チック、チック…ブーン!
リン=マニュエル・ミランダ監督/アンドリュー・ガーフィールド、アレクサンドラ・シップ/2021年/アメリカ/Netflix
今年もアカデミー賞が近いので、ネトフリで観られる候補作を観ておこうってことで、まずはこの作品から。
ベースとなるのはミュージカル『レント』の作者であるジョナサン・ラーソンという人の出世作で、みずからのデビュー作の失敗という苦い経験を描いた自伝的ミュージカル。そこにスクリーン向けのアレンジをたっぷりと加えたのがこの作品。
主演は二代目スパイダーマンのアンドリュー・ガーフィールドで(ひさしぶりに観た)、彼の恋人役のアレクサンドラ・シップという人は、Xメンの劇場版最新シリーズでストームを演じている女優さんとのこと(気づくわけがない)。つまりスパイダーマンとXメンの主要メンバーがここでは恋人役を演じているわけだ。それも一興。
ミュージカルというとまずは主役の歌唱力って印象があるけれど、この映画のガーフィールドくんは正直そこまで上手くはない。下手とはいわないけれど、少なくても歌手としてデビューできるほどの美声の持ち主とは思えない。
そんな彼が主演だというのが最初は意外だったけれど、でも、もともとが原作者自身による自作・自演の舞台ミュージカルなのだと知って、ああなるほどと思った。歌よりも作詞・作曲がメインの人が主演なのだから、変に上手すぎる人をキャスティングしたらそのほうが不自然だ。そう思って観れば、彼はなかなかの適役だった。いい味だしてました。
タイトルの『チック、チック…ブーン!』は、三十歳になるまでに成功を収めないとと焦る主人公の内面を時限爆弾の音に例えてあらわしたもの。
オリジナルの舞台――エンド・クレジットで映像が紹介されている――はインディー感たっぷりな小規模なものだったらしく、登場人物は主人公のジョナサンと恋人のスーザン、親友のマイケルの三人しかいないようだけれど、映画版はその他のキャストもたくさんいて、ジョナサンのデビュー作『スーパービア』にまつわるシーンもたくさんあるし、さすがハリウッドって仕上がりになっている。
ミニマムな原作を見事にふくらました、とてもいい映画だとは思うし、僕は好きだけれど、オスカーの最優秀作品賞にふさわしいかと問われると、残念ながらそこまでの傑作ではないかな……と思ったら、僕の勘違い。ノミネートは主演男優賞と編集賞だけだった。至極納得。
(Feb. 26, 2022)