2020年12月の映画

Index

  1. エミリー、パリへ行く
  2. スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団
  3. 男と女の観覧車
  4. レイニー・デイ・イン・ニューヨーク

エミリー、パリへ行く

ダレン・スター製作/リリー・コリンズ/2020年/Netflix(全10話)

 マーケッティング会社で働く元気な女の子がパリへの出張を命じられて、花の都で仕事と恋に大活躍するネットフリックス製作の連続ドラマ。
 排他的なフランス人の同僚たちにいじめられながらも、めげずにがんばる主人公のエミリーが、SNSのインフルエンサーとして注目を浴びるようになり、徐々に周囲から認められてゆくというような話。『セックス・アンド・ザ・シティ』(僕は観たことない)を手掛けた人の新作だそうで、主演のリリー・コリンズはフィル・コリンズの娘さんとのこと(へー)。深みとかはないけれど、難しいところもこれっぽっちもない。一話三十分で気軽に観られて、それなりに楽しかった。
 このドラマでおもしろいのは、アメリカ人のエミリーが最初のうちフランス人の同僚たちから「アメリカ人は働きすぎだから嫌い」みたいな感じで邪険にされるところ。え、アメリカ人ってそんなに働き者なイメージでしたっけ?
 対するフランス人はセックス好きで仕事嫌いの享楽主義者ばかりって感じだし。こんなんでいいのかと思ったら、やはりフランスでは大炎上しているらしい。そりゃそうだろうなと思いました。
 でもまぁ、そんな世間の悪評にもめげず、同僚の嫌味にも負けずに、ポジティブに日々の仕事に励み、花の都でのおしゃれな生活を楽しむエミリーの姿はなんとも愛くるしい。彼女のやることなすこと上手くいってしまって、ややイージーすぎやしないかと思わないでもないけれど、それだからこそ気楽に楽しめるところがこのドラマの魅力かもしれない。
 おそらくエミリーの多彩で色鮮やかなファッションの数々も見どころのひとつだろうなと思います。地味好きな僕の好みじゃないけれど。
(Dec. 06, 2020)

スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団

エドガー・ライト監督/マイケル・セラ、メアリー・エリザベス・ウィンステッド/2010年/アメリカ/Netflix

Scott Pilgrim Vs. the World スコット・ピルグリムVS.邪悪な元カレ軍団 (字幕版)

 主人公がベースを弾いているポスターが好きで、前から気になっていた作品なのだけれど、監督が『ベイビー・ドライバー』のエドガー・ライトだというので――あと、ヒロインも『遊星からの物体X ファーストコンタクト』のメアリー・エリザベス・ウィンステッドだというので――それはぜひ観なきゃと思ったのですが……。
 これが「なんだこりゃ?」って怪作だった。
 マイケル・セラ――『ジュノ』でエレン・ペイジのボーイフレンド役だった人で、イメージがジェシー・アイゼンバーグとかぶりまくっている――が演じる売れないベースマンの主人公がバンド仲間に「高校生の彼女ができた」とのたまうところからこの映画は始まる。しかもその子が中国人だと。
 はぁ? メアリー・エリザベス・ウィンステッドはどうした?――と思っていると、女子高生のカノジョとのつきあいもそこそこに、メアリーさん演じるラモーナと出逢ってすぐ恋に落ちるスコットくん。そしてラモーナにアプローチをかける彼に説明もなく襲いかかってくるラモーナの元カレの数々(ひとりはカノジョ)――って、なんだこの映画いったい。
 あまりに変な映画であらすじがうまく書けません。
 タイトルに「VS」とはあるけれど、まさか比喩でもなんでもなく、本当に戦っちゃう映画だとは思わなかった。CGを使ったB級ゲーム感覚のカンフー・バトル満載。しかもそこに『キャプテン・アメリカ』のクリス・エヴァンスやら『キャプテン・マーベル』のブリー・ラーソンやらが絡んでくるという。
 なんだこの無駄に豪華なキャスト。のちのアベンジャーズの主演俳優どうしがこんなバカな映画で共演しているとは思わなかったよ。
 いやぁ、これまでに僕が観たことのある変な映画ランキングのベストテンに入る怪作でした。思い出しただけで苦笑いが止まらない。ある意味、一見の価値がある作品かもしれません。
(Dec. 06, 2020)

男と女の観覧車

ウディ・アレン監督/ケイト・ウィンスレット、ジャスティン・ティンバーレイク/2017年/アメリカ/Amazon Prime Video

女と男の観覧車 (字幕版)

