(少なくても僕にとっては)。
 エヴァンゲリオンという作品の魅力は、内向的な十四歳の少年が、魅力的な女の子や大人たちに囲まれて日常生活を送りながら、自らの器には見合わない天変地異級の大事件に挑んでゆくところにあるのだと定義するとするならば、この『Q』の世界観からはその魅力の半分以上が抜け落ちてしまっている。
 最終的に世界は滅びざるを得ないのかもしれないけれど、でもそれはもっとあとのあと、最後の最後でよかった。僕はトリッキーでいびつな設定のもとで描かれた人類が滅亡したあとの風景が観たかったわけじゃない。テレビ版のあのつづきが観たかったんだよぉ……。
 結局エヴァンゲリオンという作品は、庵野秀明という人にとって、どうあがいても納得のゆく結末にたどり着けないカルマのような作品なのかもしれない。
(May. 04, 2020)

グレイテスト・ショーマン

マイケル・グレイシー監督/ヒュー・ジャックマン、ザック・エフロン、ミシェル・ウィリアムス/2017年/アメリカ/WOWOW録画

グレイテスト・ショーマン (字幕版)

 フリークショー的なサーカスで大成功を収めたという噂の実在のアメリカ人事業家、T・P・バーナムを主人公にしたミュージカル映画。
 僕はヒュー・ジャックマン主演という以外、なんにも知らないで観始めたもので、主人公が大人になって最初に手がける施設が「バーナム博物館」だと知って驚いた。
 え、『バーナム博物館』といえば、スティーヴン・ミルハウザーの短編集のタイトルじゃないですか(内容はまったく覚えてないけれど)。げ、あの短編って実在した博物館に材をとっていたんだ。そりゃびっくりだ(もしかしてあの本の解説に書いてあったのかもしれないけれど、作品自体を忘れているので、そんなことを覚えているはずもない)。
 ということで、この映画が描いているのが、その後のアメリカ文学にもささやかながら影響を与えた偉人――それとも奇人変人はたまた山師?――だとわかったことで、途中からは興味倍増でした。
 この映画のポイントは、ショーの見世物として登場する奇形の人たちをある種のマイノリティーの極みとして扱うことで、主人公のバーナムさんをレイシズムのかけらもない善良なる好人物として描いていること(まあ基本的には)。
 時代性を考えれば、彼のような事業家がそんな善良な平等主義者だったとは思えないんだけれど、それでもこの映画の魅力は確実にそこにある。人とは異なった姿かたちに生まれてしまった人たちを差別することなく、特殊な個性を持った一個人として扱うことの大事さを、この映画は感動的な音楽にのせて訴えかけてくる。
 後半のクライマックスで使われている挿入曲『ティス・イズ・ミー』がオスカーの最優秀歌曲賞を逃したのが不思議なくらい感動的でした。まあベタっちゃぁベタだけど。
 キャスティングでおっと思ったのは、ヒュー・ジャックマンの事業のパートナーとなるザック・エフロンが恋に落ちる空中ブランコの踊り子役が『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』でMJ役を演じていたゼンデイヤであること。あと、バーナム氏の興行上の浮気相手というべきオペラ歌手役が、去年観た『ドクター・スリープ』でローズ・ザ・ハット役を演じていたレベッカ・ファーガソンだったこと。まぁゼンデイヤと違って、後者はそうといわれなきゃわからなかったけれど。
 あと、いわれてもわからないのが、バーナム夫人役のミシェル・ウィリアムズ。この人の顔はいつまでたっても見分けがつかない。
(May. 04, 2020)

ベイビー・ドライバー

エドガー・ライト監督/アンセル・エルゴート、リリー・ジェームズ、ケヴィン・スペイシー、ジェイミー・フォックス/2017年/アメリカ/Netflix

ベイビー・ドライバー (字幕版)

