2022年11月の映画

Index

  1. マトリックス リザレクションズ
  2. プロミシング・ヤング・ウーマン
  3. マンチェスター・バイ・ザ・シー

マトリックス リザレクションズ

ラナ・ウォシャウスキー監督/キアヌ・リーヴス、キャリー=アン・モス/2021年/Netflix

マトリックス レザレクションズ(字幕版)

 前作から十八年ぶりに登場した『マトリックス』のシリーズ第四弾。
 三部作として(よかれあしかれ)きっちりと完結してたシリーズなのに、なにゆえいまさら続編を作ろうと思ったのかわからないし、評判もいまいちなので、失礼ながら観る前からまったく期待していなかった。
 予告編を観るかぎり、ネオとトリニティーが普通に活躍しているっぽいけれど、そもそもあのふたりって『レヴォリューション』で死んでなかったっけ?
 ――あ、だからタイトルが「リザレクションズ」=「復活」なのか。
 ジーザス・クライストに倣うならば、救世主は復活してこその救世主ってこと?
 なるほど。ならばこの第四作も蛇足ではないかもって気がしてくる。
 実際に出来もそんなに悪くない――というか、個人的には思っていたよりもぜんぜんよかった。あまりに期待値が低すぎたせいで、予想外に楽しめてしまった。
 オープニングも気が効いている。第一作でのトリニティーの初登場シーンをそのままなぞり、それを今作のキーパーソンとなる男女ふたりが覗き見しているというシチュエーション。その後のネオの初登場シーンにおける旧三部作のひねりのある扱いといい、どちらも仮想現実というテーマを生かした脚本がよい。
 三部作から引きつづき主演を演じるキアヌ・リーヴスとキャリー=アン・モスは二十年近い年月の流れをさほど感じさせないし、ローレンス・フィッシュバーンからヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世という人にキャスティング変更されたモーフィアスも、ヴァーチャルな存在になっているからとくに違和感なし。
 まぁ、なぜネオたちが復活したかという部分にはいまいち説得力がないし、最後の「愛が世界を救う」みたいな展開にもびっくりしたけれど――二十四時間テレビか――でも、最初から蛇足感たっぷりの続編だから、前三部作の悲劇的な結末へのアンチテーゼ的な意味合いでは、僕はこのハッピーエンドも、これはこれでありだと思った。
 そういや、クライマックスのカーチェイスのシーンで、つぎつぎと人々が身を投げる展開も、仮想現実って設定だからこそ可能な強烈なインパクトがあった。まぁ、むちゃくちゃ悪趣味な気もするけれど。
 なんにしろ、過剰なメカ・バトル中心になってしまった二作目、三作目よりも、ふつうに人どうしの格闘シーンこそ見せ場というこの作品のほうが単純に僕は好きだった。
 そういや監督のウォシャウスキー兄弟がいつのまにか性転換手術をはたしていて、今作は兄――もとい姉のラナの個人名義になっているのにもびっくりだよ。
(Nov. 12, 2022)

プロミシング・ヤング・ウーマン

エメラルド・フェネル監督/キャリー・マリガン、ボー・バーナム/2020年/アメリカ/WOWOW録画

プロミシング・ヤング・ウーマン (字幕版)

