ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q EVANGELION:3.33 YOU CAN (NOT) REDO.
庵野秀明・総監督/緒方恵美、林原めぐみ、宮村優子/2012年/YouTube
今年の六月に予定されていた第四作目の公開がコロナのせいで延期になったとかで、おそらくそのプロモーションと自宅待機への応援の意味をかねて、期間限定で無料公開されていた『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』三作品をYouTubeでまとめて観た。
一、二本目は過去に感想を書いているので(まあ、胸をはれる内容じゃないけれど)、今回はこの第三作のみ。
で、公開からすでに八年がすぎているこの作品。なんでこの三本目だけ感想を書いてないんだろう? と思っていたら、僕はこの映画を観るの、もしかしたら今回が初めてなのかもしれなかった。
いや、冒頭三十分の衝撃の展開は知っていたし、ラストシーンもおぼろげに記憶がある気がしなくもないので、地上波で放送されたときに観ている気もするんだけれど(少なくてもその録画はディスクに焼いてあった)、でもそれ以外はまったく知らない話だった。ここまで知らないと観ていないも一緒。
とにかく、ストーリー的にほぼテレビ版の通りだった『序』、テレビ版を踏襲しながらディテールを改竄して方向性を変えてみせた『破』につづくこの第三作『Q』では、物語はテレビ版から離れて、まったくの別物になっている。
いや、違うのは物語というよりは、舞台設定――だろうか。メインとなる子供たちは――真希波マリという『破』から登場した新キャラがいる点をのぞけば――ほぼそのままだし、ミサトさんをはじめとしたネルフの人々も出てくる(出てこないキャラもたくさんいるけど)。でもなんといってもこの映画の舞台はサード・インパクト以後という設定なので、根幹をなす物語の背景がまるで違う。もうここには僕らがテレビ版で親しんできた第三新東京市の風景はない。
この作品を受け入れられるかどうかは、その大胆な変更をどう思うかに尽きるのではないかと思う。
もしもここに描かれる「その後」の世界をあっさりと受け入れられれば、テレビ版の何倍も美しい作画のもとに描き出されるシンジたちの新たな戦いや、斬新な巨大メカをフィーチャーした空中戦は、意外性たっぷりでこたえられないものなのかもしれない。
でも僕個人はその方向修正にほとんど魅力を感じなかった。『破』で思ったのと同じように、やはりこの『Q』での新たな世界観もテレビ版の魅力には遠く及ばない(少なくても僕にとっては)。
エヴァンゲリオンという作品の魅力は、内向的な十四歳の少年が、魅力的な女の子や大人たちに囲まれて日常生活を送りながら、自らの器には見合わない天変地異級の大事件に挑んでゆくところにあるのだと定義するとするならば、この『Q』の世界観からはその魅力の半分以上が抜け落ちてしまっている。
最終的に世界は滅びざるを得ないのかもしれないけれど、でもそれはもっとあとのあと、最後の最後でよかった。僕はトリッキーでいびつな設定のもとで描かれた人類が滅亡したあとの風景が観たかったわけじゃない。テレビ版のあのつづきが観たかったんだよぉ……。
結局エヴァンゲリオンという作品は、庵野秀明という人にとって、どうあがいても納得のゆく結末にたどり着けないカルマのような作品なのかもしれない。
(May. 04, 2020)