 わけあって銀行強盗の手伝いをさせられている若き天才ドライバーを主人公にしたスタイリッシュなクライム・ムービー。
 この映画は冒頭の十五分くらいが素晴らしい。いきなり銀行強盗のシーンから始まり、超絶なカーチェイスが繰り広げられて、その後日談で主人公のベイビーくん(アンセル・エルゴート)がカフェでコーヒーを買って、仲間内のミーティングに出向くあたりまでの出来が出色。スタイリッシュでスピーディーな演出といい、長回しを使ったカメラワークといい、もう文句なしのセンスのよさ。この手の映画が好きな人ならば、ここまで観た時点でこの映画を好きにならずにいられまいって思った。
 まぁ、シナリオはそこまですごいとは思わないし、ヒロインのデボラ――『シンデレラ』の実写版で主演を演じたリリー・ジェームズ――との恋愛劇もかなりイージーだけれど(あんなにきれいな子がダイナーでウエイトレスをしていると、いやおうなく『ツイン・ピークス』を思い出してしまう)、でもそういうところもお愛嬌って思わせる魅力がこの映画にはある。
 そういう意味で唯一残念だったのは、冒頭のカーチェイスのシーンを上回るようなカーチェイスがクライマックスでもう一度観られなかったこと。僕はぶつかりそうでぶつからない神技的なドライビング・テクニックをみせるベイビーの活躍がクライマックスで当然もう一度観られるものと思っていたので、そういう痛快なカーチェイスがなかったことには正直がっかりした。クライマックスの盛り上げ方はちっともスタイリッシュじゃない。
 でも残念なのはそれくらい。ケヴィン・スペイシー(セクハラ騒動で映画界を追われる直前の作品らしい)の腹の読めない悪役ボスぶりとか、ジェイミー・フォックスの物騒なキャラ作りとか、その他の仲間のギャングたちのバランスとか、キャスティングもとても魅力的だし、なにより重要なのは音楽の使い方が素晴らしいこと。クライム・ムービーにおける音楽の使い方という点では、タランティーノに引けをとらないセンスを感じた。
 観終わったとたんにもう一度リピートしたくなるような愛おしさをおぼえてしまうタイプの秀作だった。
(May. 04, 2020)

オーシャンズ8

ゲイリー・ロス監督/サンドラ・ブロック、ケイト・ブランシェット、アン・ハサウェイ/2018年/アメリカ/WOWOW録画

オーシャンズ 8(字幕版)

 もう一本つづけて泥棒映画を。
 ジョージ・クルーニー主演でヒットした『オーシャンズ11』シリーズを、サンドラ・ブロックほかの豪華女性キャストに置き換えてリブートしたスピンオフ・ムービー。
 この映画でサンドラ・ブロック演じるデビー・オーシャンは、ジョージ・クルーニーが演じたダニー・オーシャンの妹という役どころ(ダニーさんはこの映画の時点ではなぜかすでに故人)。父親も泥棒だという話だったから、1960年公開のオリジナル版『オーシャンと十一人の仲間』で主演したフランク・シナトラがお父さんという設定なのかもしれない。そこんところはよくわからない。
 物語は兄同様に刑務所から出てきたばかりのサンドラ・ブロックが、収監中に温めていたメトロポリタン美術館での大掛かりな窃盗計画を実施にうつすために、ケイト・ブランシェットをはじめとした仕事仲間を呼び集めるというもの。
 前シリーズ同様、周到な計画をたてて実行に移すという泥棒映画ならではの楽しさが味わえるのがこの映画のいいところだ。まぁ、盗まれた首飾りが発見される場面とかちょっと不自然だし(見つけた人が最初に疑われるだろう)、旧作ではメンバーのひとりとしてカウントされていた計画上とても重要な役どころのメンバーが、シナリオのせいでメンバーとしてカウントされていないのはどうなんだと思うけれど、全体的には楽しめたからまぁよし。
 キャスティングで意外性があったのは、アン・ハサウェイがオーシャンズ8のメンバーではなく、狙われる側のセレブ役であったこと。そのせいもあって、僕が知っている泥棒仲間のキャストは、中心人物であるふたり――そういや、珍しく前髪をたらしたパンキッシュな雰囲気のケイト・ブランシェットもちょい違和感がある――を除くと、リアーナとヘレナ・ボナム・カーターくらいだったので「豪華キャストというほどでもない?」感がなくもなかった。
 でもまぁ、その点は『オーシャンズ11』も同じだった気がするし、ちょい役でダコタ・ファニングが出ていたり(とうぜん気がつかない)、泥棒の舞台となるMETのガラ・パーティーでは『プロジェクト・ランウェイ』のハイジ・クラム(最新シーズンでは降板してしまっていてさびしい)ほかの著名人がたくさんカメオ出演しているから、やっぱ豪華といえば豪華なんでしょう。
 キャスティングで地味によかったのが、事件のあとで盗品の行方を追う保険調査官の役がジェームズ・コーデンだったこと。この人は『カープール・カラオケ』で車を運転しながらゲストと一緒にノリノリで歌いまくる姿がおかしくて、すっかりわが家の人気者(『はじまりのうた』でキーラ・ナイトレイが居候する男友達の役だったこと、つい最近になって気がつきました)。
 なにはともあれこの映画、『オーシャンズ8』というタイトルにしたのは、このあと9、10とつづけて三部作にする腹づもりだったのだろうけれど、それほど評判がよくもなさそうなので、さてどうなることやら。僕はつづきがあれば、喜んで見るけれど。
(May. 10, 2020)