 小説にしろ映画にしろ、なるべく事前情報なしで鑑賞すべきだと思っているせいで、年がら年じゅう勘違いばかりしている。この映画も勝手にある種の文芸作品だと思い込んでいたら、予想外のサスペンス・スリラーでびっくりだった。
 バーで泥酔して男性にお持ち帰りされた主人公の女性が、じつは酔ったふりをしてゲス野郎どもに天誅を下しつづけてきたサイコ・ガールだったと。この映画はそういう、なかなかえげつない始まり方をする。
 ただ、この映画が上手いのは、彼女がなにをしたかを描かない点。
 彼女は罠にはめた男性たちになにかひどいことをしているっぽいんだけれど、それがどういうレベルの行為なのかは明示されない。彼女が女性を食いものにする男性一般に激しい憎悪を抱いていることは示されるものの、その理由もなかなかあかされない。
 その後、彼女はみずからの不幸の元凶を作った男が婚約したことを知って、その男性を含む事件の関係者への復讐に乗り出すのだけれど、その過程でも最終的に誰がどうなったかははっきりしない(最後のひとりを除いて)。
 彼女の悪行の結果をあえて描かない――それゆえ彼女が本当に犯罪まがいのことをしているかどうかもさだかじゃない――がゆえの曖昧模糊とした不安定感こそがこの映画の肝だと思う。
 かつて医学生だった――つまり『プロミシング・ヤング・ウーマン』=「将来有望な若い女性」だった――にもかかわらず、ある不幸な理由で大学を中退して、いまはカフェの店員をしながら、夜ごと男性を罠にかけている。そんな彼女が抱えた心の闇とは――。
 そして大学時代の同級生との再会から始まった彼女の恋の行方は――。
 ――とか書くとまったく違う映画みたいだな。
 いやいや、クライマックスのどんでん返しがすごいです。そうくるとは思わなかった。とんでもねぇ。
 まったく違うタイプの映画だけれど、カラフルな色使いと明るい絵作りで作品を彩りながら、見えないところに狂気を隠し持っている感覚には、なんとなく『ミッドサマー』に通じるところがあると思った。
(Nov. 14, 2022)

マンチェスター・バイ・ザ・シー

ケネス・ロナーガン監督/ケイシー・アフレック、ミシェル・ウィリアムズ/2016年/アメリカ/WOWOW録画

マンチェスター・バイ・ザ・シー (字幕版)

 タイトルからイギリスが舞台の映画だと思い込んでいたら違った。
 ここでのマンチェスターはアメリカのマサチューセッツ州にある街の名前。「マンチェスター・バイ・ザ・シー」という映画のタイトルそのままが街の名前なのだそうだ。
 アメリカにはマンチェスターという街がほかにもあるので――ウィキペディアで確認したら、あきれるくらいたくさんあった――区別する意味で「バイ・ザ・シー」がついたらしい。なるほど。イギリスのマンチェスターも内陸だから「海の近く」ではないのか。地理に疎いので、まったく気がついてなかった。
 ということでこの映画の舞台はアメリカ。マサチューセッツ州のボストンで便利屋をして働いている主人公のリー――演じるケイシー・アフレックはベン・アフレックの弟さんだそうだ――が兄の訃報を受けて、生まれ故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーに戻るところから始まる。
 正確にいうと、最初のシーンは彼ら兄弟が幼い甥とともに船に乗って楽しそうに過ごしているところで、訃報はそのあとリーの冴えない日常をしばらく描いたあとで届くのだけれど、最初に小さな子供の姿を観せらている僕らは、兄がその幼い息子を残して死んだのだと思い込む。
 ところが実際にはそうではなかった。船での思い出は過去のシーンのカットバックであり、すでに兄の息子パトリック(ルーカス・ヘッジズ)は高校生になっている。
 この映画はそうやって、愛する兄を失って悲しむリーの現在を描きつつ、絶えず過去のシーンをカットバックで差し込みながら進んでゆく。そしてなぜリーが故郷を離れてボストンへ引っ越したのか、どうしてミシェル・ウィリアムズ演じる元妻と別れることになったのかを、彼の悲劇的な過去をゆっくりとあきらかにしてゆく。
 過去の悲劇により心に深い傷を負った主人公が、兄の残したひとり息子――恋人がふたりいたりして、ちょっとばかり問題あり――との同居をへて、心の傷を癒すまでを描く感動作かと思いきや――。
 最終的にそんなに簡単な結末に収まらないところがこの映画のリアルなところだ。あまり感動的とはいいがたい結論だけれど、それだけに非常に現実的で納得がゆく終わり方だった。
 WOWOWの『W座からの招待状』でナビゲーターをつとめる小山薫堂が指摘していたけれど、この映画のエンディングにはいまどきの多くの作品であたりまえになっているポップ・ソングのエンディング・テーマが流れない。劇中で使われていた映画音楽を流しながら、マンチェスター・バイ・ザ・シーという街の風景を淡々と映してゆくだけ。
 そのゆるやかな余韻がとても映画の内容にマッチしていた。
(Nov. 27, 2022)