2020年11月の映画

Index

  1. 華氏119
  2. イエスタデイ
  3. クイーンズ・ギャンビット
  4. オールド・ボーイ [2003]
  5. パラサイト 半地下の家族

華氏119

マイケル・ムーア監督/2018年/アメリカ/Amazon Prime Video

華氏119(字幕版)

 トランプ対バイデンのアメリカ大統領選挙で世間が盛り上がっていたので、ちょうどいいからトランプ大統領が誕生した四年前の大統領選挙を取り上げたマイケル・ムーアのドキュメンタリーを観てみた。
 ジョージ・ブッシュを糾弾する内容だった『華氏911』と名前からしてそっくりのこの作品(ぱっと見だと違いがわからない)。今回もトランプをあしざまに罵るような内容なのかと思っていたら、そうでもない。
 まあ、トランプ大統領の誕生を嘆いてはいるけれど、ブッシュの時ほどにマイケル・ムーアの怒りは激しくないというか。有名人同士ってことで、過去に接点があったから、あまりひどく言うのも偽善的だと思ったのか。最初から諦めムードが漂っているというか。トランプ許すまじと思っている人にとっては、いまいちもの足りない内容のような気がする(そうでもないんでしょうか)。
 そもそも冒頭の主役はブッシュよりヒラリーだ。初の女性大統領誕生が確実視されて盛り上がるヒラリー・クリントン陣営の興奮を伝える映像を中心に、その喜びが悲しみに反転する様をある種コミカルに描いてみせている。
 タイトルとなっている「119」は単なる「911」との語呂合わせってだけではなく、ヒラリー女史の敗北が決まった日――つまりトランプ大統領の誕生が確実になった日――である11月9日のこと(原題には『Fahrenheit 11/9』とスラッシュが入っている)。
 ということで、ヒラリー敗北のあとからはトランプが主役になるかと思いきや――。
 トランプが大統領に立候補するまでの顛末を駆け足でたどったあと(いきなりグウェン・ステファニーにトランプ当選の責任をおっかぶせたのにはびっくりだ)、マイケル・ムーアの視点はトランプではなく、自らの出身地であるミシガン州知事で、トランプと同じように大富豪から知事へ転身したというリック・スナイダーへと向かう。そして故郷フリントでこの知事によって引き起こされた(とムーアが考えている)水質汚染の深刻さを訴えてゆく。
 いやー、これがひどい話で。水道水が子供の健康を害する有毒物質入りになるのを知事が大企業の利益を優先するがゆえに放置していたなんて話――しかもそれがつい最近のアメリカでの話だなんて信じられますか? そのパートのあまりの理不尽さのせいで、トランプ大統領の影がすっかり霞んでしまった感がある。
 ということで、マイケル・ムーアによる大統領バッシング・ドキュメンタリーの第二弾だと思ったこの映画は、内容的にはムーア監督のデビュー作である『ロジャー&ミー』に通じるところの多い、苦みの強い地域密着ドキュメンタリーだった。
 それにしても、アメリカの大統領はいつになったら決まるんでしょうね。
(Nov. 17, 2020)

イエスタデイ

ダニー・ボイル監督/ヒメーシュ・パテル、リリー・ジェームズ/2019年/イギリス/Amazon Prime Video

イエスタデイ (字幕版)

