2020年6月の映画

Index

  1. 市民ケーン
  2. ウルヴァリン:SAMURAI

市民ケーン

オーソン・ウェルズ監督・主演/1941年/アメリカ/WOWOW録画

市民ケーン(字幕版)

 二十世紀を代表する傑作だというので、前から一度は観ておかないとと思っていた作品。『市民ケーン』というタイトルから政治的な内容なのかと思っていたら、意外と恋愛映画っぽかった。
 幼少期に莫大な財産を相続したがゆえに人とは違った人生を歩まざるを得なくなった男の孤独を描いたこの映画。さすがに評判だけのことはあって構成が見事。
 新聞王として全米じゅうにその名を馳せた主人公チャールズ・フォスター・ケーンの生涯を、彼の死後に報道されたドキュメンタリー・フィルムという形で、冒頭十分間で一気に見せて、それからそのディテールをあらためて描いてゆくという趣向。
 架空の人物であるにもかかわらず、僕らは最初にケーン氏の生涯を教えられることで、その人が実在の人物であるかのような錯覚に陥る。そしてニュースで教えられた断片的なエピソードの背後にはどんな事実があったかを追体験してゆくことになる。その構成力と語りのバランスのうまさに感銘を受けた。
 その後の映画史をつぶさに見れば、きっと同じような趣向を凝らした映画はほかにもきっとあるんだろうけれど、第二次大戦前に監督デビュー作としてこんな映画を撮ってみせたオーソン・ウェルズの才能には恐れ入る。
 だって彼はこのとき、まだ二十六歳だよ?――なんでそんな青年があんな老成した役どこを自ら演じようと思ったんだかって話だ(いやはや、まさかそんなに若いとは思わなかった)。
 まぁ、映画という表現手法にとっては映像の魅力も重要なので、ハイヴィジョンに慣れた現代人の目から見ると、画角4:3のモノクロ映画は映像的な刺激に乏しく、さすがに二十一世紀の観客がこれを歴代一位に選ぶのは無理があると思うのだけれど――iMDbのトップ250では本日時点で97位――時代性を踏まえればこれがとても優れた映画だというのはよくわかった。
 ずっと気にかかっていた作品なので、とりあえず観られてよかった。
(Jun. 12, 2020)

ウルヴァリン:SAMURAI

ジェームズ・マンゴールド監督/ヒュー・ジャックマン、TAO/2013年/アメリカ、イギリス/WOWOW録画

ウルヴァリン: SAMURAI  (字幕版)

 見逃していた『ウルヴァリン』シリーズの第二弾をようやく観た。
 『LOGAN/ローガン』を観たときには、ウルヴァリンが弱り切っている理由がわからずに、この第二作目を観ていないのはやっぱまずかったかと思ったものだけれど、結局これを観ても謎は解けず。残念ながら設定にほとんど連続性がなかった。
 この映画でのウルヴァリンはその不死身の要因である超常的な再生能力を奪われて苦しむことになるけれど、その原因はとても説得力のない人為的なものだし、最後には身体に注入されたアダマンチウムを抜き取られて終わるという、なんだそりゃな展開が待っている(ネタばれごめん)。いくらなんでも設定が不細工すぎる。
 昨今の20世紀フォックスはシナリオ・ライターの質が低すぎやしませんかね?――と思ったら、なんと脚本家の一人が『25時』の原作者のデヴィッド・ベニオフだった。なんでいっぱしの小説家がこんな低レベルなシナリオに絡んでいるんだ? この人の本が積読に一冊あるんだけれど、読むのが不安になった。
 ちなみに、この映画のサブタイトルにある『SAMURAI』は邦題のオリジナルで、英語のタイトルはそのものずばり『The Wolverine』。原題だと日本要素ゼロなのに、内容はほぼ全編が日本ロケという異色作だった。日本でロケをしたというのは知っていたけれど、まさかここまで徹底的に日本の話だとは思わなかった。さすがにこの内容だとタイトルに『SAMURAI』ってつけたくなる気持ちもわかる。
 そもそも冒頭から太平洋戦争当時の長崎で日本軍の捕虜となっていたウルヴァリンが原爆が墜ちるのを体験するという回顧シーンから始まるのだからびっくりだ。
 ウルヴァリンがそのときに救った日本兵が日本屈指の大富豪となっていて、余命幾ばくもないその人がウルヴァリンを現代の日本へと呼び寄せるという設定。
 舞台が日本だというだけではなく、主要キャストもほとんどが日本人だった。悪役に白人美女がひとりいるだけで、あとは軒並み日本人。
 アメリカへとウルヴァリンを迎えにくる赤髪のサムライ・ガールが『100万円の女たち』でヌーディストの女社長を演じていた福島リラ。大富豪の相続者として何者かに命を狙われるその孫がTAOという美女で(モデルだというだけあってスタイル抜群)、その父親が真田広之という具合。ヒュー・ジャックマンが彼ら日本人と英語を話しながら、芝の増上寺あたりで大暴れしているというのは、なんとも不思議な感じだった。
 英語の「Wolverine」を僕はずっと「ウルフ」から派生した狼男的なニックネームだと思い込んでいたけれど、実際には動物のクズリのことだそうで、そのため日本人がウルヴァリンのことを「クズリ」と呼ぶのがどうにも失笑もの。黒髪の美女がヒュー・ジャックマンを真顔で「クズリ」と呼ぶのをみて笑わないでいられる日本人はそんなにいないんじゃないかと思います。
 まぁ、シナリオはひどいけれど、おかしな日本情緒たっぷりのハリウッド映画という点ではなんともいえない味のある作品だった。
(Jun. 14, 2020)