Coishikawa Scraps / Movies

2025年4月の映画

Index

  1. エイジ・オブ・イノセンス
  2. ニール・ヤング/ジャーニーズ

エイジ・オブ・イノセンス

マーティン・スコセッシ監督/ダニエル・デイ=ルイス、ミシェル・ファイファー、ウィノナ・ライダー/1993年/アメリカ/DVD

エイジ・オブ・イノセンス [DVD]

 原作を読んだので、せっかくだから映画版も観てみた。

 うちの奥さんが若い頃にミシェル・ファイファーが好きで、ウィノナ・ライダーは僕ら世代の男どもにとっては特別な存在だったので、そのふたりが共演したこの映画は公開当時に映画館で観ているはずなのだけれど、記憶がさだかでない。少なくてもあまりいい印象は残っていないし、今回三十年ぶりとかで観直してみても、とくべつ好きになったりはしなかった。

 でもまぁ、それも当然かなと思う。基本的に僕はフォーマルなものが苦手だし、時代劇や歴史劇にも興味が薄いので。

 十九世紀のニューヨークの上級階級の社交界を舞台にしたこの恋愛劇は、ファッションはフォーマルウェア・オンリーで、登場人物の行動原理もその時代の因習に縛られているがゆえ、いまいち共感を呼ばない。

 同じく十九世紀が舞台でも、『プライドと偏見』などジェイン・オースティン作品の場合は主人公の明るさやコメディ要素で楽しく観られるのだけれど、この映画の場合はユーモアはゼロの不倫劇だから、なおさらとっつきにくい。

 原作を読んだばかりだから、それとの対比でけっこう興味深くは観られたけれど、これを映画単品で観た二十代の自分は、そりゃ楽しめなかったのも当然だなと思った。

 なぜ『タクシードライバー』のマーティン・スコセッシがこういう映画を撮ろうと思ったんだろう? と当時は疑問に思っていたような気がするけれど、今回はそういう疑問はなかった。

 その後に観た『救命士』や『ギャング・オブ・ニューヨーク』、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』など、スコセッシはニューヨークの裏表に生きるさまざまな人々の姿を描くことをある種のライフワークにしている節がある。

 十九世紀のニューヨークの社交界を描いたこの映画は、スコセッシにとっては彼のニューヨーク・サーガの一環として撮るべくして撮った映画だったんだろうなと。

 いまさらながらそう思った。

(Apr. 09, 2025)

ニール・ヤング/ジャーニーズ

ジョナサン・デミ監督/ニール・ヤング/2011年/アメリカ/Apple TV

ニール・ヤング / ジャーニーズ

 『羊たちの沈黙』のジョナサン・デミが監督したニール・ヤングのツアー・ドキュメンタリー・フィルム。

 ジョナサン・デミが撮ったニール・ヤングのフィルムは三本あるそうで、これはそのうちの三本目。一本目の『ハート・オブ・ゴールド/孤独の旅路』を観ていないのに、Apple TVでディスカウントで売っていたもんで、そちらを飛ばしてこれを先に観てしまった。ちなみに二本目の『Trunk Show』は日本では未公開の模様。

 この作品はニール・ヤングが自らハンドルを握ってアメ車を転がし、子供のころに住んでいた故郷の町を通過して、当時の思い出を語りながら、ライブの行われるトロントまでドライブする風景を映し出して始まる。

 会場はのちに1971年の音源がアーカイヴ・シリーズでリリースされたマッセイ・ホール。そのライブから40年近くたって同じステージに現役で立っている。

 時期的には『Le Noise』が新譜としてリリースされたあとのツアーなので、ライブはソロでの弾き語りだ。

 ニール・ヤングの弾き語りのライヴ映像作品は以前にも観た記憶があるけれど(『シルバー・アンド・ゴールド』でしたっけ)、今回の作品はツアー・ドキュメンタリーであり、なおかつ有名な映画監督が手掛けていることもあり、単にライヴを撮っただけでは終わらない。

 デモを行った大学生が鎮圧しようとした警察隊による武力行使で射殺されたという痛ましい事件をテーマにした『オハイオ』(そういう歌だったのか……)では、犠牲になった四人の学生のポートレート写真をかかげて追悼して見せたり、曲によってはマイクにセットしたらしきカメラでニール・ヤングの口もとをアップにした映像だけを延々と見せたり。

 冒頭のドライブのシーン等もふくめ、そういうジョナサン・デミの映像作家としての自己主張が感じられる部分がけっこうあって、被写体との距離感という点において、どことなくジャン=リュック・ゴダールがストーンズを撮った『ワン・プラス・ワン』に近いものを感じた。

