2022年1月の映画

Index

  1. ノマドランド
  2. ドリーム

ノマドランド

クロエ・ジャオ監督/フランシス・マクドーマンド、デヴィッド・ストラザーン/2021年/アメリカ/Disney+

ノマドランド (字幕版)

 前年度のアカデミー賞・最優秀作品賞の受賞作――なのだけれども。
 同じくフランシス・マクドーマンドが主演女優賞を獲得した『スリー・ビルボード』と同じようなタイプの作品を期待していたら、まったく違った。違いすぎるくらい違った。こんなにさびしい映画を観たのはいつ以来だろうと思ってしまうような、とことんもの悲しい作品だった。
 映画冒頭の説明によると、ネバダ州エンパイア(なんだその名前)という土地にあった石膏採掘所が閉鎖されたことにより、ほぼその企業の従業員だけで成り立っていたその町は過疎化して、郵便番号さえ廃止になってしまったと。
 フランシス・マクドーマンド演じる主人公のファーンは夫とともにその土地で働いていた女性。工場の閉鎖と前後して夫を病気で失い、住んでいた社宅からも追い出されて、ヴァンでの車上生活を余儀なくされてしまう(――というか、わけあって自ら率先して車での生活を選ぶことになる)。
 定住の地を持たず、短期の期間労働で日当を稼ぎながら、広大なアメリカの大地を現代のノマド(遊牧民)として放浪して過ごすそんな彼女の一年を、この映画はある種ドキュメンタリーに近いタッチで淡々と描いてゆく。
 それもそのはず。なんでもこの映画の原作はノンフィクションで、出演者の大半は実際の人物その人たちなのだそうだ。なるほど。マクドーマンドとデヴィッド・ストラザーン以外は知らない俳優さんしか出てこないと思ったら、なんと俳優ではなかったとは。
 ということで、出演者のほとんどが俳優ではない以上、当然そこには大きなドラマなど期待できない。広大で美しいアメリカの大地を背景に、ひとり車を運転してさまざまな土地を渡り歩いてゆく中年女性の孤独な日々が、地味ながらもくっきりとしたコントラストで浮かび上がる。そんな映画に仕上がっている。
 主人公は孤独な女性だけれど、決して人から嫌われているわけではないというのがポイントだと思う。それどころか彼女は何人かの人たちから一緒に暮らそうと誘われている。なのに彼女は自分に向けられる人々の優しさを受け入れることなく、あえて一人で生きてゆくことを選ぶ。それはなぜかというと……というのがこの映画のポイント。
 なんともさびしい映画だったけれど、あえていうならば、悪人がひとりも出てこないのがいいところだと思った。孤独でさびしい映画だけれど、でもそこには悪意のある人はほとんど出てこない(思いつくのはトイレ掃除中に割り込んできた男くらい)。暴力的な事件も起こらないし、ヌードはあってもセックスはない。あるのはひたすら雄大で美しい風景と、単調な日雇い仕事のリアリティと、ほんの少しの思いやりだけ。
 そういう意味ではいまどき珍しいタイプの映画ではと思う。
 ちなみに、この映画の監督クロエ・ジャオが次に撮ったのがマーベルの新作『エターナルズ』だというので、これがよかったらそちらも観ようと思っていたのだけれど、こんな情感こそ命って映画の次がマーベルの超娯楽作って……。
 あまりの作風のギャップに萎えて、そちらは観なくてもいいかなって思ってしまいました。
(Jan. 15, 2022)

ドリーム

セオドア・メルフィ監督/タラジ・P・ヘンソン、オクタヴィア・スペンサー、ジャネール・モネイ/2019年/アメリカ/Disney+

ドリーム (字幕版)

 舞台はアメリカとソ連が宇宙開発にしのぎを削っていた六十年代。コンピュータが導入される前のNASAには宇宙工学の複雑な計算を行うため、計算係みたいな役職でたくさんの人々が働いていたんだそうで。この映画はそのうちの黒人女性だけの部署に配属されていた三人の女性の話。
 タラジ・P・ヘンソンという人が演じるキャサリンは、幼いころから複雑な数式を使いこなす天賦の才に恵まれた女性。その才能を認められてケヴィン・コスナー演じるNASAの責任者のもとで働き始めるも、いまだ黒人差別や男尊女卑の風潮いちじるしい時代だけに、白人男性だけしかいない職場で苦々しい思いをさせられることになる。
 オクタヴィア・スペンサーが演じるドロシーは管理職の仕事を押しつけられているのに、黒人だということで正式な役職をもらえないでいる計算係チームのまとめ役。先見の明のある彼女はIBMのコンピュータ導入とともに自分たちの仕事がなくなる未来を見越して、独学でプログラマとしてのスキルを見につけることで、自分のみならず仲間たちの未来を救おうとする。
 三人目の女性はエンジニア部門のユダヤ系リーダーからその才能を認められるも、NASAの職務規定に阻まれてエンジニアとして働けないメアリー。
 この人を演じているのがおっとびっくり、ミュージシャンのジャネール・モネイだ。俳優もやってたとは知らなかった。でもってそんな彼女が自然体でとてもいい演技を見せてくれていてなおさらびっくりだった。
 まぁ、考えてみれば彼女の音楽自体が演劇的な演出を多く含んでいるんだから、俳優として活躍してもなんら不思議はないのかもしれない。
 以上の三人がそれぞれ違う形で差別を受けつつそれをいかに克服してアメリカの宇宙開発の歴史に貢献するようになったかをこの映画は描いてゆく。
 NASAみたいな時代の最先端をゆくイメージの研究機関であっても、アメリカの人種差別は深く根づいていて、この映画の大半は不当な扱いを受ける女性たちの姿を描いているので、どうにも嫌な気分にならずにはいられない。当然最終的には報われることになるのだけれど、どっちかというネガティヴな時間のほうが長いのがこの映画のやや残念な点だった。
 配役で個人的に注目だったのが、オクタヴィア・スペンサーを差別的に扱う白人女性管理職の役で出演しているキルスティン・ダンスト。
 サム・ライミ版の『スパイダーマン』でヒロインのMJを演じていた女の子がいまやいじわるな中年女性の役がぴったりになっているとは……。
 時間がすぎるのは早いなぁと思った。
 いやしかし、最近のハリウッドの感動作って実話ものしかないような気が。
(Jan. 30, 2022)