2022年12月の映画

Index

  1. すずめの戸締まり
  2. THE BATMAN -ザ・バットマン-

すずめの戸締まり

新海誠・監督/声・原菜乃華、松村北斗/2022年/日本/ユナイテッド・シネマとしまえん

 RADWIMPSが音楽を手がけているがために映画館で観た新海誠の監督作品その三。
 地上波や配信で無料公開されている冒頭十二分だかの映像を観たときから思っていたことだけれど、今回の作品は展開がど派手だ。『君の名は。』や『天気の子』はゆっくりと始まって後半に向かって盛り上がってゆく感じだったけれど、今回はその冒頭部分であっという間に最初の山場が訪れ、その後も何度となく見せ場がある。新海誠に詳しくないので断定はできないけれど、彼の作品ではもっともファンタジー色が強くてドラマティックな作品なのではないでしょうか。
 なにより『すずめの戸締まり』というタイトルが素晴らしい。日本各地に地震の原因となる――あの世へつながる?――扉があるという設定で、それを封じる役割を持った青年と出逢った主人公の女の子がなし崩し的にその仕事を手伝うことになる。そのコンセプトを込めたこのタイトルの着想を僕は最高だと思う。
 ただし、主人公が日本の各地をまわるという噂だったから、「閉じ師」とやらにスカウトされて修行の旅に出たりするのかと思っていたら、そんな設定はまったくなし。そこのところはちょっとどうかと思った。主人公のすずめチャンは一匹の猫を追って、魔法で椅子にされたハンサム青年とともに、まるでとなり町を訪れるような気楽さで、いきあたりばったりに日本列島を北上してゆく。そんな女子高生いねぇよって思わずにはいられない。
 そんな風にご都合主義まるだしの展開にはいまいち感心できないのだけれど、それでも確実にこちらの心を揺さぶってくるのが新海作品の真骨頂。
 九州から始まった物語は、四国、関西と舞台を替えながら北上していって、東京で最大のカタストロフを迎える。でもって、そのあとにクライマックスでさらに北へ――。僕らをあの大震災の地へといざなう。
 前の二作でもある程度まで災害をテーマに据えてはいたけれど、今作でまさかここまで直接的に東北大震災を扱ってみせるとは思わなかった。日本人だったらこんなもん、涙なしに観られるわけがないじゃん。反則ではなかろうか。
(Dec. 26, 2022)

THE BATMAN -ザ・バットマン-

マット・リーヴス監督/ロバート・パティンソン、ゾーイ・クラヴィッツ/2022年/アメリカ/Netflix

THE BATMAN-ザ・バットマン-(字幕版)

 DCコミックスがリブートした新バットマン・シリーズの第一弾。
 この映画は暗い! 物語も暗いけれど、とにかく映像が暗い。明るい午後にこの映画を観始めたら、画面の黒い部分に光が反射してしまって、なにがなんだかわからなかったので、仕方なくカーテンを閉め切ってつづきを観ることになった。
 でもって話も暗い。過去のバットマン・シリーズには軽妙で笑えるところがあったけれど、この作品はほぼゼロ。主人公のバットマンことブルース・ウェインを演じるロバート・パティンソンは一度たりとも笑顔を見せないんじゃなかろうか。
 敵にもコミカルなコスプレ怪人はひとりもいない。リドラーもペンギンも基本ふつうの人。キャットウーマンもボディースーツ姿で覆面こそすれ、みずからキャットウーマンと名乗ったりしない。そしてシーンはほとんどが夜。
 ということで、新しいバットマンは漆黒の闇を背景に、かつてないシリアスさでゴッサムシティを突き進む。しかも上映時間はほぼ三時間。長っ!
 こんな暗くて長いヒーロー映画、よくも撮ろうと思ったもんだ。
 でもそこにはご都合主義満載でド派手なエンタメ路線をつきすすむ昨今のマーベル作品に対する明確なアンチ・テーゼがあるように思う。マーベルにうんざりして離脱した僕はそこにそこはかとない共感を覚えた。
 この映画は決して傑作とはいえないかもしれないけれど、そのダークな世界観にはこれまでとは違うヒーロー映画を作ろうという熱意が感じられる。アメコミ・ヒーローのキャラクター設定だけを踏襲して、普遍的なクライム・ムービーを撮ろうとした趣がある。そこがとてもよいと思った。
 キャスティングは、ゴードン警部がジェフリー・ライト、リドラー役が『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のポール・ダノで、ペンギンはコリン・ファレルだそうだけど、ぜんぜんわからなかった。キャットウーマンのゾーイ・クラヴィッツはレニー・クラヴィッツの娘さんだそうです(スタイル抜群)。でもってギャングのファルコーネはジョン・タトゥーロ。みなさん素晴らしい。
(Dec. 29, 2022)