2025年2月の映画

Index

  1. オッペンハイマー
  2. ボブ・マーリー:ONE LOVE

オッペンハイマー

クリストファー・ノーラン監督/キリアン・マーフィー、マット・デイモン、ロバート・ダウニー・ジュニア/2023年/アメリカ

オッペンハイマー

 原爆の発明者ロバート・オッペンハイマーの半生を描いたことで、日本では公開が半年以上遅れた話題作。
 クリストファー・ノーランほどの人気監督の作品が未公開のままで終わるわけがないのだから、いずれは公開せざるを得ないのはわかりきったことだ。話題になっているからこそ、さっさと公開してその是非を問えばいいのに。延期にするなんて馬鹿じゃないのと思った。
 いざ観てみると、原爆投下によるアメリカの勝利に熱狂する人たちが描かれていたりはするけれど、キリアン・マーフィー演じる主人公のオッペンハイマーは決して肯定的な態度を取っていない。むしろ自らの発明が多くの人たちの命を奪ったことに苦悩の表情を見せている。この映画の公開を遅らせた人たちはなにを見ていたんだろう。
 ただ、登場人物が多くて、それも科学者、政治家、軍人と、似たような堅苦しい肩書を持った人たちばかりなので、その辺の実話の知識が皆無なものとしては、とにかく話がわかりにくかった。
 映像のシャープさやフラッシュバックを多用した演出など、表現面ではこれまでのノーラン作品と同じテイストなのだけれど、過去の作品が難解ながらもギリでエンタメ性を失っていなかったのに対して、この映画は原爆という深刻なテーマのせいもあって、エンタメとは呼びにくい仕上がりになっている。
 ロバート・ダウニー・ジュニア(名演!)にせよ、マット・デイモンにせよ、年を取ったせいもあってこれまでとイメージが違うので、途中までその人と気がつかなかったりしたし、そのせいでキャスティングの豪華さもいまいちアピール度が低い。
 ということで、現時点ではこれまでで、もっとも取っつきにくいノーラン作品だった。まぁ、二度、三度と観なおせば、また印象が変わるのかもしれない。
(Feb. 1, 2025)

ボブ・マーリー:ONE LOVE

レイナルド・マーカス・グリーン監督/キングズリー・ベン=アディル、ラシャ―ナ・リンチ/2024年/アメリカ/Apple TV

ボブ・マーリー ONE LOVE

 僕はボブ・マーリーの大ファンというわけではないから、かの人の来歴についてはほとんど知らないこともあり、この伝記映画の序盤の展開には驚いた。
 だって自宅に侵入してきた暴漢に、ボブ・マーリー(キングズリー・ベン=アディル)と妻のリタ(ラシャ―ナ・リンチ)、そしてマネージャーのドン(アンソニー・ウェルシュ)の三人が撃たれちゃうんだよ?
 いきなりボブ・マーレ―が殺される衝撃シーンから始まり、過去にさかのぼるという演出なのかと思ったら違った。事件は殺人未遂に終わり、マーリーは軽傷、重傷を負ったリタとドンも助かるという展開。
 そもそもリタ・マーリーはいまだご存命じゃんね? さすがにそれは知っていたので、なんだこの展開と驚いた。だってあのシーンを見るかぎり、この三人が助かるとはとても思えなかったから。そういう意味では、やや演出過多な気がした。
 冒頭にいきなりそんな事件があったりするので、当時(僕が小学生のころ)のジャマイカは物騒だったんだなぁと思って観ていたら、そのあとのロンドンのシーンでもクラッシュもどきが演奏しているライブハウスの外はスラム状態で、「あぁ、当時の日本って本当に平和だったんだなぁ」と思ったという。
 この映画は、すでにボブ・マーリーが有名になり、ジギーほか何人もの子供もいる時期から始まり、ときおり過去の回想シーンを交えながら、彼の音楽シーンでの活躍を描いてゆく。
 ジャマイカが主な舞台で、登場人物はほとんどが黒人だから――主要キャラで唯一の白人であるクリス(演じているのはジェームズ・ノートンという人)はアイルランド・レコードの創業者だそうだ――マーリー以外の登場人物の見分けがつきにくく、そこにランダムに回想シーンがインサートされるから、なおさらわかりにくくなっている。
 何度もリピートされる、子供時代のマーリーが焼け野原からひとり駆け出してくるシーンも、それが現実なのか幻想なのかわからなかったし、時系列を乱した演出があだとなり、ボブ・マーリーを知らない人にとってはいまいち不親切な映画になってしまっている気がした。
 それでも使われている音楽は基本的にボブ・マーリーのオリジナルだし、ジャマイカの美しい風景や、いきいきとしたライブの再現シーンをバックに、彼が残した数々のレゲエの名曲をたっぷりと聴けるのは新鮮な経験だった。
 少なくても音楽シーンは『ボヘミアン・ラプソディ』や『ロケットマン』や『エルヴィス』よりも好みだった。まぁ、単なる個人的嗜好の問題として。
(Feb. 13, 2025)