 まぁ、この作品でしか聴けない曲とかもあるようだし、ニール・ヤングの思い出話とかも含めて、コアなファンにとっては貴重な作品には違いない。

(Apr. 26, 2025)

ロスト・イン・トランスレーション

ソフィア・コッポラ監督/ビル・マーレイ、スカーレット・ヨハンソン/2003年/アメリカ、日本/Amazon Prime

ロスト・イン・トランスレーション

 ずっと気になっていたのに、配給元がマイナーな東北新社だからか、DVDは廃盤になったままだし、テレビ放送もないしで、なかなか見る機会が作れなかったこの作品。

 しばらく前にアマプラに登場したので、ようやく観られる!――と喜んだくせに、すぐに観なかったのが失敗。途中でCMが入りやがりました。

 この四月からアマプラにもCMが入るようになったという噂は聞いていたけれど、映画が始まる前はともかく、映画の本編途中にも入るとは……。

 しかも二分間もがっつりと。この映画は二時間もないから途中一度だけだったけれど、もっと長いやつだと途中に二回目が入ったりするんだろうか?

 いずれにせよもうアマプラでは映画は観れないなぁ……観るんならばCM抜きにする追加料金が必須かなぁと思った。

 でもまぁ、このところ集中力が落ちているので、途中で強制的に中休みさせられるのも悪くないかなと思ったりしなくもない。

 あとで確認したら、これを観た直後にWOWOWの放送があったり、六月にはBlu-rayの発売が決まっていたりもして、そういう意味でも観るタイミングを間違った感がすごかった。やれやれ。

 さて、そんなこんなありつつ、念願かなってようやく観られたこの映画。

 ビル・マーレイとスカーレット・ヨハンソンが言葉の通じない東京にやってきて困る話――というくらいの認識だったら、あたらずも遠からず。とにかく物語は全編日本が舞台だった。

 ウィスキーのCM撮影のために単独来日した俳優役のビル・マーレイと、カメラマンの夫についてきた大学を出たばかりの新妻スカーレット・ヨハンソンが、滞在する同じホテル(パークハイアット東京)で出逢い、エキセントリックな東洋の大都市で孤独にさいなまれる者同士、少しずつ親交を温めてゆく。

 公開は2003年だから、撮影がその前の年だとしても、いまから二十二、三年前。そのころの新宿、渋谷、京都なんかの風景がアメリカ人の視点で写し取られている。

 ところが。これが非常にうさんくさい。なんだろう、このバッタもん感。

 二十年前っていまの僕らの感覚からするとさほど昔って気がしないのだけれど、なんかとても古めかしい。あのころのわが故郷・東京ってこんな感じでしたっけ?――と首を傾げたくなるような違和感たっぷりの映画だった。

 使われている音楽は当時のシューゲイザー系のオルタナティヴ・ロック中心で、まさに僕にとってはツボ。

 それもそのはず。音楽を手掛けているのはマイ・ブラディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズだった。なるほど。そうと知って観たいと思っていたのかもしれない(だとしてもすっかり忘れていた)。作中で流れるマイブラ・シグニチャーたっぷりの曲も彼のソロ名義だそうだ。

 あと印象的だったのがスカーレット・ヨハンソンの若さ。彼女の出演作品ってだいたい時系列で観てきているので、若いころからそれほど変わった印象を受けていなかったけれど、過去にさかのぼってこの作品を観たら、やたらと初々しくてびっくりした。

 日本が舞台ではあるけれど、それほど有名な日本人は出てこない。僕がわかったのはダイヤモンド・ユカイ(うさんくさいCMディレクター役。似た人だと思ったら本人だった)と藤井隆くらい。後者は当時に実際放送されていたという番組のシーンにカメオ出演している(とうぜんそんな番組、僕は知らない)。あとうちの奥さんが知っていたのはHIROMIX(最後にVサインしている人)。それくらい。

 とにかく当時の自分がどっぷりと浸っていたジャンルの音楽をBGMに、若き日のスカーレット・ヨハンソンがわれらが故郷・東京で過ごす一週間を描いたこの映画。

 ノスタルジックな気分を煽る要素をたっぷり含んでいるにもかかわらず、僕らの知らない東京の別の顔ばかりを見せられて、ノスタルジーよりもむしろ違和感が勝ってしまうという、なんともいえない気分にさせられる作品だった。

(Apr. 30, 2025)