オール・シングス・マスト・パス
コリン・ハンクス監督/2015年/アメリカ/iTunes Store
アメリカ最大のレコード店チェーンとして音楽産業の一翼を担うほどの巨大企業となりながら、音楽配信の流れに乗れず倒産の憂き目にあってしまったタワーレコードの盛衰をと当時の映像と関係者のインタビューでたどるドキュメンタリー・フィルム。
この映画の主人公というべき創業者のラス・ソロモン(この映画の三年後に他界している)はアメリカ本国では有名人なのかもしれないけれど、日本では知る人ぞ知るという存在だろうし、その他のインタビューの中心となるのは創業当時から会社を支えた役員級の人たちで、要するに一般人。まぁ、中にはブルース・スプリングスティーンやエルトン・ジョン、デイヴ・グロールなどへのインタビューもあるけれど、登場するミュージシャンはたぶんこの三人だけ(エルトン・ジョンはお得意さまで、デイヴ・グロールは元店員だったそうだ)。なのでこのドキュメンタリーは基本とても地味だ。
ソロモン氏が父親からドラッグ・ストアのレコード売り場を買い取って、アメリカ最大のレコード量販店をオープンした創業秘話や、その後の成功にいたる過程の描写などもあっさりとしていて、どれだけすごかったのか、いまいちぴんとこない。
もしかしてこれってあまりおもしろくない?――とか思って観ていたら、まだ前半戦だろうって時間帯――タワーレコードがアメリカで全国展開する前――にいきなり日本進出の話になってびっくり。えっ、タワーの海外一号店って日本だったんだ。
この映画の時系列が現実通りなのかはわからないけれど、少なくてもこの映画の中では渋谷店(宇田川町の映像が懐かしー)のオープンは、ニューヨーク店よりも前ということになっている。その後タワーレコードが全世界に展開するにあたって、足掛かりとなったのが日本だったらしい。
僕はてっきり世界規模のチェーン店が満を持して日本にやってきたのかと思っていたら、事実は真逆で、日本での成功に味をしめてタワーは世界進出に乗り出したというような話だった。おなじみの「No Music, No Life.」というキャッチフレーズも日本で生まれてアメリカに逆輸入されたというから、なおさらびっくりだ。
まぁ、いずれにせよタワーレコードに最大の収益をもたらしたのは日本だったと。それゆえに業績悪化による赤字を補填するために、もっとも高く売れる日本法人を売却せざるを得なくなり、そのまま業績回復を果たせずに本国のタワーは倒産、別法人となった日本のタワーレコードだけがそのあとに残ったというこの皮肉。デイヴ・グロールがインタビューで「なんてこった、日本にはまだタワーレコードがあるよ!」と驚いたと話しているのがほろ苦い失笑を誘う。
映画の最後はラス・ソロモンが日本のタワーレコード本社を訪れ、社員たちに大歓迎を受けるシーンで終わる。兵どもが夢のあと。タワーレコードにさんざんお世話になっている日本人としてはなんとも感慨深いものがあった。
ちなみにタイトルとなっている『All Things Must Pass』は、どこぞの店舗の店員が、その店の最後の日に惜別の意を込めて店頭の垂れ幕にかかげたジョージ・ハリスンの曲のタイトル。最後は当然その曲がかかって涙腺を刺激する。
最初はいまいちかもと思ったけれど、最後まで観たら意外と感動的だった。
――まぁ、それも僕が日本人だからかもしれないけれど。
(Oct. 07, 2021)