ストップ・メイキング・センス
ジョナサン・デミ監督/トーキング・ヘッズ/1984年/アメリカ/Amazon Prime
気になっていたのに観たことがなかった映画を観ようシリーズその三。八十年代に絶賛されたトーキング・ヘッズのコンサート・フィルム。ジャケットに使われているデヴィッド・バーンの四角いどでかスーツがインパクト大で、ずっと観なきゃと思っていた作品。
トーキング・ヘッズは八十年代の音楽シーンで一世を風靡したバンドなので、ロック・ファンの基礎教養としてアルバムはひととおり聴いているのだけれど、ファンというほどのめり込んだことがない。この作品もCDは持っていて、音源はとりあえず聴いているものの、いまいちピンとこなくて、一、二度聴いておしまいくらいの状態だった。
今回あらためてそのライブを映像つきで観てみて、あ、これってこういうライブだったのかと、初めてその時代を先取りしたオリジナリティを再認識した。
なにもない映画スタジオの倉庫みたいなステージに、まずはデヴィッド・バーンがひとりで登場。ラジカセでリズムトラックを流しながら、アコギの弾き語りでファースト・アルバムの代表曲『Psycho Killer』を聴かせる。四十年前だから機材こそ古いけれど、やっていることがまるでヒップホップ。
二曲目でギターとベースのメンバーが登場、三曲目でドラムセットが運び込まれ、ようやくフォーピース・バンドとしての本来の形になる。
その次の曲からは、女性コーラスやパーカッション、キーボード等、サポート・ミュージシャンが順次増えていって、がらんとしていたステージには彼らが演奏するためのひな壇も運び込まれ、ライブセットらしい体裁が整ってゆく。でもって六曲目で『Burning Down The House』――当時の最新アルバム『Speaking in Tongues』からのリード・シングル――が演奏される頃にはフルメンバーになっているという趣向。
それ以降も曲によって微妙にバンドの構成を変えながらコンサートは進んでゆく。
後半にはメンバーのサブ・プロジェクト、トム・トム・クラブの曲も演奏される。
いまと違ってコンサートでは演出らしい演出がなかった時代に、そうやってバンド編成やステージ構成などを様々に変えながら、バンドの音楽性の変遷を再現して見せたところが画期的だったんだろうなと思った。
まぁ、四十年も前の作品なので映像は地味めで、最近のハイビジョンのライブ・フィルムと比べると視覚的な刺激は少なかったけれど、内容自体はおもしろかった。
観ていてなにより印象的だったのは、デヴィッド・バーンのミュージシャンとしての素養の高さ。ボーカリストとして美声を聴かせるタイプではないけれど、その歌はとても通りがよくて説得力があるし、思いのほかギターも上手い(ギターを弾くイメージがなかった)。ほかの三人が目立たないこともあり、彼ひとりの存在感が際立っている。いまさらながら、トーキング・ヘッズって本当にデヴィッド・バーンのワンマン・バンドだったんだなって思ってしまった。
でも彼を除いたメンバーがトム・トム・クラブでヒットを放っていたりするので、じつはそんなことはないのか。うーん、よくわからない。
予想外だったのは、僕がずっと気にしていたオーバーサイズなデヴィッド・バーンのだぼだぼスーツ、あれが登場するのがライブの終盤なこと。ずっとあの衣装で通しているのかと思っていたら、それまでの大半はトレードマーク的な普通のスーツ姿だった。
あと、この映画の監督ってジョナサン・デミなんすね。知らなかった。そうか、『羊たちの沈黙』よりも先にこれがあったんだ。
(Jun. 07, 2025)