華氏119
マイケル・ムーア監督/2018年/アメリカ/Amazon Prime Video
トランプ対バイデンのアメリカ大統領選挙で世間が盛り上がっていたので、ちょうどいいからトランプ大統領が誕生した四年前の大統領選挙を取り上げたマイケル・ムーアのドキュメンタリーを観てみた。
ジョージ・ブッシュを糾弾する内容だった『華氏911』と名前からしてそっくりのこの作品(ぱっと見だと違いがわからない)。今回もトランプをあしざまに罵るような内容なのかと思っていたら、そうでもない。
まあ、トランプ大統領の誕生を嘆いてはいるけれど、ブッシュの時ほどにマイケル・ムーアの怒りは激しくないというか。有名人同士ってことで、過去に接点があったから、あまりひどく言うのも偽善的だと思ったのか。最初から諦めムードが漂っているというか。トランプ許すまじと思っている人にとっては、いまいちもの足りない内容のような気がする(そうでもないんでしょうか)。
そもそも冒頭の主役はブッシュよりヒラリーだ。初の女性大統領誕生が確実視されて盛り上がるヒラリー・クリントン陣営の興奮を伝える映像を中心に、その喜びが悲しみに反転する様をある種コミカルに描いてみせている。
タイトルとなっている「119」は単なる「911」との語呂合わせってだけではなく、ヒラリー女史の敗北が決まった日――つまりトランプ大統領の誕生が確実になった日――である11月9日のこと(原題には『Fahrenheit 11/9』とスラッシュが入っている)。
ということで、ヒラリー敗北のあとからはトランプが主役になるかと思いきや――。
トランプが大統領に立候補するまでの顛末を駆け足でたどったあと(いきなりグウェン・ステファニーにトランプ当選の責任をおっかぶせたのにはびっくりだ)、マイケル・ムーアの視点はトランプではなく、自らの出身地であるミシガン州知事で、トランプと同じように大富豪から知事へ転身したというリック・スナイダーへと向かう。そして故郷フリントでこの知事によって引き起こされた(とムーアが考えている)水質汚染の深刻さを訴えてゆく。
いやー、これがひどい話で。水道水が子供の健康を害する有毒物質入りになるのを知事が大企業の利益を優先するがゆえに放置していたなんて話――しかもそれがつい最近のアメリカでの話だなんて信じられますか? そのパートのあまりの理不尽さのせいで、トランプ大統領の影がすっかり霞んでしまった感がある。
ということで、マイケル・ムーアによる大統領バッシング・ドキュメンタリーの第二弾だと思ったこの映画は、内容的にはムーア監督のデビュー作である『ロジャー&ミー』に通じるところの多い、苦みの強い地域密着ドキュメンタリーだった。
それにしても、アメリカの大統領はいつになったら決まるんでしょうね。
(Nov. 17, 2020)