市民ケーン
オーソン・ウェルズ監督・主演/1941年/アメリカ/WOWOW録画
二十世紀を代表する傑作だというので、前から一度は観ておかないとと思っていた作品。『市民ケーン』というタイトルから政治的な内容なのかと思っていたら、意外と恋愛映画っぽかった。
幼少期に莫大な財産を相続したがゆえに人とは違った人生を歩まざるを得なくなった男の孤独を描いたこの映画。さすがに評判だけのことはあって構成が見事。
新聞王として全米じゅうにその名を馳せた主人公チャールズ・フォスター・ケーンの生涯を、彼の死後に報道されたドキュメンタリー・フィルムという形で、冒頭十分間で一気に見せて、それからそのディテールをあらためて描いてゆくという趣向。
架空の人物であるにもかかわらず、僕らは最初にケーン氏の生涯を教えられることで、その人が実在の人物であるかのような錯覚に陥る。そしてニュースで教えられた断片的なエピソードの背後にはどんな事実があったかを追体験してゆくことになる。その構成力と語りのバランスのうまさに感銘を受けた。
その後の映画史をつぶさに見れば、きっと同じような趣向を凝らした映画はほかにもきっとあるんだろうけれど、第二次大戦前に監督デビュー作としてこんな映画を撮ってみせたオーソン・ウェルズの才能には恐れ入る。
だって彼はこのとき、まだ二十六歳だよ?――なんでそんな青年があんな老成した役どこを自ら演じようと思ったんだかって話だ(いやはや、まさかそんなに若いとは思わなかった)。
まぁ、映画という表現手法にとっては映像の魅力も重要なので、ハイヴィジョンに慣れた現代人の目から見ると、画角4:3のモノクロ映画は映像的な刺激に乏しく、さすがに二十一世紀の観客がこれを歴代一位に選ぶのは無理があると思うのだけれど――iMDbのトップ250では本日時点で97位――時代性を踏まえればこれがとても優れた映画だというのはよくわかった。
ずっと気にかかっていた作品なので、とりあえず観られてよかった。
(Jun. 12, 2020)