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

クエンティン・タランティーノ監督/レオナルド・ディカプリオ、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー/2019年/アメリカ、イギリス/WOWOW録画

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド (字幕版)

 クエンティン・タランティーノ監督の最新作は60年代のハリウッドを舞台に、レオナルド・ディカプリオとブラッド・ピットのダブル・キャストで描く映画業界の内幕劇。
 とはいっても、この作品で重要なのはこのふたりの競演よりもむしろ、ヒロインがロマン・ポランスキーの妻で、チャールズ・マンソンの信者に殺害されたシャロン・テートであること(演じているのは『スーサイド・スクワット』以来すっかり売れっ子のマーゴット・ロビー)。ディカプリオはポランスキー宅のとなりの屋敷に越してきた落ちぶれ気味の西部劇俳優で、ブラッド・ピットはその相棒のスタントマンという役まわりになっている。
 でもって、この映画でおもしろいのは、そんな主役のふたりと隣人であるシャロン・テートにまったく接点がないこと。
 実在の美女を配役しておいて、主役たちと彼女が最後までまったく絡みがないなんてはずがないのに、観ていてもまったく出会う気配がない。いったいこの人たちがどのように出会うんだろう……という疑問に対するタランティーノの答えがこの映画の最大の見どころだった。
 いやー、実話を下敷きにしたからこそ可能なあの展開はあまりに見事だった。タランティーノすげーってまたもや思わされました。
 アカデミー賞ではブラッド・ピットが助演女優賞を獲っているけれど、ディカプリオの演技もすごくよかった。とくに西部劇の撮影シーンが素晴らしい。映画監督に絶賛されるシーンはお世辞じゃなく本当に最高だと思った。
 どちらかというと僕にはブラピよりもディカプリオの演技のほうがよいように思えたので、これでなぜディカプリオがオスカー獲ってないんだろうと思ったら、この年の最優秀主演男優賞は『ジョーカー』のホワキン・フェニックスだった。ああ、なるほど(まだ観てないんだけれど)。ついてないねぇ、ディカプリオ……。
 作品全体をみると、タランティーノ作品のつねで、あいかわらず「長すぎじゃん?」とは思うし、とくに序盤の西部劇や戦争映画へのオマージュはタランティーノの趣味性全開で、その辺のジャンルが得意でない僕としては親しみにくい部分があるのは否めないのだけれど、それでも、それらがあってこそのあの驚愕のクライマックスが生きてくるわけだから、けちをつけるのはなし。
 すべてが終わったあと、エンド・クレジットの弛緩したムードの中に漂う不穏な空気が絶品だ。こんな映画、おそらくこの人にしか撮れない。
 やはりタランティーノはひと味もふた味も違った。
(May. 10, 2020)

シリアスマン

ジョエル&イーサン・コーエン監督/マイケル・スタールバーグ/2009年/アメリカ/WOWOW録画

シリアスマン (字幕版)

