2022年6月の映画

Index

  1. 007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
  2. ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅
  3. シン・ウルトラマン

007/ノー・タイム・トゥ・ダイ

キャリー・ジョージ・フクナガ監督/ダニエル・クレイグ、ラミ・マレック、レア・セドゥ/2021年/イギリス、アメリカ/Amazon Prime

007/ノー・タイム・トゥ・ダイ(字幕版)

 ダニエル・クレイグ主演でリブートした007シリーズの完結編。
 007シリーズに完結なんてあるのかよって話だけれど、ダニエル・クレイグを主演にした今回のシリーズはこの作品で疑いの余地なく完結しているので、それまでのシリーズとは一線を画した五部作ということでいいのだと思う。
 とにかく、今回のシリーズはすべてが前作の内容を踏まえた連作となっているのが最大の特徴であり、僕みたいなもの忘れのひどい人間にとっては最大の弱点だ。五作目にしてなお『カジノロワイヤル』でエヴァ・グリーンが演じたヴェスパーの名前が出てくるんだからびっくりだよ(毎回「ヴェスパーって誰だっけ?」って思っていた気がする)。ボンドガールだって、今回のメインは前作につづいてレア・セドゥだし。
 アナ・デ・アルマスという女優さんが演じるセクシーで初々しい新人スパイが序盤で登場するから、この子が今回メインのボンドガールだとばっか思っていたら、彼女の出番はそのアクションシーンだけだったのにもびっくりだった(彼女の活躍がもっと見たかったぜ)。
 この映画ではボンドはすでに引退していて、007のコードネームは別の黒人女性に与えられている。演じているのはラシャーナ・リンチという人で、どうやらこの人も一応ボンドガールという扱いになるらしい。どこかで「史上初の女性007」みたいな宣伝文句を見た気がするけれど、ジェームズ・ボンド以外の脇役が007を名乗ってもなぁ。
 物語はDNAを判別して特定の人だけに効く殺人ウィルス――スペクターが開発してイギリスが回収した。ウィルスではなくではなくナノマシンというらしい。つまり人工のウィルス――を、ラミ・マレック演じるテロリストに盗まれて、世界各国の要人が暗殺されるかもって騒動になるというもの。終盤にボンドのプライベートに絡んだなにそれってサプライズとかもあって、物語としてはそれなりにおもしろかった。
 そういやダニー・ボイルが監督するとかもという話は結局うわさに終わり、監督はキャリー・ジョージ・フクナガという人が務めている。名前のとおり日系人らしいけれど、日系何世という遠い話のようで、写真をみたら、ちっとも日本人ぽくないイケメン監督だった。
 いやしかし、この五部作は007の誕生から始まって、ボンドに本気の恋をさせたり、少年時代を回想させたり、酒浸りにさせたり、ついにこの映画では****にさせたりと、ジェームズ・ボンドの人となりをこれまでになくつっこんで描いてみせている。そこをどう思うかが評価の分かれ目では?――という気がする。
 ショーン・コネリーの演じた飄々とした女ったらしの初代ジェームズ・ボンドこそ007とするならば、まったくの別人といってもいいくらいなので、シリーズのガチなファンがどう思ったのか、ちょっと聞いてみたい。
(Jun. 07, 2022)

ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅

デヴィッド・イェーツ監督/エディ・レッドメイン、キャサリン・ウォーターストン/2016年/イギリス、アメリカ/Amazon Prime Video

ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅(字幕版)