 売れないシンガー・ソング・ライターがある日事故を起こして目を覚ましたら、なぜだか世界中からビートルズが消え失せていましたと。
 これ幸いと、彼はビートルズの曲を自作と偽ってブレイクを果たすのだけれど、成功と引き換えに世界でいちばん大事な人を失うことに……というような内容の、ビートルズの楽曲たっぷりなロマンティック・コメディ。
 うーん、ダニー・ボイルってこんなに甘い映画を撮る人でしたっけ? それなりにはおもしろかったけれど、僕にはこの作品、ちょっと安直すぎるような気がした。
 いちばんしっくりこなかったのは主演の彼。主演を張るくらいなので、決して歌は下手ではないんだけれど、でもボーカリストとしてのカリスマ性が薄すぎる。ビートルズの楽曲にふさわしいだけの才能を感じさせないから、彼が売れる展開にまったく説得力がない。いっちゃわるいけれど、彼が歌ったんでは、ビートルズの名曲もまるで名曲に聞こえない。これがいまの時代にヒットするといわれてもなぁ……。
 まぁ、逆にカリスマ性がある俳優をキャスティングしたら、それまで彼が売れてないことに説得力がなくなってしまうから、あえて特別感のないインド系の俳優を使ったのかもしれないけれど、でも見た目は冴えないけれど圧倒的に歌が上手い人か、逆に歌はふつうだけれど文句なしのイケメン俳優が主演だったらば、もっと話に違和感がなかったのではという気がする。
 ヒロインはこの頃よく見るリリー・ジェームズ。『ベイビー・ドライバー』では綺麗すぎて平凡なウエイトレス役がミスマッチな印象だったけれど、この映画の印象はいたって普通の女の子って感じ(印象が違いすぎて、いわれないと同じ人だってわからなかったかも……)。あっちの映画のほうが美人に撮れていたけれど、こちらの自然体でカジュアルな演技のほうが個人的には好みだった。
 あと、ビートルズの楽曲に惚れ込む大スターという役どころで、エド・シーランが実名でカメオ出演しているのも、この映画のチャーム・ポイント。
 よく知らないけれど、きっとエド・シーランはビートルズ大好きなんでしょう。そんな彼がビートルズの曲を生まれて初めて聴いて、主人公の才能に惚れ込んでしまうというシナリオはとてもおもしろい。――いや、おもしろいとは思うんだけれど、でもだからこそ、エド・シーランをぞっこんにさせるほどのカリスマ性を主人公が感じさせてくれないのがなんとも痛いなぁと……。
 ま、ということで、ひっかかるところの多い作品ではあるけれど、決して出来の悪い映画ではないです。個人的にはしっくりとこなかったというだけ。ヒロインは可愛いし、物語としてもおもしろい。
 とくにビートルズの楽曲を剽窃していることに悩んだ主人公が、自分以外にもビートルズを知っている人たちと出逢い、彼らに薦められてある重要人物に逢いにゆくくだりこそ映画のクライマックスだと思う。もしかしてあのシーンを描きたかったためだけにダニー・ボイルはこの映画を撮ったのではと思ったくらい。
 ビートルズ・ファンならば絶対に気に入るという映画ではないと思うけれど――逆に僕と同じ理由で引っかかる人も多いのではないかと思う――でもあのシーンだけは、ぜひ観といたほうがいいのではと思います。ビートルズが好きならば、絶対に胸にくるものがあるはず。
(Nov. 23, 2020)

クイーンズ・ギャンビット

スコット・フランク監督/アニャ・テイラー=ジョイ/2020年/アメリカ/Netflix(全7話)

The Queen's Gambit: Now a Major Netflix Drama (English Edition)

 エキセントリックな雰囲気の女の子がチェス盤を前にしてまっすぐな視線でこちらを見つめているポスターに興味を引かれて観ることにしたネットフリックスの連続ドラマ。孤児院で育った女の子がチェスの才能を開花させて、ついには世界チャンピオンに挑戦するまで昇りつめるという話。
 主人公のベス・ハーモンは数学者どうしの不倫の結果として生まれてきた女の子。心を病んだ母親の自殺後に幼くして孤児院に引き取られ、そこでチェス好きな用務員のおじさんの手ほどきを受けて、チェスへの非凡な才能を開花させる。
 両親の優れた頭脳とともに、ベスには依存症の気質も遺伝してきたらしく、彼女はチェスに没頭する一方で、孤児院の子供たちに与えられていた緑色のカプセルの薬(精神安定剤?)への依存症の傾向をみせる。そんな彼女がオーバードーズでぶっ倒れるところまでが第一話。
 二話目で孤児院からとある夫婦のもとに養女として引き取られた彼女は、夫婦が離婚してから養母とふたりで暮らすようになるのだけれど、この母親がまたアル中気味で、十代の養女に平気で酒を飲ませたりする。そんな養母との生活のなかで、彼女はチェスと薬と酒に溺れてゆく。
――こういう書き方をすると悲惨そうな話に聞こえるかもしれないけれど、でも演出は特に泣かそうとするでもない適度な塩加減。ベスはチェスや薬には過剰な執着を示すものの、異性関係はいたってドライで、男性に媚を売るようなところもない(ただし貞操観念もない)。ニコリともせずに男性至上主義的なチェス界の強敵たちに果敢に挑んでゆく彼女の冒険はとてもスリリングで刺激的だ。六十年代が舞台ってことで、懐かしのロック・ナンバーやオールディーズが効果的に使われているのもいい。
 主演のアニャ・テイラー=ジョイは、ポスターの写真を見たときには特別美人だとは思わなかったけれど、いざドラマの中で見るその姿はとても魅力的だった。低めの声とその容姿にはスカーレット・ヨハンソンに通じるところがある。おそらくこのドラマをきっかけに大ブレークするんじゃなかろうか(すでにしている?)。
 なにはともあれ、チェスのルールを知らなくても問題なく楽しめるって点では『ちはやふる』や『3月のライオン』と同じタイプの秀作ドラマ。時間に余裕があったら、もう一度最初から観なおしたいくらいおもしろかったです。お薦め。
(Nov. 29, 2020)