 新型コロナの巣ごもりせいか、例年にくらべて多めに映画を観た一年の最後は、ウディ・アレンの最新作を二本つづけて観て締めることにした。
 まずはケイト・ウィンスレットが主演のこれから(――といいつつ、まだ一本しか観てない)。
 でもこれがなかなかひどい話だった。系統としては、ケイト・ブランシェット主演の『ブルー・ベルベット』と同じタイプの、観たあとに苦味しか残らないようなコメディ。ウディ・アレン先生、ケイトという女性を不幸にしないといられないトラウマでもあるんでしょうか。
 この映画でケイト・ウィンスレットが演じるジニーは、自らの浮気が原因で最初の結婚に失敗した元女優。離婚後に舞台の仕事も失って、いまは年の離れた太っちょの旦那(演じるのはジョン・ベルーシの弟のジム・ベルーシ)と再婚して、コニー・アイランドのレストランでウエイトとして働きながら、失意の日々を過ごしている。で、過去の失敗にも懲りず、海水浴場でライフガードのバイトをしているイケメン(ジャスティン・ティンバーレイク)と浮気中だったりする。
 そんな夫婦のもとに、マフィアと駆け落ちして絶縁中だった旦那さんの娘のキャロライナ(ジュノ・テンプル)が転がり込んでくる。夫の犯行をFBIに密告したせいで命を狙われているという。
 主人公がこの義理の娘と自分の恋人が親密になってゆくことに嫉妬にかられたことから、ついには不幸な事態を招いてしまうことに……というのがおおよそのあらすじ。
 音楽こそウディ・アレン作品のつねで楽しげだけれど、演技と演出は基本リアリスティックで、全編にわたってぎすぎすとした空気が漂っていて、心温まるところがない。主人公と前夫とのあいだに放火癖の小学生の子供がいて、この子があっちこっちで火をつけまくるって展開は笑えたけれど、でも現実的に考えるとすごく物騒で困った子だよねぇ……。
 そういや、冒頭のコニー・アイランドの映像とか、色合いがぱきっと鮮明で、ハイヴィジョンならではって美しさだった。音響もサラウンドだったし、つねにレトロを追及しつづけるウディ・アレンの作品にしては、ディテールに最新テクノロジーを感じさせたところに珍しさを感じた。その辺はアマゾンの直営スタジオだからだろうか。
 あと、出番は多くないけれど、キャロライナをつけ狙うマフィアの役で、『ザ・ソプラノズ』のポーリーとバカラ役のトニー・シリコとスティーヴ・シリッパがコンビで登場するのが、なにげに見所ではと思います。
 それにしても『タイタニック』でぴちぴちのヒロインを演じていた女の子が、いつの間にかこんなに疲れ切った中年女性を演じるような年齢になっているとは……。月日の流れって早いよねぇ。
(Dec. 28, 2020)

レイニー・デイ・イン・ニューヨーク

ウディ・アレン監督/ティモシー・シャラメ、エル・ファニング、セリーナ・ゴメス/2019年/アメリカ/Netflix

レイニーデイ・イン・ニューヨーク(字幕版)

 2020年最後の一本は、雨の日のニューヨークですれ違う大学生カップルの一日を描いたロマンティック・コメディ。
 『ローマでアモーレ』のエピソードのひとつに、新婚カップルが旅行先でなりゆきから別行動を余儀なくされたあげく、お互いに浮気をしてしまうって話があったけれど、これはあれと同じパターンを、大学生を主人公にしてワンエピソードで描いてみせたような作品。
 『君の名前で僕を呼んで』でブレイクしたティモシー・シャラメ演じる主人公のギャツビーはニューヨークの資産家の息子で、いまは郊外の大学でギャンブルに明け暮れた無為の日々を過ごしているイケメン青年。恋人で学生新聞記者のアシュレー(エル・ファニング)が大好きな映画監督のインタビューのためニューヨークへ行くというので、それじゃあ仕事を済ませたあとでマンハッタンを案内してあげようって話になる。
 ところが、インタビューに出かけたアシュレーは相手の映画監督(ウルヴァリンの兄貴役を演じていたリーヴ・シュレイバー)やら脚本家(ジュード・ロウだって途中まで気がつかなかった)になぜか気に入られて、あちこち連れまわされ、いつまでたっても戻ってこない。ひとりやきもきしながら街を散策していたギャツビーは、昔の恋人の妹チャン(セリーナ・ゴメス)と再会して、いい感じの時間を過ごすことに……。
 映画の撮影後に巻き起こった#MeToo運動によって、かつてウディ・アレンのセクハラ問題にふたたび焦点があたって、配給元のアマゾンが以降の契約を解除したとか、この映画の出演者たちからウディ・アレンが総スカンを食らったとか、いろいろ不幸な成り行きの作品らしいけれど、内容的にはいつも通り安心して楽しめるウディ・アレンの定番って出来の作品。
 ハリウッドにおけるウディ・アレンの評判がどうであれ、映画自体の出来が悪かろうはずがない。
(Dec. 30, 2020)