 このところマーベルを中心に気楽に観られるエンタメ映画ばかり観ていて、大好きだったはずのコーエン兄弟やイーストウッドの監督作品で観ていない作品がけっこう増えてしまったので、ここいらで最近の作品を一気に観てしまおうって気になった。
 ということでまずは、2009年のコーエン兄弟のこの作品から。
 ――って、いやしかし。この映画はなんなんでしょうかね。
 この映画でコーエン兄弟が描くのは、小さなトラブルの連続に悩まされるユダヤ人の大学教授の話。
 主人公のマーク・スタールバーグは『ボードウォーク・エンパイア』でロススタイン役を演じていた人で――まぁ、いわれないとそうとはわからない――ギャング役だったあのドラマとは打って変わって、ここでの役どころはいたって善良な小市民。
 そんな彼のもとにささやかで不条理な不幸がつぎつぎと巻き起こる。
 無職の兄が居候としていすわり、妻は唐突に離婚を切り出し、その愛人からは自宅を追い出され、大学での永年教職権の審査もなんだか怪しいことに……。
 悩んだ彼はユダヤ教のラビに相談に行くのだけれど、会う人、会う人、くわせものばかり。はてさて、この人は最終的にどうなっちゃうんだろう――と思って観ていたら、この映画は「えっ」って思うような唐突な終わり方をする。
 いったいコーエン兄弟がこの映画でなにを描きたかったのか、僕にはまったくわかりません。そもそも冒頭の前世紀のオカルトっぽいシーケンスはその後にどう絡んでいるんだろうか? あの最後のラビが最初に出てきたラビと同じ人ってこと?
 ――うーん、ぜんぜんわからない。
 たまにこういう作品があるから、コーエン兄弟の作品を観るには覚悟がいるんだよなって。自分が最近マーベルばかり観ている理由が腑におちた一編。
(May. 17, 2020)

インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌

ジョエル&イーサン・コーエン監督/オスカー・アイザック、キャリー・マリガン/2013年/アメリカ、フランス/WOWOW録画

インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌(字幕版)

 もう一本つづけてコーエン兄弟の作品。
 1960年代のグリニッジ・ヴィレッジを舞台に、知人の部屋のソファーからソファーへと渡り歩きながらその日暮らしをしている売れないフォーク・シンガーの姿を描いたペーソスたっぷりのコメディ映画。
 その時代のフォーク・シンガーといえば、なによりまずはボブ・ディランだから、主人公はディランをモデルにしているのかと思ったら違う。主人公のルーウィン・デイヴィス――演じるのは『スター・ウォーズ』最新三部作でポー・ダメロン役を務めたオスカー・アイザック――には自殺した相棒とコンビで活動していた過去があるし、それ以前に、明らかにディランだってキャラが最後にちょっとだけ出てくる(歌声を聴いた途端にディランだとわかるのがすごい)。
 ということでこの映画の主人公は邦題のサブタイトルにもなっている通り「名もない男」。まぁ、仮にもレコードを出しているのだから、まったく無名ってことはないだろうけれど、それでも自宅さえないんだから生活力はゼロ。歌手仲間(なんとジャスティン・ティンバーレイクだそうだ)の恋人(キャリー・マリガン)に手を出して妊娠させちゃったりもしているし、世話になった家の愛猫を行方不明にさせちゃったりもする。そんな憎みきれないろくでなし(いや、妊娠させた女の子からはおそらく憎まれている)。
 でもこの人、とりあえず歌とギターは上手いです。『スター・ウォーズ』の彼がこんなに歌えて弾ける人だとは思わなかった。
 そういや、この映画には彼と一度だけ一緒に仕事をする低音ボイスの歌手役で、カイロ・レン役のアダム・ドライバーも出ている(このころはまだ細め。ほんと最近よく見るな)。彼もセールスは主人公とどっこいという役どころ。『スター・ウォーズ』のメイン・キャストが揃って売れない歌手役で競演しているという。そういう意味でもなかなか興味深い作品かもしれない。
 まぁ、なんにしろこれもひとつ前の『シリアスマン』ほどではないけれど、なにが描きたかったんだか、いまいちよくわからない映画だった。とくにジョン・グッドマン演じるジャズ・ミュージシャンとのシカゴへの珍道中とか、なんだったんだろうって感じ。でもまあ、『シリアスマン』よりは楽しく観れました。
 月並みだけれど、ポスターにもなっている猫にまつわるエピソードがいい。猫好きの人はぜひ。
(May. 24, 2020)