オールド・ボーイ

パク・チャヌク監督/チェ・ミンシク、カン・ヘジョン/2003年/韓国/Amazon Prime Video

オールド・ボーイ (字幕版)

 韓国映画にはまったく興味がないのだけれど、アカデミー賞を獲った『パラサイト 半地下の家族』はいちおう観ておこうと思っていたので、その映画の前哨戦的な意味あいで、前から気になっていたこの韓国映画を先に観た。
 スパイク・リーが2013年にリメイクした『オールド・ボーイ』のオリジナル版。原因不明のまま十五年もの監禁生活を強いられた男が、自分を罠にはめた相手を探し出して復讐しようとするクライム・サスペンス。
 スパイク・リー・バージョンを観たときには、なんてひどい話だと呆れかえったものだけれど、今回は物語のもっともひどい部分を踏まえて観ていることもあって、それほどの衝撃は受けず。出演者はなじみのない韓国人俳優だし、演出にしても大好きなスパイク・リーを上回るほどの好印象を受けるはずもなく――。
 ということで、個人的な趣味の問題もあって、このオリジナル版がリメイク版より優れた部分が僕には見いだせなかった。この作品はリメイクを許しちゃいけなかったんじゃないだろうか。絶対にリメイク版があるせいで損をしていると思う。
 とりあえず、新旧二本を見比べておもしろいなと思ったのは結末の違い。
 スパイク・リー版はキリスト教的な潔癖性がゆえか、主人公が許されざる罪を犯した自らを罰するような形で終っていたけれど、韓国版はいまいちけじめがつかないというか、これってまさかハッピーエンドなの?――という曖昧な終わり方をしている。
 そこのところにこの作品のテーマである罪悪感に対する西洋と東洋での意識の違いを見た気がした。個人的にはその部分もスパイク・リー版のほうがあと腐れがなくて好きだったりする。
(Nov. 29, 2020)

パラサイト 半地下の家族

ポン・ジュノ監督/ソン・ガンホ、イ・ソンギュン/2019年/韓国/WOWOW録画

パラサイト 半地下の家族(字幕版)

 アジア映画としては初のアカデミー賞・最優秀作品賞の栄冠に浴した韓国映画。
 主人公は一家全員が失業者という極貧四人家族。息子がとある金持ちの屋敷の家庭教師として雇われたのをきっかけに、その家の奥さんの人のよさにつけこんで、全員が身分を偽ってその家で働くようになる。妹は下の子の絵の先生、父親はお抱え運転手、母親は家政婦。一家そろって収入を得て生活苦から解放され万々歳!――と、この世の春を満喫していた彼らだったけれど、じつはその屋敷には住民さえも知らない秘密があったことから、一家は思わぬ窮地に陥ることに……。
 貧乏人が策を弄して金持ちに取り入ってゆく序盤のおもしろさや、嘘がばれそうになって右往左往するコミカルかつスリリングな中盤、そのあとの血なまぐさいどんでん返しなど、エンターテイメントとしては確かにおもしろい。その一方で貧困にあえぐ人たちの悲哀を感じさせる終盤の描写には社会的なメッセージ性も込められているようだし、そうした複層的な視点を持っている点も高評価の要因なのかもしれない。
 ただ、人を騙して取り入るって話なので、お世辞にも気持ちのいい作品とはいえない。結末も『オールド・ボーイ』と似た感じで、いまいちしっくりこなかったし、個人的にはもう一度観たいと思うタイプの映画ではなかったので、アカデミー賞はこれをよくも最優秀作品賞に選んだなって思った。
 だって、アカデミー賞の審査員にとっては『ジョーカー』や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』や『アイリッシュマン』や『マリッジ・ストーリー』よりもこれのほうが上だって話ですよ?
 俳優陣がひとりもノミネートされていないって時点で、演技面ではとくに評価の高い作品ではないのだろうし、監督賞や脚本賞はまだわかるけれど、最優秀作品賞にふさわしいほどの傑作だとは、申し訳ないけれど思えなかった。
(Nov. 30, 2020)