 ホグワーツで教科書として使われている本を書いた動物学者のニュート・スキャマンダー(要するに魔法界のシートン?)を主人公にしたハリー・ポッターの前日譚的スピン・オフ・シリーズの第一弾。
 監督がハリー・ポッター・シリーズの後半の四本を手がけたデヴィッド・イェーツだから、似たような映画なのだろうと思ったら、印象はけっこう違う。
 少年少女が主人公の学園ものだったハリー・ポッターに対して、こちらは大人が主人公だし、舞台もアメリカの人間界。なにかを手に入れるためにアメリカにやってきた主人公のニュート(エディ・レッドメイン)が、四次元ポケットみたいな鞄に忍ばせてその国にこっそりとつれてきた動物たちとその土地で暗躍していた悪い魔法使いのせいで騒動が巻き起こるというような話。
 導入部とか説明不足で、いまいち話の背景がわからないところもあったけれど、物語の進み方自体はまっすぐだし、基本的にはマンガっぽい話なので、わからないところはわからないままで流しても、さほど困らなかった。
 「ファンタスティック・ビースト」というタイトル通り、エキセントリックな動物があれこれ出てくるのもセールス・ポイントなんだろうけれど、どれも普通の動物にちょこっと手を加えたくらいの印象で、それほど特別な感じはしない。まぁ、ちっちゃな子たちは喜ぶのかもしれない。
 そういう意味では、主人公こそ大人だけれど、これもハリー・ポッターと同じくこどもをターゲットにしたファンタジー映画なんだろう。
 これを最後につづきを観なくても後悔はしないと思うけれど、パン屋のジェイコブ(ダン・フォグラー)とニュートとの関係がこの先どうなるのかはちょっとだけ気になるので、きっと観ちゃうんだろうなと思う。これより先に観るべきものはほかにいくらでもあるんだけれど。このところ精神的にちょっとばかり疲れているので、ついお手軽な映画になびいてしまう。
 あ、でも最後にコリン・ファレルが*******になったのにはちょっと驚いた。そんなキャスティングあり?――と思いました。
(Jun. 15, 2022)

シン・ウルトラマン

樋口真嗣・監督/斎藤工、長澤まさみ、西島秀俊/2022年/日本/ユナイテッド・シネマとしまえん

 平日の昼間に三時間ばかりマンションが断水するというので、昼飯時にキッチンもトイレも使えないのは困るから、その日は仕事を休んで外出しよう――では映画でも観ようかってことで、話題の『シン・ウルトラマン』を観てきた。
 いつもの映画館へ行って、いつもの50歳割で安く観られるつもりでいたら、知らないうちにその割引が廃止されていてがっくり。仕方なく定価で観た(千九百円もするのか!)。定価で映画を観るのっていつ以来やら。
 でもひさびさに定価を払って観た映画がこれってのがちょっと無念だ。どちらかというと『犬王』や『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』とかのほうが興味があったのに、ちょうどいい時間にやっているのがこれだけだったんだよなぁ……。
 この映画、とりあえず序盤はとてもいい。次々と謎の怪獣(この映画では「禍威獣」)が襲ってきて、それを退治してという政府の攻防を駆け足で紹介する冒頭部分は好きだ。『シン・ゴジラ』をたくさんの怪獣でスケールアップしたダイジェスト版みたいな楽しさがある。
 怪獣の存在がそのまま使徒とかぶるので、ウルトラマンと怪獣のバトル・シーンも含め、まるでエヴァを実写版として観ているようでおもしろかった。特撮オタクだという庵野秀明の面目躍如的な。なるほど、これをアニメにするとまんまエヴァンゲリヲンになるわけだって思った。
 ただ後半になって宇宙人が出てきてからは――あぁ、そうだった、ウルトラマンの敵は怪獣だけじゃなかったんだって思った――怪獣の出番がなくなり、理屈っぽい宇宙人が話の中心となって、途端に展開がたるくなる。
 山本耕史が演じるメフィラス星人のキャラクターはそれなりにおもしろかったけれど――劇場特典で彼の名刺が配られるくらいなので、この映画いちの重要キャラなんでしょう――でも後半で印象的だったのはそれくらい。
 クライマックスを飾るゼットンの造形もエヴァ新劇場版の宇宙船の派生形みたいだったし――それを実写版でやったことには価値があるのかもしれないけれど、とはいえ――観たかったのはコレジャナイ感が否めない。
 やっぱ宇宙人がやってきて地球人のせん滅をはかるというスケールの大きさが制作者側の手に余ったんじゃなかろうか。いかにして人類を救うかを頭を凝らしてあれこれ考えたあげく、物語が抽象的でつまらなくなってしまったという点でもエヴァに通じるところのある映画だと思った。
 そういう意味では、上映前に予告編が流れた来年公開の『シン・仮面ライダー』のほうが――地球規模の厄災が起こらなさそうなぶん――期待できそうな気がする。
 まぁ、その予告編でいちばん印象的だったのは、仮面ライダーでも怪人でもなく、浜辺美波だったけど。
(Jun. 18, 2022)