ゴジラ キング・オブ・モンスターズ

マイケル・ドハティ監督/カイル・チャンドラー、ヴェラ・ファーミガ、ミリー・ボビー・ブラウン/2019年/アメリカ/WOWOW録画

ゴジラ キング・オブ・モンスターズ(字幕版)

 ゴジラ、モスラ、ラドン、キングギドラが一堂に会する『三大怪獣 地球最大の決戦』のハリウッドによるリメイク版。『キングコング:髑髏島の巨神』でその存在がほのめかされたときからとても楽しみにしていた作品だったのだけれども……。
 これもぜんぜん駄目だった。なんでハリウッドがゴジラを撮るとこんなになっちゃうんでしょう?
 渡辺謙演じるキャラの名前が「芹沢博士」だったり、ゴジラを退治するために使われる秘密兵器が「オキシジェン・デストロイヤー」だったり、モスラを研究するアジア系の女性学者が双子だったり、音楽にゴジラやモスラのオリジナル・スコアが使われていたりと、日本のオリジナル・シリーズへのオマージュたっぷりなのはいい。日本人としては素直に嬉しい(そういえばオープニングで東映のクレジットがどーんと出たのにも驚いた)。
 でも、とにかくシナリオがひどい。なにもかもが行きあたりばったりな感じ。人々の行動原理がデタラメすぎて、興ざめはなはだしい。怪獣映画だからって物語も荒唐無稽でいいってことはないでしょうよ。もっとちゃんとしたシナリオを書いてくださいよ。高い金もらってんでしょうに。
 『ストレンジャー・シングス』のミリー・ボビー・ブラウンがメイン・キャストにいるのも楽しみのひとつだったのに、彼女の行動にもいちいち疑問符がついてばかりだし、こんな話じゃまったく盛り上がれない。
 あと、毎度の話だけれど、やはり今回も怪獣のデザインが駄目。
 いや、ゴジラ、キングギドラ、ラドンは悪くない――最新CGは迫力満点。でもあのモスラだけは駄目でしょう? 手足長すぎて、あれじゃ普通に巨大な昆虫じゃん。仮にも南海の孤島で「神」と崇められる存在なのだから、もうちょっとキュートでないと。「クイーン・オブ・モンスターズ」とか持ち上げといて、あの扱いはひどい。がっかりもいいところ。あと、キングギドラの再生能力が超絶的に高いのも興ざめだった。
 ということで、劇場で観ようか迷ったくらい楽しみにしていた作品なのだけれど、観てみたらはずれもいいところだった。わざわざ映画館で観なくてよかった。もうほんとがっかり。
 次回作は『ゴジラVSコング』らしいけれど、このモンスターバースというシリーズには期待しちゃいけない気がしてきた。
(May. 24, 2020)

ハドソン川の奇跡

クリント・イーストウッド監督/トム・ハンクス、アーロン・エッカート/2016年/アメリカ/WOWOW録画

ハドソン川の奇跡(字幕版)

