2023年1月の映画

Index

  1. THE FIRST SLAM DUNK
  2. エミリー、パリへ行く シーズン3

THE FIRST SLAM DUNK

井上雄彦・監督/声:仲村宗悟、木村昴/2022年/日本/ユナイテッド・シネマとしまえん

 昨年末の最後に観た映画。
 本当は劇場で観るつもりはなかったんだけれど、評判のよさに釣られたうちの奥さんが観たいというので、ならばと仕事納めの日に(たまたま映画が安い水曜日だったので)仕事を終えたあとで映画館へ足を運んだ
 この映画の最大のポイントは、原作者である漫画家の井上雄彦が自ら監督を務めているという点だ。
 宮崎駿とか安彦良和とか、もともとアニメ関係者でマンガも描いていた人が映画監督を務めたケースは過去にもあるけれど、それまでアニメにノータッチだった漫画家が映画監督を務めるというケースは前代未聞ではと思う。
 しかもその人がいまでも紙で原稿を描くことにこだわっていそうな職人気質の漫画家なのに、映画自体はCGだという。いったいどんな作品に仕上がっているのか、週刊少年ジャンプで連載が始まったときから原作を読んでいたマンガ好きの一読者としては気になるのが道理。
 そしたらなるほどなーって出来だった。
 この映画がやっていることはふたつ。
 ひとつは原作で湘北高校にとってもっとも重要な試合を、映画の二時間枠の中でできるかぎりリアルに描くこと。
 もうひとつは原作では(主役級ではあるけれど)主役ではない「彼」の、その試合に至るまで家族史を新しいエピソードとして描くこと。――このふたつ。
 タイトルの「THE FIRST」という言葉に込められているのは、原作にはないその新エピソードが追加してあることに加えて、映像表現が過去のテレビアニメ版とはまったくの別次元であることに対する作者のメッセージなんだろう。こんなスラムダンク、観たことないでしょう?――という。
 マジ、この映画で初めて『SLAM DUNK』を観た人が、おもしろかったからと過去のテレビアニメも観たらびっくりすると思う。あまりに作画・動画の表現レベルが違いすぎて。正直とても同じ作品とは思えない。
 僕はたまたまこの映画のあとで『SLAM DUNK』のテレビ版がABEMAで放送されているのを観て、その回の桜木花道がほとんど三頭身だったのにびっくり(がっかり)してしまった。いくら花道の活躍が少ない回だったからって、主人公がこれって……。
 九十年代以降のマンガ原作のアニメによくあるパターンだけれど、マンガでのコミカルな手抜き表現――目が点になったり、キャラが三頭身になったり――をアニメでそのまま再現するのは、僕は基本的に禁じ手だと思っている。動画として作る以上、アニメにはマンガとは違った手法で――動きの連続のなかで――すべてを表現して欲しい。そういうアニメを僕は観たい。
 『SLAM DUNK』のテレビ版は、マンガの表現をなにも考えずに再現する日本アニメの悪しき風習をそのまま引きずってしまっている――というか、制作されたのがまさにそういう手法の先駆けという時期だったのかもしれない。
 原作者の井上雄彦にとっても、そんなテレビ版の出来が満足のゆくものではなかったのは想像にかたくない。実際にどこぞのインタビューで彼は、この劇場版にコミカルなシーンが少ない理由について「マンガだと小さな一コマで表現できる笑いもスクリーンの大画面では……」みたいなことを語っていたし。最初にそのコメントを読んだときには特になんとも思わなかったけれど、その後に劇場版とテレビ版を比べて観てすごく腑に落ちた。
 なまじ作画へのこだわりが強い人だからこそ、彼は自らの代表作を再度アニメ化するにあたり、そういう手癖がついてしまっている既存のアニメ監督には仕事を任せる気になれなかったんだろうなぁって。この映画を観てつくづくそう思った。
 まぁ、主題歌のシーンやエンディングをペン画の手描きアニメで表現したあたりに漫画家としてのエゴが滲みだしてしまっているように思うし、単行本数冊分+新エピソードを二時間の映画にまとめたことで、原作を知らない人には意味不明なシーンが少なからずある気はする。テレビ版とは声優を替えたことで炎上したけれど、テレビ版を観ていない僕でも確かにイメージが違うかなぁと思ったキャラがいなくもなかった。
 それでもこの映画のアニメーションとしての完成度はすごいと思う。映像だけでなく音響もよくて、ドリブルでボールが床を弾む音とかすごい臨場感だし、ドライ過ぎるかと思ったThe Birthdayの主題歌とかも予想外にはまっている。
 原作そのまんまの絵をモーションキャプチャのCGで動かして、バスケットボールの試合を一本まるまる映画化してみせたこの映画には、まるで実際に体育館で試合を観戦しているかのような臨場感がある。マンガとは異なる、動画だからこそのよさがある。
 とくに試合終了間際のラスト三十秒――。
 原作が好きならば、あのカウントダウンを味わうためだけでもこの映画は観る価値があると思います。
(Jan. 09, 2023)

エミリー、パリへ行く シーズン3

アンドリュー・フレミング監督・他/リリー・コリンズ/2022年/Netflix(全10話)

 新型コロナの後遺症なのか、はたまた単なる寄る年波の経年劣化か。
 この年末年始はまったくやる気がなくて、一週間の正月休みに自宅で観たのはこのドラマ(一シーズン分)だけだった。
 これを観たのも好きだからというより、難しいことを考えず、ただひたすら気楽に観られる作品がよかったから。一話三十分足らずで全十話だから、全部観てもだいたい四時間。長い映画と違って話の切れ目で気楽に休めるし、長すぎず短すぎず、ちょうどいいボリュームだった。
 さて、前シーズンの最終話で大きな人生の岐路に立たされたエミリーがどのような選択をするのか――というのが今回の要注目点だったわけだけれども、まぁその結果はおのずからあきらか。それでも序盤の数話で描かれたその顛末はいささか意外だった。結局なんも変わってないじゃん!――という意味で。
 いやもとい。エミリーの髪形は変わった。開始早々なぜだか知らないけれど突然鏡に向かって髪を切って、ちょっとだけイメチェンした。前髪を作ったことで印象的だった濃い眉の印象が薄れたせいか、可愛さが倍増した気がする。なんとなくオードリー・ペップバーンっぽくなった。
 物語は前回からつづくエミリーとガブリエル、カミーユ、アルフィーの四角関係に加え、今回はエミリーの同居人ミンディー(アシュリー・パーク)や上司のシルヴィーの恋愛関係もけっこう時間を割いて描いている。
 おかげで、こと恋愛に関しては今回は主役がいちばんおとなしめ?――と思っていたら、最後にいきなり思わぬ爆弾が。おいおい、そりゃないのでは。
 でもとりあえず次のシーズンで完結しそうな感じにはなってきた。次ですっきりきれいに終わってくれると嬉しい。
(Jan. 22, 2023)