 いやー、ひさびさのイーストウッド作品だけれど、これはよかった。
 ニューヨークのラガーディア空港を離陸したジャンボ機がその直後に鳥の群れに追突してエンジン停止するという事態に陥り、機長の判断でハドソン川に緊急着水して、奇跡的に乗員・乗客全員が無事だったという実話を映画化したもの。
 機長のチェズレイ・サレンバーガー氏(演じるのは見事な老けっぷりのトム・ハンクス)は英雄としてメディアで称えられるのだけれど、それに水を差すのが保険会社などを中心とする事故調査委員のみなさん。管制塔の指示に従い、空港へ戻っていれば、機体は無事で済んだはずなのに、水没させて何百億円もするエアバス一機を廃棄処分にしたということで、機長はその責任を問われることになる。
 人道的には文句なしに素晴らしい行いをした人物が、資本主義のルールによって罪を問われる――そんな不条理でむかつく展開がこの映画のメインテーマ。いかに機長が自らの潔白を証明するのかが後半の焦点になっている(自分の判断が正しかったかのかと悩む機長の胸のうちを表現した冒頭の墜落シーンにはびっくり)。
 でも、この映画を特別なものにしているのは、どちらかというとそこよりも、やはり祈跡の事故を再現して見せた中盤のシーケンスだ。機長の判断でハドソン川に着水したジェット機に様々な方面から救助の手が差し伸べられるシーンがとてつもなく感動的だった。あまりによかったんで、翌週にもう一度、観なおしてしまったくらい。
 これまでに観たイーストウッド作品のうちでも一番の感動作でした。
 それにしても副機長役のアーロン・エッカートも老けたなぁ……。
(May. 31, 2020)

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書

スティーヴン・スピルバーグ感得/メリル・ストリープ、トム・ハンクス/2017年/アメリカ/WOWOW録画

ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書 (字幕版)

 トム・ハンクス主演で実話をもとにした映画をもう一本。
 政府の最高機密文書だったベトナム戦争の分析資料の漏洩をめぐるスクープが当時のアメリカで大問題になったそうで、これはそのスクープの一翼を担ったワシントン・ポスト紙の社主キャサリン(ケイ)・グラハムと編集長のベン・ブラッドリーを主役に描く社会派ドラマ。グラハム女史を演じるのがメリル・ストリープ、ブラッドリー役がトム・ハンクスで、監督がスピルバーグという豪華な布陣の作品。
 実話ベースの新聞社によるスクープの話といえば、この二年前に『スポットライト 世紀のスクープ』がアカデミー賞を取っているけれど、あちらが記者たちを主役にしていたのに対して、この映画の主役は社主と編集長。それゆえにおのずから性格が異なっている。
 地道な記者たちの取材の積み重ねを追っていって感動を生んだあの映画と違い、こちらでの焦点は歴史的なスクープによる政府との軋轢からいかに新聞社を守るかという点。要するに経営者視点が大きな要素を占めているのが特徴。
 なんたって編集長のブラッドリーさんはJFKと懇意だったそうだし、グラハム女史は文書を作成した責任者のマクナマラとは家族づきあいをしている仲だ(ちなみにマクナマラを演じているのは『13デイズ』ではJFK役だったブルース・グリーンウッドで、どちらかというとこちらの映画ほうがはまり役だと思った)。そんな人たちが、報道の自由に生きるべきか、アメリカ政府との関係に忖度すべきか、選択を迫られて苦悩する姿が描かれる。それゆえ物語としての痛快さはいまいち。
 まあ、映画化されたくらいだから最終的にはハッピーエンドを迎えるのだけれど、そこまでの流れにけっこう閉塞感が強いせいで、最終的なカタルシスもそれほどではなかった。
 あと、メリル・ストリープの演技がけっこうナイーヴで、彼女と新聞社の取締役の男性陣とのやりとりからは「アメリカ史におけるもっとも影響力のある女性のひとり」と評されるほどの偉大さが伝わってこないのも残念な点。もう少し彼女の内面の強さを感じさせるような脚本だったらなおよかったと思う(名優メリル・ストリープの演技にケチをつけるなんて、なんて恐れ知らずな……)。
 でも気になったのはそのくらい。基本的にはおもしろい映画だった。とくにワシントン・ポストが文書のコピーを入手してから記事にするまでのスピーディーな展開がとてもいい。ブラッドリー宅で奥さんや娘を巻き込んで、てんやわんやの大騒ぎで記事を書き上げるくだりが最高でした。
 それはそうと五月はこれが十本目の映画。一ヵ月に二桁台の映画を観たのって、いったいいつ以来だろう――と思ったら、それ以前にスピルバーグを映画を観るのがおよそ十年ぶりだった。あらら。
(May. 31, 2020)